18話 サイジェン島合宿Ⅲ - 森林エリア

「さあキミ達、トレジャーハントの時間だよ」



 俺達は『Aria』製の採取用装備&スキン衣装に身を包み、サイジェン島探索へと乗り出した。


 まずは森林エリアで植物系のアイテムを採取する。


 植物系アイテムは大きく分けて2種類に分別される。


 1つは地面に生えている草花だ。


 森林エリア全域の地面に自生しており、主に回復アイテムの素材になったり、染色に使ったりする。


 草花ジャンルのレアアイテムと言えば“エターナルグラス”と“月輪草ツキノワグサ”の2つだろう。


 どちらもレアリティが☆6と、素材アイテムの中では最高レアリティに位置する超貴重なアイテムだ。



「ちょうど“エターナルグラス”を切らしていたから助かるわ~」


「ミロロの作る“エリックレリクサー”は業界切っての効能だって人気だもんねっ! そりゃクラフトフェスタだからってあんな値段で叩き売ってたら誰でも買っちゃうよっ!」



 そう、今しがた話題に上がった“エリックレリクサー”という回復アイテムの必須素材がその“エターナルグラス”である。


 かつて『Spring*Bear』として攻略最前線に居た頃の俺は、幾度となく“エリックレリクサー”に窮地を救われた。


 飲めばHPとMPを一瞬で満タンにまで回復してくれ、一定時間、継続的にHPとMPを回復し続け、更に魔法系攻撃の威力上昇、更に更にスキル使用時のMP消費量を軽減してくれるという、ぶっ壊れ回復アイテムなのだ。


『The Knights古参の会』を始めとした攻略組でお世話になった事の無い者は居なかろう。


 ……多分、俺は知らないうちにミロルーティが作った“エリックレリクサー”を買ったことがあるんだろうな。


 たまーにやけに追加バフの載った超高品質な物が巡ってきてたし、もしやそれがミロルーティの物だったりしたんだろうか。


 俺は心の中で、神様仏様ミロロ様と敬虔に拝ませていただいた。



「だったらそっち優先で良いわよ。“月輪草”は結構残ってるのよね」


「アリアさん、“月輪草”ってやっぱりスキン衣装に使うんですか?」


「アタシは主にそうだけど、他のユーザーはそんな勿体無い使い方はしないんじゃないかしら。どちらかと言うと布製の防具に使われてる印象ね」



 アリアは、“月輪草”が如何な理由で高レアリティかつマーケットでも値の張るアイテムなのかを説明してくれた。


 まずその“月輪草”だが、基本的な使用用途は布製の防具の生産素材らしい。


 別に“月輪草”を必須素材とする防具アイテムは存在しないのだが、これを素材として使った時にのみ付与される限定のADPアディショナルパワーが非常に強力らしい。


 まずは【月女神の祝福】、これはMPを秒間10ポイントずつ自動回復し続けるとかいうとんでもパワーだ。


 しかも防具は上半身・下半身・脚・頭の4ヶ所に装備できるのだが、その全ての箇所に【月女神の祝福】が付与されていれば、秒間40ポイントずつ自動回復してしまう…………まあ、そこまで揃えられるほど簡単に手に入れば苦労しないのだが。


 更に【月女神の裁定】、こちらは魔法系攻撃の火力が常時25%増加し、味方へのヒール系スキルの回復量も常時25%増加するというこれまたとんでもパワーである。


 こちらも勿論、全身の防具に付与されていれば合計で火力・回復量が100%増加とかいう…………うん、チート級にも程があるだろこれ。


 そういえばどんぐりから貰うヒールと、他の回復系クラスから貰うヒールでは効果量に差があるように感じていたのだが、もしやアイツ、全身“月輪草”を素材にして作られた装備だったんじゃないか?



「あのぅ、できれば“豊穣神の忘れ物”も見つけたら採っておいていただけると助かりますぅ……」


「あー、そいやパリナ使い切っちゃったーって言ってたもんね」



 森林で採れるもう1つのアイテムジャンル、それは果実である。


 地面には草花が、無数に立っている樹木には果実がなっている。


 パリナの言った“豊穣神の忘れ物”だが、これについては俺も少しだけ知識がある。


 というのもこの果実、ひとかじりすれば程好い酸味と目一杯の甘み、そして致死量の幸福が口に広がる嗜好品の中の嗜好品で、『The Knights古参の会』ではレアドロ目的のレイド周回が終わった後のご褒美としてよく食べていた、何を隠そう俺の大好物なのである。


 いつもどんぐりがどこからか仕入れてきていたから、実際にマップ上で採取した経験は無かったが、なるほど……サイジェン島で採れたのか、覚えておこう。



「あのぅ、くまさんさん……? “豊穣神の忘れ物”のすごいところは味だけじゃないんですよぅ!」


「どうして俺の心の声を……?」


「心の声は聞こえてませんけどぉ……あのぅ、よだれが…………」


「やべっ」



 今度はパリナが“豊穣神の忘れ物”について、その真価を語ってくれた。


 果実ジャンルの素材アイテムだが、主な用途は当然、飲食品アイテムである。


 飲食品アイテムはバフ効果をもたらす物と、ただ味や香りを楽しむだけの嗜好品に分けられるのだが、バフ効果のある消費アイテムとして使うと、それはもう絶大な効果を得られるのだとか。


 先程の“月輪草”のように、この“豊穣神の忘れ物”にも特有のADPアディショナルパワーが存在する。


 このアイテムから付与される【豊穣神の祝福】というパワーは、使えば一定時間、モンスター討伐時のレアドロップ率が100%となるというものらしく……。


 ……………………100%?


 いや、俺の聞き間違いではないらしい。


 マジで100%、つまり確定ドロップするのだ。


 これは俺でも知らなかったな……知っていたら徹夜でレイド周回とかせずにすんだじゃねえかよ。


 というか、そんな頭の悪いアイテムならご褒美とか言って生のままかぶりついたりしてねえっつーのッ!!!


 周回終わってからじゃなくて始める時に食っとけよバカッ!!!



「このあたりね~。それじゃみんな、別々の採取ポイントに分かれて、1回だけ採取してきてくれる~?」


「えっ、1回で良いんですか? そんなに運よく高レアリティのアイテムを入手できますかね?」


「あーそっか。くまさんクンは知らなかったよね。まっ、ひとまずミロロの言う通りにしてみてよ。何故1回で十分なのか、すぐに分かるからさ」



 俺以外のクランメンバーは誰一人として疑問を持っていない様子だから、俺は頭上にクエスチョンマークを浮かべながら採取を行った。



名称:マージグラス

レアリティ:☆★★★★★★

品質:24

アディショナルパワー

 ・【STR+5】



 ……うん、微妙すぎる。


 いやしかし?


 まだDEXのパラメータが低い俺だし?


 というか1回だけ採取して目当ての物が出るはずが無いし?


 アリアの装備のおかげで裸で採取するよりはマシだけど……品質も低く付与されているADPアディショナルパワーも噛み合ってない、考える限り最悪の採取結果だったと言えよう。


 しかしミロルーティは「1回だけ」と言ったし、その言葉通り、俺はそれ以上その採取ポイントに留まりはせず皆の元へ戻った。



「それじゃ採れた物を見せてもらえるかしら~?」



 クランメンバーの皆が銘々に、採取してきたアイテムをミロルーティに手渡す。


 するとミロルーティは難しい顔をしてアイテム達とにらめっこをし────ぱぁっと聞こえそうな満面の笑みで顔を上げた。



「偉いわくまさん君~! 見事、一発ツモよ~!」


「えっ? どういう意味です? 品質もADP|アディショナルパワーも残念な、ただの“マージグラス”じゃないですか」


「ええ、確かにこのアイテムは残念だわ~、でもそれでいいのよ~!」


「えっと……すみません、よく意味が…………」


「それでミロロ、コイツが採取したとこ、あと何回掘れば良いの?」


「ちょっと待ってね、今思い出すから~~~~~~~~~~うんっ! あと193回ね~!」


「ははっ、くまさんクンは何が何だかって顔だね。前にさ、生産には乱数テーブルがあるって話をしたよね? その時にモンスターからのアイテムドロップや採取にも同じようなシステムがあるって話も補足したと思うんだけど、そっちは覚えてる?」


「あぁ、そういえばそんなコトを言っていたような」


「生産の乱数テーブルはユーザーごとに固定なんだけど、アイテムドロップと採取はゲームシステム側で定まっていて、それが7パターン。1日ごとにテーブルが変動するから、曜日によって採取パターンは決まっているんだよ。とは言っても、1テーブル内に優に1000を超える分岐があるから、これを網羅しようなんて人が居たら────その人はまさに、努力の天才だよ」



 えっと、つまりそのパターンを記録なり記憶なりしてしまえば、どの採取ポイントをあと何回採取すれば目当てのアイテムが入手できるかが分かる…………そういう話で良いのか?


 いやいや、だけどミロルーティはメモのような物を確認している素振りは無かったし…………。


 まさか、嘘だろ、彼女は────。



「ミロロさん、その乱数テーブルを記憶しているんですかッ!?」


「記憶力には自信があってね~」


「いやさすがにできるはずが無いですよ! だって今こうして6人で採取してきただけでも全く同じ採取結果にはなっていない、更にDEXの値によってアイテムの質が上下されるんだから、もっと分岐は複雑なはずです! そんなバカげたコトが…………人間に可能なんですか?」


「くまさん君の言葉はもっともだけどね~、ひとつウチのルールを忘れてな~い?」


「えっ?」


「『クラフターズメイト』に「できない」は禁止、大抵の事はやればできるものよ~」


「ッ! す、すみません……でもだからってそんなコトが…………」



 例えば、このゲームに登場するモンスターの数は数百を超える。


 かつて攻略組の最前線でエースを張っていた俺や、そんな俺と肩を並べて前衛を任されていたグラ助やヤマ子は、その数百超のモンスターの行動パターンをおおよそ暗記していた。


 その知識のおかげで、新登場のレイドボス相手だろうとその場の推測からなんとか戦え、最速攻略が可能だった。


 しかしミロルーティの知識の深さはその比では無い。


 推測不可能、ただただ丸暗記する以外に方法の無いそれは、どう考えても常軌を逸している。



「錬金術士はね~、採取が得意って相場が決まっているのよ~」


「そ、それはどういう意味です……?」


「気にしないでくまっち、ミロロはとある錬金術士が主人公の某ゲームアトリエシリーズの大ファンってだけだから」


「ムラマサどうする~? 一応、パリナちゃんが採取した木も、482回採取すれば“豊穣神の忘れ物”が採れるテーブルみたいだけど~」


「うーん、それはさすがに時間がかかっちゃうな。もう何ヶ所か木を揺らしてみて、早めに採れそうなポイントがあれば掘るって感じで良いんじゃないかな?」


「わかりましたぁ……っ! では私、片っ端からゆさゆさしてきますぅ!」


「うふふっ、頑張ってね~」



 その後、ミロルーティの言葉を信じて俺が採取したポイントをパリナ以外の皆でひたすら採取しまくった。


 そして彼女の宣言通り、193回目で“月輪草”が採取できた。


 すごい、すごすぎるぞミロルーティ!


 彼女が居れば、このレアアイテム採取バトルに絶対勝てるじゃないか!


 それから俺達は、ミロルーティのおかげで“エターナルグラス”と“豊穣神の忘れ物”まで採取でき、取りこぼし無く森林エリアを後にしたのだった。



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