53話 獅子熊共同戦線 Ⅶ - 代役大集合!

 俺は今、猛烈に焦っている。


 真っ昼間の酒場で、死んだ目をして擬似アルコール飲料を煽っていた。


 俺もLionel.incも共に試作品の生産が済み、いよいよ本生産​────ではなく、広告写真撮影の予定を明日に控える状況であった。


 にもかかわらず、モデルとして来てもらうはずだった戦闘職ユーザー6人そのすべてからお断りの連絡が着たのだ。


 そんな同時に6人もだなんて、何らかの圧力が掛かっているように感じてしまうのは被害妄想が過ぎるだろうか?


 さあどうする、くまさん


 元々このモデル探しは俺の管轄だった。


 Lionel.incは撮影を担当しているから、明日に向けてロケーション探しをしているらしい。


 できることなら俺だけで解決したいが、しかし……。


 探さなくてはならないのが、鎧・軽装・ローブを着られる男女、計6人だ。


 軽装とローブを着られる戦闘職なら、なんとか俺のフレンド​──クランメンバーとシズホくらいしか居ないが──から連れてくることができるが……知り合いに男が居なさすぎる!


 仕方無い、善は急げだ。


 俺はまず、シズホに個人チャットを送った。


 新たにLionel.incと共に事業を行う旨、それに際して広告写真モデルが必要な旨、そしてもちろん報酬は払うという旨、更にもし知り合いで各装備を着られる戦闘職ユーザーが居れば紹介してほしい旨まで伝えた。


 それはもう丁寧に丁重に、ビジネスメールの要領で文面を綴った。


 返信はすぐに返ってきた。



『お久しぶりです、もちろんお力添えさせてください。実はくまさんさんにご報告したいこともあったので、呼んでいただけてとっても嬉しいです。知り合いにも伝手があります、その方々と一緒に向かいますね』



 よし、よし、よォしッ!!!


 ひとまず軽装女性枠は確保!


 あとはシズホが連れてくる人次第だが、できれば男性ユーザー多めだと助かるんだがな……。


 しかしなシズホのことだ、男性の知り合いは少なそうだぞ……。


 まもなくして、酒場の入り口が開いた。


 現実ではありえない、連絡から5分足らずでの到着である。



「お待たせしました、くまさんさん」


「ありがとう、本当に助かっのわぁあああああああああああ!!?!?」



 確かにシズホは知り合いを連れてくると言った。


 しかしその知り合いってのがまさか、まさか……。



「2度目ましてだなァ! よく分からんがよろしく頼むぞォ! ガハハハハッ!」


「ライオにいが絡んでるってなら断れないっスよ! よろしくっス!」


「聞き及んでいますわ。あなた、わたくし対策でシズホさんの武器に【お百度参り】を仕込んだ方ですわよね? あの時は恐れ入りました、いつかはわたくしにも装備を提供してくださいな」


「なっ、ンなっ……な、なんで!?」


「実は私、PvP大会の後にどんぐり亭さんからスカウトされたんです」


「えっ、シズホ『The Knights古参の会』に入ったのか!?」


「はい」


「ウム! シズホの成長は目覚しいぞォ! これはスプベアの後を継ぐことになるやもしれんなァ!」


「何言ってんスかどんぐりパイセン! ベアー先輩の後を継ぐのは、現“最強”の俺っスよ!」


「いえ、ベアー様の後は誰にも継げませんわ。あの方は至上にしてオンリーワン、永久欠番です」



 コイツら、本当に変わらないよな……。


 サイジェン島で会った時はすぐに退散したが、今回はもう少し話せる機会を作ってみよう。


 俺の居なくなった後のクランの様子とかも気になるしな。



「くまさんさん、私、どうでしょうか?」


「どう? …………あっ、あぁああああああああ!!!」



 シズホの武器が……武器が!


 弓じゃなくて魔導狙撃銃に変わってる!



「ってことは!」


「はい、遂に3次職になれました。やっと、『Spring*Bear』さんと同じ魔銃士になれたんです」


「良かった! 本当に良かった! おめでとう、よく頑張った!」


「ありがとうございます。だけど私の夢は、彼のような魔銃士になることです。つまり…………いつかグラ助さんを破って私が“最強”になります!」


「あら、言われてますわよグラ助」


「ハハッ! まだまだ負けるつもりはねーっスよ!」


「しかし先日の決闘では惜しかったがなァ!」


「いやだってあの“機械人形”、機能増えてたじゃないっスか! そのうち巨大ロボットにでも変形しちまいそうっスよ!」


「そそそソンナワケナイジャナイデスカー」


「シズホちゃん!? 俺巨大ロボット対策しといた方が良い!? マジで変形しちゃうっスか!?」



 シズホも何だかんだこのクランに馴染んでるみたいだ。


 もうすっかりどんぐり達3人と息が合っている。


 そんな様子を眺めていると、嬉しいのはもちろんなんだが、どこか寂しさも感じている俺が居る。


 それは俺の初めてのお客さんであるシズホが取られたように感じているからなのか、それとも俺の居場所だった場所が取られたように感じているからなのか。


 何にしても、それはわがままだ。


『The Knights古参の会』はシズホにとっては最高の環境だ、これからも応援しよう。


 ……さて、仕事モードに切り替えよう。


 軽装男はグラ助、ローブ男はどんぐり、鎧女はヤマ子、軽装女はシズホで良いとして……。



「あとは鎧防具を着られる男と、ローブが着られる女性だな……」


「ああ、新しく売り出す装備の広告写真っスもんね。鎧ならワノブジンが装備できるんで、俺が軽装と兼役で良いんじゃないっスか?」


「それは最終手段ですね。できればすべて別のユーザーにしたくて」


「なーるほど。ローブ着られる女の子だったらウチから呼べるっスよ。呼べるっスよね、パイセン」


「ウム! 魔法職の女性なら何人か居たはずだァ! 急遽予定が合うかは分からんがなァ!」


「うーん、難しそうですわ。女子会グループチャットで呼び掛けましたけれど、皆予定アリとのことです」


「そうですか、それは困ったな……」


「あれ、そういえばサイジェン島の時……赤髪の子とミロロ姐さんが魔法職じゃなかったっスか?」



 ああ、そういえばあの時は急遽戦闘職に切り替えてもらっていたんだっけ。


『The Knights古参の会』から呼べないとしたら、やっぱりウチから呼ぶしかないか。



「そうですね、そうしましょう。モデルになってもらうならどっちが良いと思います?」


「わたくしは赤髪の……アリアさんでしたよね。そちらの方が女性ウケが良いように思いますわ」


「同感です。私も朱……こほん。アリアさんが良いと思います」


「俺はミロロ姐さんの方が良いと思うっスけどねー。やっぱスタイル抜群で目に付くじゃないっスか!」


「オレはくまさん殿に任せる! その辺のセンスが皆無なものでなァ! ガハハハハッ!」



 うーむ、意見が割れたか。


 俺としてもグラ助と同じで、絵面的にインパクトのあるミロルーティを推したくはある。


 しかしヤマ子とシズホの女性陣の意見もごもっともである。


 性的な魅力を強く押し出せば男性ユーザーの目は惹き付けられるだろう。


 が、しかし、男性ユーザーは女性向け装備を買うことは無い。


 とすればやはり、女性向け装備のターゲットである女性ユーザーに寄り添った人選が正解か。



「アリアさんに頼むことにします。もし予定が合わないのであればミロロさんで。それもダメだったら……俺が何とかして街中でスカウトしてきます」



 話はまとまり、翌日。


 Lionel.incの指定した待ち合わせ場所はサイジェン島の秋気候エリアにある紅葉谷もみじだにだった。


 朝6時集合、いくらここが人気な行楽地だとしても、こんな朝っぱらから観光に来ているユーザーは居なかった。



「おいくまさん」


「はい、どうかしました?」


「なんだこの大所帯は」



 と、Lionel.incは俺達2人から少し離れた距離でワチャワチャ騒いでいる人溜まりを指して言った。



「いやぁ、いい景色っ! 紅葉狩りに打って付けのロケーションだねっ!」


「一年中そうだけどね〜」


「というか観光が目的じゃないんだからね?」


「まあまあそうカリカリしないでよアリア、街頭広告に眉間に皺を寄せた顔が載っちゃうよ?」


「お弁当作ってきたので、休憩の時に食べましょうねぇ。見てますかくまさんさーん! 花嫁修業&アピールタイム、本日より再開ですよぉー!!!」


「パリナっちの弁当めっちゃ楽しみっス!」


「こらこらグラ助、そんなにそそっかしいと崖下に真っ逆さまですわよ」


「ヌ? どうしたシズホ、やけに大人しいがァ?」


「…………ふぁあ」



 モデルの皆はともかくとして、何故か『クラフターズメイト』メンバーが全員着いてきてしまった。


 俺の古巣と今の巣がこうして仲良く……なんだか感慨深い光景だな。



「パリナさんの弁当、楽しみですね」


「そんな話はしていない。何故、ムラマサが居る……というかモデルも身内だらけじゃないか」


「いやぁ、知り合いが少ないもんで」


「まあ、皆知名度は十分か……。良いか、昼までに終わらせてさっさと解散するぞ」


「えっ、パリナさんの弁当食べないんですか?」


「分けて詰めてもらう」



 食べたくはあるんだ。



「もしかしてムラマサ先輩を避けてます? PvP大会では一緒に仕事したんですよね?」


「公私は分ける」


「今日のは仕事でしょう」


「アイツはモデルじゃないだろうが」


「……なんでそんな感じなんですか? 旧クランが分裂した時も円満だったって聞きましたけど」


「…………………………ノだからだ」


「はい?」


「…………元カノだからだ」


「はぁッッッ!!?!?」


「ったく、やはり俺がモデル探しをするんだった…………」



 Lionel.incは皆に合流し、撮影地への案内を開始した。


 俺はどうにも、誰かと楽しく会話をしながら歩く気にはなれず、最後尾で景色だけを見ながら歩いた。


 …………いやいや、なんで俺、ちょっとイライラしてるんだ?


 いい歳した大人の男がまさか嫉妬か?


 あぁ、見苦しい。


 俺は頭をリセットすべく​────丁度目の前に居たパリナの頭にチョップした。



「あいたぁっ! なっ、なんでぇ!?」


「結婚します?」


「良いんですかぁ!? 申請送りましたぁ!!!」


「拒否、っと」


「弄ばれたぁ!?」



 よーし、Lionel.incの撮影サポート頑張るぞぉ!

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