62話 獅子熊共同戦線 ⅩⅥ - 好転
「黒幕が分かりました!」
Lionel.incのハウスに戻ってきた俺は、駆けこむや否や喜び勇み報告した。
『マスターはただいま外出中です』
返事は“機械人形”からだった。
外出中か、それなら待たせてもらった方が良いだろうか。
「Lionel.incさんはいつ頃戻ってきますか?」
『夜になると仰っていました』
個室の掛け時計はデジタル表記で16:30を示している。
待つにしても手持無沙汰になってしまうな。
いや、それまでじっくり生産をしても良いか?
「客間をお借りしても良いですか?」
『どうぞ』
“機械人形”の許可を得て、客間に入る。
もう何度も使わせてもらっており、室内の冷蔵庫にはパリナから貰った“レッディサワー(ノンアルコール)”のストックを置かせてもらうまでになった。
初めはLionel.incから苦い顔もされたが、実際に飲ませてみると納得してくれた。
それどころか、今や彼も常飲しているほどである。
さすが、我らが『Party Foods』の売れ筋商品だ。
「さてと、やりますか」
空になった“レッディサワー(ノンアルコール)”の容器を傍に置き、光の粒子になって消えるのを待ってから、生産の準備をする。
室内のチェストから必要素材を取り出し、一旦床に
腰の“使いやすいハンマー”……ではなく、クラスレベルの上昇に合わせて装備更新を行った“匠のハンマー”を装備する。
【大量生産】や【匠の仕事】などの
腰の“使いやすいハンマー”は見た目だけの飾りだ。
素材を手元に置き、ハンマーを思いっきり振り下ろす。
カンッ!
気味の良い音が鳴る。
二度、三度と叩くうちに、鉱石だった物が光り輝きその輪郭線を失っていった。
次第にカタチを変えてゆくそれはやがて、片手剣の形になりゆく。
そこから更に四度、五度と叩く。
カキンッ!
何度目かのそれは、これまでとは少し違った音を鳴らした。
すると素材が光を失い、明確に、明瞭に、片手剣の輪郭を現したのだった。
慣れたものだ。
もう何度、鉱石を叩いたか分からない。
それだけ『
だからこの慣れが誇らしい。
『Additional Power Level UP !!』
突然、視界のど真ん中にアナウンスメッセージが表示された。
これらは、それらが付与された装備を身に着けてクラスEXPを稼ぐと、一定量貯まったタイミングでランダムでレベルが上がる。
これまで幾度となくそのチャンスはあったが、俺は不運にも
まあ、生産時に
さて、【大量生産】と【匠の仕事】のどっちが上がったんだ?
名称:匠のハンマー
レアリティ:☆☆☆☆☆☆☆
品質:79
ATK:5
必要パラメータ:鍛冶士LV.60
アディショナルパワー
・クラスEXP+100%
・大量生産LV.2
・匠の仕事LV.1
「おっ、【大量生産】か!」
この事業に直接的に役立つのは【大量生産】の方だから、できればこっちであってくれと祈っていた。
これはツイてるぞ!
【大量生産】はただシンプルに、生産時の完成品の数が増えるという効果だ。
LV.1なら生産数は2つ、LV.2なら生産数は3つだから、俺個人の生産効率は単純計算で1.5倍になる。
生産速度が上がればそれだけ多くの生産依頼を捌けるようになる。
ツキってやつが回ってきたんじゃないか?
────ガチャリ。
玄関の方でドアが開く音が聞こえた。
廊下をパタパタと歩く“機械人形”の足音も聞こえる。
Lionel.incが帰ってきたらしい。
ちょっとワクワクしてきたな、なんたって良い知らせが2つもあるんだから。
1つは転売の黒幕が『Night†Bear』だと判明したこと、もう1つは俺のハンマーの【大量生産】がレベルアップしたこと。
喜んでくれるだろうか、それともいつも通りの仏頂面で流されるだろうか。
まあ彼のリアクションは何だって良い。
重要なのは、俺達にとって状況が好転し始めているという点だ。
「どこだ、帰ったぞ」
廊下で俺を探すLionel.incの声が聞こえた。
俺は生産の手を止め、冷蔵庫から“レッディサワー(ノンアルコール)”を2本取り出してから廊下に出た。
「…………えっ」
「はぁ!?」
ひとつめの疑問符は俺の口から、ふたつめの驚愕は、まさかここで再会するとは思っていなかった少女の口からだ。
「ななっ、なんでくま畜生なんかが居るんですかっ!?」
「それはこっちのセリフですよ! どうしてミカリヤさんがここに!?」
稀代のアリアラヴァー、愛の伝道師にして殺戮のイニシエイター・ミカリヤがそこに居た。
「何だ、お前ら知り合いか」
「知り合いではありませんっ! 粛清対象ですっ!」
「そうか、それは大変だな」
「というかミカリヤさん、なんかミステリオさんと仲違いしてるとかなんとか」
「っ! …………まあ、方向性の違いです」
やべっ、もしかして地雷踏んだか。
ここはLionel.incに話を振って誤魔化すとしよう。
「どうしてミカリヤさんと一緒なんですか?」
「直々にクラン移籍の相談をされてな」
「『Initiater』辞めるんですか? じゃあ『The Artist』に?」
「まさか、わたくしでは『The Artist』ほどのクランには相応しくありません。なので移籍先候補について相談してたんです。というかくま畜生には関係ない話ですけどね!?」
おいおい、PvP大会でお姫様のドレスだっけか?
その公式コンペでアリアを負かして選ばれておきながらなんてことを言うんだ。
「関係あるだろう。候補として『クラフターズメイト』も挙がっているんだから」
「んなっ! 何で言うんですかっ!?」
「貴女……アリアさんに近付きたいだけですよね…………」
「そうですけど何かっ!?」
不純過ぎるだろ、その志望理由。
「でも、それだけではないですから」
「と、言いますと?」
「わたくしにも、いち生産職としてのプライドがあるってことです」
「ミステリオさんと袂を分かったのは、『Night†Bear』とのコラボが嫌だからですか」
「……ええ。ああも安く見られるのは、いくら何でも許せませんから。もちろんくま畜生ともコラボなんてしませんけどっ!」
「そう仰らず、そのうちアリアさんも交えて何かやりましょうよ」
「お前は金だけ出してください」
「ブッ殺すぞテメェ」
今のは本音と建前がひっくり返ったとかではなく、言おうと思って言った心からの罵倒である。
「くまさん、事後報告になって悪いが、一部コイツに手伝ってもらうことにした」
「Lionel.incさんの判断なら構いませんよ。で、何をしてもらうんです?」
Lionel.incは俺の手から“レッディサワー(ノンアルコール)”を受け取り、ひと口含んでから、椅子に堂々と座った。
彼らしくない悪い笑みを浮かべて、答えた。
「────スパイだ」
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