50話 獅子熊共同戦線 Ⅳ - 友から借りるな、と父は言った
「金を貸してくださいッッッ!!!」
ある休日の昼下がり、クランハウスのリビングにて、俺は臆面もなくクランメンバーに土下座して金をせびっていた。
ただし、ムラマサはその場に居ない。
都合よく、珍しく、現実での用事があるらしく今日はログインしていなかった。
「おっ! 遂に賭け麻雀に手を出した破滅した?」
「もしそうだとしたら絶対に貸さないから」
「あら~、ネクロンさんには散々貸してたのに~?」
「それで後悔したから貸さないのよっ!」
「ま、まあまぁ……まずは事情を聞いてみませんかぁ……? 私としては貸してもいいんですけどぉ…………」
パリナはそう言ってくれているが、俺が今必要な金額は30万ゼルと高額。
Lionel.incとの共同事業に充てる資金は手出しで10万ゼルずつ用意し、残りの100万ゼルを他の出資者から借りるという話になった。
Lionel.inc曰く、「懇意にしてもらってる出資者が居る、借りねば却って失礼にあたる」とのことらしい。
彼が70万ゼルを知り合いの出資者から借りるとして、残りの30万ゼルを出資してくれる相手は俺が探さなくてはならない。
第一候補がクランメンバーというのは我ながらどうかと思うが、他に宛てにできる知り合いも居ないため仕方が無かった。
…………俺、案外知り合いが少ないんだな。
「なるほどね、そういう話なら少しくらいなら出してあげても良いわ」
「わたしも出すわ~。だけどわたしは融資ではなく出資ってことで良いかしら~?」
「融資じゃないってことはその、厳密には返済義務が発生しませんよね? それに主に事業計画を進めるのはLionel.incなんで、出資って形でもミロロさんが口出ししたことを彼が素直に聞き入れるかどうか……」
念の為、融資と出資の違いを補足しておこう。
融資は借した金に利息が付いて返ってくるが、代わりにそれ以上のリターンも無ければ一切の口出しを許されない。あくまで金を貸すだけ、それ以上でも未満でもない関係である。
対して出資は、出した金が返ってくることは基本的に無い。現実で言うところの株式会社ならば出資先の株式を貰え、株主として金を出した事業に対して口を出したり経営そのものに参加できる。
簡単にまとめると、融資は金を貸すだけ、出資は金出してやるから一枚噛ませろ、という違いである。
もちろんこれらは分かりやすく、簡潔に表しただけであるから、諸兄はこれだけを投資のすべてだとは思わないようにしていただきたい。
「ああ、そういうコトが言いたいんじゃないのよ~。返済はしなくて良い、代わりにそのうち一緒にお仕事ができたらいいな~ってだけよ~」
「じゃあ今回の事業には口は出さない、と?」
「ええ、そういうコトね~。ふふっ、だって可愛い後輩が大きな事業をやろうとしているのよ~? 応援したいじゃない~」
「ありがとうございますッ!」
「ちなみにアンタはいくら用意しなきゃいけないの? ミロロだけで用意できる額?」
「30万ゼルです」
「あら~~~~~~~~~~」
おっと、ミロロの様子が……。
彼女が「~」をめちゃくちゃに重ねたような言葉を発する時、言葉に迷っている時である。
さすがに30万ゼルを一般人1人から出してもらうには高額すぎたか……。
「いや、出せなくはないのよ~? だけどね~、近々お金が必要になる予定があるのよね~。それまでは節約しなくちゃならないというかね~」
「えぇ!? なのに出資してくれるんですか!? だったら融資の形式にするか、何だったらこの話は無かったことにしてくれても……」
「ううん! 一度「出す」と言ったからには出すわよ~。だけど出せるのは……そうね~、10万ゼルまで、ごめんなさいね~」
「いえいえ、少しでも出していただけるだけでありがたいですよ!」
なんて良い人なんだ……。
元よりこの事業を失敗で終わらせるつもりは無かったが、尚のこと成功させなくてはならないな。
「私も出しますぅ! ミロロさんと同じで出資というかたちで是非ぃ! アリアさんとネクロンさんが出さないのであれば、残りは私が出しますよぉ! 将来性のあるくまさんさんとの関係はもちろん、Lionel.incさんとも良い関係を築きたいですからねぇ!」
「アタシも出すわ。出せて……うーん…………ごめんなさい、3万ゼル程度だけど。入ってきてる生産依頼に使う素材を大量に買ったから、今あまり手持ちが無いのよね」
「ありがとうございます、いずれ何らかの形で恩返しさせていただきます!」
「ネクロンはどうするの?」
「んー、そうねー。出したいのは山々なんだけどなー。アリアへの借金も全然返せてないのに人に投資なんてして良いものやら……」
意外だ、賭博中毒のネクロンにもそれくらいの倫理観はあったんだな。
「融資にしたら良いんじゃない? 利息分だけでもアタシに返してくれれば良いわよ」
「おっ、まじ? だったら貸すよ。えっと、今どれくらい持ってたっけな…………あっ」
「どっ、どうしたんですかぁ……?」
「まさかネクロンお前……」
ネクロンは現在の所持金と、倉庫に預けている貯金額をタブに表示して見せてくれた。
……非常に申し訳なさそうな顔をして。
「何よコレ、小学生のお年玉じゃない」
「そうだったぁあああああああああああ!!! PvP大会で入ってきた賞金、全部サイジェン島のカジノでスったんだったぁあああああああああああああ!!!」
「あらあら~」
「合わせておよそ5,000ゼル、賭け麻雀の最低レート帯に入れる程度しか残ってないですねぇ……」
「はっ! パリナ天才! それだよそれ! これを元手に賭け麻雀で増やせば良いんだ! そしたらくまっちにお金貸せる!」
「お前今相当ヤバいこと言ってるぞ」
「いや待てよ……くまっちも一緒に賭け麻雀でお金増やせば良いじゃん! そしたら事業に充てる資金も増やせるんじゃない!?」
「それは名案だな。ただし、減る場合もあるってコトを除けばだが」
「何を弱気になってんだよ! それでもお前は雀士か!」
「雀士じゃないんだよ」
「うるせー! 麻雀打てたらみんな雀士だ!」
コイツ、現実でも結構危ない金の使い方してるんじゃないか?
これで現実では堅実に貯金してます、なんて言われたら逆に腹立つぞ。
「あり、じゃないかしら~」
「ミロロさんまで何言ってるんですか!?」
「あっ、別に賭け麻雀でお金増やしておいでって言ってるわけじゃないのよ~。カジノだったりそういう場所って、実はお金持ちが集まってるみたいなのよ~。だから運が良ければ、わたし達以外の出資者も見つかるかもって思ってね~」
「らしいわね。そっちが目的ならアリなんじゃない?」
「ア、アリアさんまで……」
「私はできるだけ多く出資したいので、できれば見つかってほしくないぃ……でも本当にくまさんさんの事を考えるのならぁ…………うぅ、ジレンマぁ」
「あたしも元からそれが目的だったけどね」
「ンなわけあるかよバカ」
「バカってなんだよ! ほらほら、そうと決まったら行くよ! もう指が牌を触りたいって疼いてんだよ!」
まあ、ネクロンはともかくとして、ミロルーティとアリアがああ言うのなら行ってみる価値はあるのかもしれない。
よし、ここは騙されたと思って賭場に行ってみよう。
大丈夫、俺は賭博中毒ではない。
現実では競馬はあくまで応援馬券──推し馬の単勝・複勝のみを低額で購入する買い方──しか買わないし、パチスロはやらない、賭け麻雀はあくまで友人間の低レートのみだし場合によってはタバコや酒で清算する時もあるくらいだ。
俺の目的は新たな出資者を見つけること。
その誓いを胸に、ネクロンと共に賭け麻雀が行われているという酒場に向かった。
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