38話 2033 Summer PvP Battle Tournament Ⅻ - 高みの見物

「おっ、シズホちゃんの試合が始まるみたいだよっ!」


「いよいよね~。くまさん君達がどんな装備を用意してきたのか楽しみだわ~」


「シズホちゃんってどんなスタイルの子なんスか?」


「ボクも詳しくは知らないんだよね。二次職ってコトくらいしか情報も入ってきてないかな」


「くまさんの装備提供先か」


「おはよう、さすがに気になっちゃった?」


「偶然目を覚ましただけだ」


「入場っスよ!」



 控室のモニターに視線を戻す。


 打ち上げ花火が上がる中、シズホちゃんが入場してきた。



『決勝トーナメント1回戦、第17試合。決勝進出者64名中、二次職での参戦はこの人ただ1人! 突如として現れた期待の新星! 新星爆発が如き稀代のジャイアントキリングを見せてくれるのか!? 魔弓士『シズホ』の登場だァー!』



 おー、なかなか堂々とした歩きざま。


 緊張していないのは良いことだねっ!


 会場の歓声はーっと……人気じゃないのっ!


 そりゃ唯一二次職での決勝トーナメント進出だし、まだゲーム始めて半年も経ってないらしいしね。


 勝っても負けても話題になること間違い無しっ!



『対するは今大会優勝候補の1人! 生ける伝説攻略クラン『The Knights古参の会』エースパーティーの頼れるタンク姉貴! 彼女の守りは五柱魔でさえ破れない! 最優・最重の騎士、重騎士『ヤマダヤマ』ァァァ────!!!』



 おっ、来た来た、グラ助クンのお友達のヤマ子ちゃんっ!


 どっひゃー!


 会場の歓声半端ないねっ!


 そりゃそうだよなぁ……何せ彼女はグラ助クンに次いでの超超超有力優勝候補だもん。


 シズホちゃんやくまさんクン達にとっては残念だけど、決勝はウチとヤマ子ちゃんのとこになりそうだなぁ……。



『両者揃って顔を見合わせました! いよいよ始まりますこの戦い! ……それでは皆さん、バトルスタートのカウントを共にお願いいたします! 5、4……』


「「3っ!」」


「2~」


「…………」


「ライオも言いなよ折角起きたのにっ!」


「面倒だ」



 仕方無いか、コイツはそういうとこあるし。


 さあ試合を見ていこうかな。


 先に動いたのはっとぉ……おっ、シズホちゃんの方だっ!


 距離を取って通常攻撃の射撃連打、ヤマ子ちゃんはそれをジャスガでいなしてる感じかな。



「なんかアイツ調子悪そうっスね。ジャスガの精度が8割切ってるわ」


「それは低いのか?」


「いやぁ、他のユーザーと比べたら普通に高いっスよ。でもヤマ子のジャスガ成功率って普段は9割くらいなんスよね。やっぱ昨日の予選で気合入れ過ぎてたんかもしれないっス。アイツ、かなり追い込んでたんで」


「いやホント、戦闘職の人って凄いと思うよ……予選スイスドロー15連戦の時点でめちゃくちゃハードでしょ? そこから翌朝には決勝トーナメント開始だもん。無理だなぁ、ボクには到底及ばない領域だなぁ」


「何言ってんスか! クラフトフェスタですっけ? あれって前日から徹夜で生産三昧だって聞いたっスよ。そっちの方がすげーと思うっスけどね……」


「うふふっ、どっちもすごいってことね~」



 などと褒め合っていると、モニターの方から実況解説の声が耳に入った。



『おっとヤマダヤマ選手が動いたぞォー!?』



 おっとマズいんじゃないっ!?


 魔弓士のシズホちゃんは距離を詰められたらかなり不利なハズっ!


 どうやって切り抜けるっ!?



「あの距離、来るっスよ【威嚇インティミデイト】!」


「何それスキル?」


「相手を硬直させるデバフスキルっスね。ヤマ子の対遠距離定番戦法なんスよ。ガード固めながら安全に距離を詰めて硬直デバフ、一気に近付いて攻撃。魔弓士ってコトはベアー先輩みたいな構成だと思うんで、一発食らうだけでエグいダメージ入るっスね」


「やはりくまさんが『Spring*Bear』というコトか」


「いやぁ、マジであるかもっスね……。なーんか動きがベアー先輩に似てるんスよ……」



 遂にシズホちゃんにヤマ子ちゃんが接触、斧が届く距離だっ!


 硬直デバフ中は確か回避もできなかったハズ……いきなりピンチではっ!?



『────起動アクティベーション



 シズホちゃんが何かを呟くと、バッグから丸っこいマシンが飛び出したっ!


 それがシズホちゃんの前に光の壁を展開し、ヤマ子ちゃんの攻撃をガッチリガードっ!



「ネクロンだっ! ネクロンのアイテムじゃないこれっ!?」


「“機械人形”……なるほど、DEX構成にしつつ守りをアイテムでカバーしている訳か」


「くまさん君が武器、防具がアリアさん、アイテムがネクロンさんだったのね~」



 ネクロンのことだし、タダ守るだけのアイテムで終わらない気がしてるんだけど……。


 それに今のところくまさんクンやアリアの装備が真価を発揮していない気もするんだよね。


 アリアは『クラフターズメイト』の中では、ボクやミロロに次いで歴の長い生産職だ、きっと何らかの、アッ!?と驚く仕込みをしているに決まってる。


 くまさんクンだって採取合宿──つまりライオと会って──以降、熱の入りようが格段に上がっている。


 鍛冶士のクラスレベルももうすぐでレベルキャップに到達する、つまり生産職としてのプレイ歴以外はボクとほぼ同じ…………いや嘘吐いた、さすがにそれはまだ無いか。


 まあとにかくっ! くまさんクンだって、もう初心者とは言えないくらいにはなってるんだ。


 それに彼にとってシズホちゃんは初めてのお客さんだ、それ以上に頑張る理由なんてあってたまるかってんだ。


 だからさ、もう一度確信させてよ、キミを拾って良かったってさ。



『────装着インストール!』


「「シズホちゃんが飛んだっ!?」」


「あら~」


「……ほう、作り込んでるな」



 ネクロンの“機械人形”が変形分解、シズホちゃんに装備され、空中へと連れて行った。



「あれじゃヤマ子ちゃんの攻撃届かないよねっ! 勝ち確じゃないっ!?」


「いや、むしろヤバいっス。腐っても最前線攻略組っスからね、空中に逃げた敵を引きずり降ろす術は持ってるんスよ」



 さあ果たしてシズホちゃんは、あのヤマ子ちゃん相手にどこまでやれるかな?


 試合はまだまだ中盤だ。


 う~ん、やっぱ観戦は楽しいなぁ!


 もちろんシズホちゃんに勝ってほしいけど……どうなっても気は楽だしねっ!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る