第3話 家族の為に
イジメが起こる原因はなんだろう?
俺が居なければ起こらないのだろうか?
いや、きっと他の"弱い奴"を見つけてイジメは繰り返される。
現実でもネットでも、みんな自分より下の人間を見つけては必要以上に叩きたがる。
そうすることで、自分が偉くなったとでも勘違いしたいんだろう。
そんな人間心理は、どこに行っても変わらないようで――。
「おいコラ! この糞ボケカスがっ! 料理作るのが遅せぇんだよ!」
アルバイト先の飲食店でも、俺の扱いは学校と似たようなモノだった。
「堂島が連れてきたから雇ってやってるけどよぉ! タラタラ仕事してんじゃねぇよ!」
「す、すみません……」
そう、俺は堂島の紹介でここでアルバイトをしている。
堂島はクラスで俺の事をサンドバッグにしていた彼だ。
もちろん善意で紹介された訳じゃない。
俺は"紹介料"として堂島に給料の半分を持っていかれてしまう。
「週末から近くで国際展示会があるからよぉ、外国人のお客さんが沢山来るかき入れ時なんだよ! そん時は包丁で指を切ろうが、食洗器に手を挟んで骨折しようが死ぬほど働いてもらうからな!」
「は、はい……頑張ります」
別に俺は仕事が遅いわけじゃない。
キッチンスタッフとして、他の従業員以上に働いている。
ただ、この雇われ店長のストレス発散のはけ口として"弱い奴"である俺が標的にされているだけだ。
(ふぅ……ふぅ……身体中が痛い……)
イジメのせいでまだ痛む身体を引きずりながら、料理を作り続ける。
堂島が怖くて辞めたくても辞めれないというのもそうだけど、たとえ給料を半分に減らされてでも俺は必死に働いてお金を貯めなくちゃならなかった。
父親は酒浸りで、生活費は母親が一人で稼いでる。
俺は少しでもその足しになるように頑張って、できれば妹を大学に行かせてやりたい。
だから、俺が頑張らなくちゃ……。
「あ~あ、アンタ。またあのハゲにイジメられてるんだ~」
ホールスタッフの女子高生、金井さんがそう言ってカウンターからケラケラと笑う。
少しお店が空いてきたので、他のホールスタッフの女の子たちも集まってきた。
「でもまぁ、伏見は仕方ないよねぇ」
「そうそう、ずっとオドオドビクビクしてるし」
「だからイジメっ子の標的にされやすいんだよ~」
慰めるでもなく、ただ暇つぶしの為に、働いてる俺に話しかける。
でもそんな存在が、敵しかいないと錯覚する俺の心を少し癒してくれていた。
口をついてお礼の言葉が出てくる。
「ありがとう」
「――は? 何で感謝してるの?」
「みんなは……俺をイジメないでくれるから」
そう言うと、ホールスタッフの女の子たちは心底見下した瞳でため息を吐く。
「……ほんとーに情けないよね」
「うん、男として終わってる。ヘタレすぎ」
「イジメると言うか、興味がないんだよ」
「あ~あ、こんな奴に話しかけて損した」
すぐに俺を視界から消した彼女たちは、話題を変えて談笑を始めた。
そして俺はまた一生懸命料理の仕込みをしていく。
(俺が我慢していれば堂島たちに妹も手を出されない、働けばお金も貯まる。家族は……俺が守るんだ)
そんな気持ちを心の支えにして。
――――――――――――――
【業務連絡】
傭兵が転生した後の周囲の様子を楽しみにしていてください!
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