攻略組に飽きたので生産職で大富豪を目指します。~爆乳師匠と美少女生産職たちに囲まれてマーケットを掌握する~
44話 2033 Summer PvP Battle Tournament ⅩⅧ - “最強”
44話 2033 Summer PvP Battle Tournament ⅩⅧ - “最強”
今はもう、遠い過去の記憶。
俺にとって一番楽しかった、背負うモノが何も無かった頃。
「ぐわぁー!」
「ふぅ、危なかった」
「ガハハハハッ! 惜しかったぞグラ助ェ!」
「ベア―様の150戦150勝ですわ」
「ほれグラ助、立てるか?」
地べたに横たわる俺に、ベアー先輩が手を差し出してくれた。
俺はその手を取り────。
「うぉりゃっ!」
────思いっきり引き、ベアー先輩まで倒れ込んだ。
「いってぇな!」
「一矢報いたっスよ!」
「いや、負けは負けですわよ」
「ウムゥ、何も報いておらんな」
「分かってるっスよ!」
俺は自分の力で立ち上がり、地べたに横たわるベアー先輩に手を貸して立ち上がらせた。
『The Knights古参の会』恒例の下剋上バトル。
クラン内最強、つまりゲーム内最強の座を賭けてベアー先輩に挑むという、ちょっとしたイベント事だ。
と言っても公式大会のような規模にはならないし、最近はほとんど挑戦者も居ない。
今回に至っては挑戦者は俺だけだった。
「今回は惜しかったな。負けるかと思ったぞ」
「いや、それ毎回言ってるっスよ」
「で、毎回ちゃんと勝つんですのよね。さすがベアー様ですわ」
「やはり“最強”はスプベアだなァ! ガハハハハッ!」
「チクショー! ベアー先輩、引退する予定は無いんスか? そうでもなきゃずーっとベアー先輩が“最強”のままっスよー!」
「引退? するワケないだろ。世界で一番『The Knights』を愛してるのが俺なんだから」
「そっスよねぇ……はあ、ワノブジン強化アプデ入らないっスかね」
「バカ言え。ワノブジンが強化される前に魔銃士が強化されるに決まってんだろ。もう何年強化入ってないと思ってんだよ」
ベアー先輩は“最強”だ。
そして間違いなく、次点には俺が居る。
ここ数回の公式大会でも優勝はベアー先輩、そして準優勝は俺。
その状況を俺は、非常に、それはもう非常に悔しく思っている。
他のユーザーからすれば、そりゃ準優勝だって華々しい結果ではある。
だが、それは消極的な感覚だ。
公式大会での優勝とはすなわち、戦闘職の中で“最強”であることの証明。
ならば準優勝だろうが予選敗退だろうが、皆等しく敗者なのである。
俺はいつまで、敗者の側に居続けなければならないのだろう。
「ここはベアー先輩の奢りっスから、ヤマ子も好きなモン食って良いからな!」
「勝手に決めてんじゃねえよッ!?」
「そうですわグラ助。自分のおまんまくらい自分の懐から払いなさいな。ご安心くださいませベアー様、先日大枚叩いて“自動麻雀卓”を5つも購入して金欠なことは存じております。わたくしはちゃんと払いますわ」
「えっ!? クランハウスにいつの間にか置かれてた雀卓、ベアー先輩のポケットマネーで買ったヤツだったんスか!?」
「まったくだスプベア。クラン共有貯金も余裕があった、そこから出せとオレも言ったのだがな。コイツは全然聞かんかったのだ」
「当たり前だろ。クランの金はメンバーの装備更新とか、攻略の為に使うモンだ。
「いや怒られないっスよ。今のとこクランメンバー全員麻雀打てるんスからね」
「それもそうか。でもまあ……良いよ、俺の財布からで。そんでここも俺の奢りだ。ヤマ子も好きなモン食って良いぞ」
「さっすがベアー先輩!」
「さすがベアー様ですわね。それでしたら遠慮なくいただきます」
「よォしオレも激盛りで食うぞォ!」
「どんぐりは自分で払え、俺より金あんだから」
「ヌゥ……」
ベアー先輩は何というか、施すのが好きな人だった。
一緒に飯を食いに行けば毎回奢ってくれるし、俺やヤマ子、その他クランメンバーの素材集めやダンジョン周回にも文句の一つも言わずに付き合ってくれた。
何故そんなに人に優しいのか、と直接聞いたことがある。
『他にやりたいことも無いしな』
恩を売っているでもなく、人によく見られたいとかでもなく、ただ暇だから、ベアー先輩は人に施しているのだ。
生粋のノブレスオブリージュ、貴族よりも貴族だわ、アンタ。
そんな人なのだ、俺がいつまで経っても勝てないワケである。
『どうしてグラ助は、それでもベアー様に挑み続けるんですの?』
何故だろう、俺自身でさえその答えが分からない。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
俺と戦っている時のベアー先輩は、めちゃくちゃ楽しそうなのだ。
どんなボスモンスターと戦っている時でも、公式大会で強敵とマッチアップした時でも、ベアー先輩は常に冷静なスナイパーで居続ける。
だけど俺と戦っている時はそうじゃない。
感情が湧き出ている。
俺の奇策が刺されば素直に悔しがってくれるし、俺の全戦闘職内最速のダッシュに単発狙撃を当てたら声を上げて喜んでくれる。
これはベアー先輩から聞いた話なのだが、魔銃士はスコープを覗いている時、感情が高ぶったり呼吸が乱れると狙いが定まりにくくなるらしい。
それでもベアー先輩は勝つ、絶対に勝つ。
だから『Spring*Bear』は“最強”なのだろう。
2030 Summer PvP Battle Tournament 決勝戦。
そこでも対戦カードは俺とベアー先輩だった。
俺はその試合をいつまでも忘れないだろう、それだけ印象的な試合、印象的な敗北だったのだ。
「魔力欠乏デバフ、これで魔導狙撃銃はただの金属棒っスねェ!!!」
「お前がそんな搦め手を使うようになるとはなッ!」
「今度こそ俺の勝ちっスよォ!!!」
これで最後、俺は渾身のダッシュ攻撃を仕掛ける。
ベアー先輩にこれを迎撃する手段は無いことは、その試合中に把握済みだ。
魔力欠乏デバフが回復する前に試合の制限時間が切れる。
HPの割合はベアー先輩がリードしているが、俺のスピードなら逃げ切りは許さない。
────刀身いざ接触、回避行動なしッ!
「勝ったと思っただろ?」
確かに斬ったと思ったのに。
一瞬、左手に軽い衝撃が走った。
本命の右手に集中し力を込めていたせいで、左手に持っていた日本刀を手放してしまった。
すかさずベアー先輩は落とした日本刀を宙でキャッチし、そのまま俺の脇腹を斬った。
左手の衝撃で気を逸らされた俺は本命攻撃が一瞬遅れてしまい、ベアー先輩の斬撃の方が速かった。
「やっぱベアー先輩は“最強”っスね」
「さっさとその名を継いでくれよ、重いんだぞ」
大会後の
「継げるもんなら継ぎたいっスけど、全然勝てないっスもん」
「何でだろうなぁ、勝っちゃうんだよなぁ」
「うわ腹立つー!」
「グラ助はさ、“最強”って何だと思う?」
「“最強”とは何か、っスか? そりゃもちろん、絶対負けない人のコトでしょ」
「でも俺だって負けることはあるぞ」
「初挑戦のボスモンスターはしょうがないっスよ。ほとんど初見殺しっスもん」
「だけど掲示板で叩かれてるらしいんだよな」
「はぁ~~~!? だったらそんなコト書いてるヤツはそのボスに初見で勝てるのかって話っスよ!」
「それは通らないんだよ」
「何でっスか!」
「俺が“最強”で、そいつは“最強”じゃないから」
理解できない。
“最強”ってのは傷つけても良い免罪符ではないだろ。
そもそも、ベアー先輩を“最強”だなんて担ぎ上げたのは名も無き大勢のはずだ。
だってのにその言い分は、いくらなんでも勝手が過ぎる。
「グラ助は多分、いつか“最強”って呼ばれる日が来る。だからこれを覚えておけ」
────“最強”ってのはな、その名を背負う覚悟の名だ。
その日、ようやく俺は、心から────その名が欲しい、そう思った。
* * *
シズホちゃんの“機械人形”による超広範囲爆撃、避けられない。
だったらすべて────斬るのみ。
これが自由度の高いゲームで本当に良かった。
あらゆる物体に当たり判定があるおかげで、プレイヤースキルさえあればどんな動きもできるおかげで、この博打に踏み切れた。
なに、ベアー先輩の弾幕と比べれば易しい。
それに目が慣れている俺に斬れない道理無し。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
速く、速く、誰よりも速くッ!
視認、行動────動かすのは手だけじゃない、目、脳、フルコントロール。
一発でも斬り逃したら負けだ、俺が被弾する範囲のすべてを漏れなく斬れッ!
俺は負けない、負けてはならない。
何故か?
愚問ッ!
「俺が、“最強”だからだァァァ!!!」
そして最後の一発を────斬る。
丁寧に、鋭利に、矜持を以て撫で斬るのみ。
……きっとシズホちゃんは勝利を確信しているんだろうな。
俺でなければ削り切れただろう、だからそう思ってしまうのも仕方ない。
しかし体力状況は俺の不利、制限時間も残り少ない。
俺は再度シズホちゃんをターゲットロックオンし、煙越しにおおよその位置を把握。
まだ空中に居る、このポジションでは二刀流の攻撃は届かない、よって不要。
当たればラッキーの気持ちで、シズホちゃんが居る方向へ向かって刀を【投擲】した。
直後、遠くで金属が何かにぶつかった音がした。
HPは……削れてない、守ったか。
防具も無しで守れるとしたら、“機械人形”のバリア意外にありえない。
「勝ったと思ったっしょ?」
無意識に、ベアー先輩の言葉を復唱してしまっている俺が居た。
そして奇しくもこの状況は……。
俺は硝煙が身を隠してくれている間に、シズホちゃんが落とした武器のもとへ走る。
あのまま落下したのだとしたら、そこだ。
俺はありったけのMPを込めて、弓を引いた。
────カァァァァァン!!!
『勝者、GrandSamurai選手ゥゥゥ!!!』
闘技場ステージの煙が晴れる。
俺はその場で弓を高く掲げた。
ベアー先輩が愛銃を掲げる時と同じ、左手で。
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