第5話 また死ぬのかよ!?

 

「――っ!?」


 俺――宮本龍二は気が付くと、首が細い紐のような物で圧迫されている状態だった。

 足が地面につかず、首吊り状態ハングドマンで部屋に吊るされていた。


(息ができない……!? いや、そもそも俺は戦場でミサイルの爆破に巻き込まれて死んだはずだ。息苦しいもクソもねぇはずだが……)


 俺は歴戦の傭兵だ。

 どんな状況でも冷静沈着に状況を打開してきた。

 それでも、死んだと思ったらまた死にかけてるだなんて状況は流石に想定外だ。


(何も分からねぇが、とにかくこの状況から生き残るのが最優先だ。紐は細いが、掴んで身体を持ち上げりゃしばらくはもつ)


 だが、自分のモノじゃないかのような細腕はすでに疲弊し切っているかのように重い。

 自分の体重を長くは支えられそうになかった。


 それでも緩くなった首元から数秒間は脳に酸素が送り込まれる。

 その間に俺は周囲を見回してここから生存するための方法を模索する。


(足が届く場所はない。机は……その端につま先が触れる程度だ。ここに乗ることはできない……)


 落ち着いて観察すると、机の上にペン立てがあった。

 そこに、ハサミも入れられている。

 そこまで考えた瞬間、腕が限界を迎えて俺はまた首吊り状態に戻った。


(あの場所までは足を伸ばしても届かない……靴下は……良し、履いてるな! なら――)


 自分があと何秒生存できるかを冷静に考えながら俺は両足を動かした。

 死の淵に瀕していることを理解しつつ、決して慌てず、騒がず、生き残るために一切の無駄を省いて効率的に動く。

 そうやって俺は何度も紙一重で死線を潜り抜けてきた。


 俺は右足に履いている靴下を上手く足だけで脱ぐと、それを右足の指の間に挟んだ。


(ここでミスったら終わりだ。焦るな……冷静に狙いをつけろ……)


 軽く勢いをつけて、右足を振りぬき靴下をペン立てに当てた。

 そうして倒れたペン立てから、お目当てのハサミが机にこぼれる。


 まだ足で取るには届かない。

 俺はもう一度、今度はゆっくりと足の先に挟んだ靴下をハサミにかぶせる。

 足の指先が届く机の端にまで引き寄せる為だ。


(視野が狭窄してきた……窒息死が近くなってきた証拠だ。だが、焦るな。ここで机からハサミを落としたら終わりだ……)


 ハサミを机の端ギリギリにまで引き寄せると俺は靴下を足の先から捨てて、ついにハサミを足の指で挟んだ。

 それを手に持ち替えて、首を吊っている細い紐を全力の力で断ち切る。


 ――ブチンっ!

 ――ドサッ!


「――ぷはぁ! ゲホッ! はぁ……はぁ……」


 そして、肺に空気を取り込んだ。

 あと1秒でも遅かったら意識を失っていただろう。

 紐はよく見るとLANケーブルだった。


(よし、ひとまず窒息死は免れた……だが、なんだ……? 頭が割れるように痛ぇ……)


 自分の身体が自分のモノではないような感覚はすでにある。

 同時に、自分の知らない記憶が大量に頭に流れ込んできた。

 ――堂島。

 ――イジメ、脅迫。

 ――罵倒、侮蔑ぶべつの数々。

 

 まるで自分が味わってきたかのように、俺の脳に他人の人生が流れ込む。


(ダメだ……意識を保てねぇ。この部屋が安全かも分からないがとにかく、身を隠す場所を……)


 朦朧とする意識の中、俺は広くもない部屋を這って移動する。


 そうして、ベッドの下に身を隠し俺は再び意識を失った……。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

傭兵の技術を駆使して無双していきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る