66話 獅子熊共同戦線 ⅩⅩ - 嗚呼、我が家

「ふぅん、アンタがねぇ……」


「いやぁ、タダ者ではないと思ってたけどさ。いやホントに」


「いっ、いよいよ本格的に婿迎えの計画を本格的に考えなくてはぁ……っ!」



 ゴールドシップとの交渉、そして世間への大暴露から明けて翌日。


 俺は久々に『クラフターズメイト』のクランハウスを訪れていた。


 訪れていたというか、呼び出しを食らったと言うべきか。



「あ、あの……隠してたのは本当に申し訳ないんですけど…………」


「なに? なんか文句あるワケ?」


「いっ、いえ……何も…………」



 決して怒らせている訳ではないと思うのだが、どういう経緯か俺はリビングで正座させられていた。


 威圧感を放って詰めてきているのはアリアとネクロン、そしてパリナの3人。


 ムラマサは既に知っているとして、ミロルーティはPvP大会の時にムラマサやLionel.incとそういう話をしていたらしく、あまり驚いてはいないようだった。


 というかミロルーティが何かに驚く様子はそもそも想像できない。



「楽しかった? 『実は最強戦闘職な俺がセカンドキャラは生産職で美少女に囲まれてスローライフ』? ラノベみたいなことしてたワケだけどっ!」


「まさかまさか。美少女に囲まれたのは運が良かったからですし、スローライフなんて言えないくらい忙しいですよ」


「美少女は否定しないんだね。実はくまっち結構手慣れてる?」


「何言ってんだよ。編集可能なアバターなんだからそりゃ美少女だらけでしょう」


「あのぅ、実はアリアさんはほとんど編集してないんですよぉ……?」


「んなっ! パリナそれ余計な一言だからっ!」


「いや本当に、身バレに繋がるからそういうのは言わない方が良いですよ」


「アンタはもうちょっと恥ずかしがるとかしなさいよっ!」



 恥ずかしがれと言われてもな……。


 もしパリナの言葉が本当なら、アリアは現実でも美人だってのは疑いようのない事実だしな。


 確かに俺から進んで「美人ですね」なんて女性の容姿に言及すれば、それはセクハラになりかねない発言になるが、後出しされたならそれは今更俺が気にする事でも無いと思うんだが。



「隠していたのは謝ります、すみませんでした。一応、そのうち明かすつもりではあったんですよ。こんなに早くその時が来るとは思ってませんでしたけど」


「なんで隠してたの? 『Night†Bear』みたいにそれが武器のひとつにもなったじゃない」


「それは最初から考えてなかったですね。だってつまらないじゃないですか」


「だけどくまっち、完っ全に生産職は初心者だったよね? プライドがあるとかそういうんでもなかっただろうに」


「まあ……そこはゲーマーとしてのこだわり、かな」


「そんな初心者が、今やぁ……。なぁんか感動ですねぇ……」


「お世話になりました。皆さんのおかげで大きくなりましたよ」


「アンタはずっと図体デカかったでしょうが」


「アリア、そういうトコだと思うよ」



 こう、何か大切なところを“ハズし”てしまう感じが……アリアが恋愛できない一因な気がしないでもない。


 というか本当にアリアは恋愛できてないのだろうか。


 こっちではああ言っているだけで、現実では相応にモテてるんじゃないか?


 だってあの見た目で、あの面倒見の良さだぞ。


 ちょっと勝気なところは可愛げが無いと言われかねないが、それでも共働き希望だとか専業主夫希望の男性からは優良物件な気が……。


 ……いかんいかん、そういう見方がもうセクハラだな。


 俺はアリアの何なんだっつーの。



「それで? 今後はアタシ達、どういう風に接すれば良いワケ?」


「はい? どう接する、とは」


「だーかーらっ! アンタがあの『Spring*Bear』だったんでしょ? いくら生産職専門のアタシと言えども、アンタが本当に凄いユーザーだってコトくらいは知ってる。というか普通に公式が上げてるPvP大会の動画とか観てたし」


「まさか……頼めば敬語使ってくれるんですか?」


「だって間違いなく年上じゃない? サービス開始初期からやってるワケだし」


「え~。あたしは今更敬語とか怠いんだけど」


「ネクロンは良いんじゃない? アタシがそのへん気にするってだけだから」


「別に気にしなくて良いですよ。『Spring*Bear』は戦闘職ではそこそこ頑張ってましたけど、アリアさんと比べたら大したことないですし」


「あっ、アンタ……謙遜も過ぎれば煽りになるわよ…………?」


「そだねー。片やPvP大会連覇記録持ち、片やPvP大会副企画のドレスコンペ万年敗退だもんねー」


「す、すみません……そういうつもりじゃ…………」


「謝らないで、余計にクるから」



 いやいや、本当にアリアの方が凄いと思うんだよ俺は。


 勝者であり続けるのは、案外簡単なものだ。


 ただ走り続けていれば良いのだから。


 常に全速力で走り続けていれば、いつまでもトップで居続けるだけ。


 眼前に追うべき目標が無いのは確かに走り難さはある。


 が、そんなものは隣に並び立ってくれる相棒が居さえすれば問題にならない。


 そう思えば、俺がいつまでもトップユーザーでいられたのはどんぐりのおかげだったのかもしれないな。


 それと比べ、敗者でありながら走り続けられる人は、強い。


 進んでも進んでも追い付けない背を前に、それでも足を止めないってのは、相当の根性が無くてはできない。


 いつか勝つ為に、そう思い続けられる心の強さは、少なくとも俺には無いだろう。


 だから俺からすれば、アリアの方がずっと凄い人なんだ。



「たっだいまーっ!」


「戻りました~。お説教は済んだかしら~?」


「あっ、おかえりなさい。アリアさんが俺に敬語を使うことになりましたよ」


「えっ? 結局使わなくちゃいけないのアタシっ!?」


「あっははっ! それは面白そうな光景が見られそうだねっ!」


「そうなると、ムラマサ以外はみ~んな敬語かしら~?」



 その瞬間、俺の妄想力が全速で稼働したッ!



『おかえりなさいませ~、くまさん様~。おかえりなさいのぎゅ~ですよ~、うふふっ』


『くまさん様のために、アタシが全員分のメイド服を仕立てたんです。アタシ、に、似合ってる……?』


『ほらほら見てよご主人様、このパリナのどスケベな乳袋とミニスカタイツの絶対領域。最高じゃね? ほれほれ揉みしだいてやるー!』


『はっ、恥ずかしいですぅ……。でも、旦那様のためなら私ぃ……』



 妄想だからセーフ、妄想だけだからセーフッ!



「くまさんクン、なんかエラく楽しそうだね?」


「気のせいです。敬語も嘘です。これまで通りの接し方で大丈夫ですよ」


「そ、そうよね……。一応形式上の確認みたいなものだったから、ちょっと焦ったじゃない……」



 真面目というか何というか。


 それもまたアリアの良いところか。



「あっ、すみません! そろそろLionel.incさんのところに行かなくちゃならないので!」


「えー、せっかくボクが帰ってきたのにもう行っちゃうのかい?」


「すみません……取材対応とか、もう仕事が山積みでして」


「ふふっ、ジョーダンだよっ! だってこれが終わったら、ふたりっきりでデートしてくれるんだもんねっ?」


「あら~~~~~~」


「なにっ!? アンタ達デートすんのっ!? どういうコトよっ!?」


「進んでますな~」


「最後に私の隣に帰って来てくれると信じてますからぁ……っ!」



 アリア達の追求を何とか逃れ、俺はクランハウスを出た。


 短い時間だったが、久しぶりにクランメンバーと過ごせて気が休まった。


 ここ最近は、Lionel.incとずっと一緒で息が詰まりっぱなしだったからな。


 もちろんLionel.incが悪いとかそういう意味じゃなくて、真面目に生産職としての仕事に集中していたからという意味だ、誤解の無きよう。


 よし、この事業も大詰めだ。


 商売敵の嘘を盛大に暴いてやったとはいえ、油断して良い理由にはならない。


 喝を入れ直し、最後まで走り抜く決意を固め直した。


 なんたって俺には、5000万ゼルもの借金があるのだから。


 俺は意識のスイッチを切り替えるべく、ワープポイントを使わずに徒歩でLionel.incのハウスへ向かった。


 通りに掲示されている俺達の広告が、今日も人の目を集めていたのだった。



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