17話 サイジェン島合宿Ⅱ - 愛の決闘

「「くま畜生に決闘を申し込む(みます)」」



 いきなり申し込まれた。


 早くも降参したいんだけど。



「ま、待ちなよミステリオっ! くまさんクンが怖がってるじゃないかっ!」


「ムラマサ、先日僕は確かに言ったはずだよ。僕は彼に鉄槌を振り下ろす義務がある。僕を差し置き美しき鍛冶女神ムラマサを独占しているという罪への裁きをくださなくてはならないんだ」


「ソイツには余罪がありますっ! ムラマサさんだけでは飽き足らず、わたくしのアリア様までも独占しているではないですかっ! どうせ陰湿なやり口でアリア様の絹のような柔肌をつけ狙っているに違いありませんっ!」



 ……まずいな、狙っているどころか既にムラマサとアリアの裸を見てしまったなんて、口が滑ってもこの2人にはバレないようにしなければ。



「あの、決闘ってどんな方法で? まさかPvPの3割マッチ──HPが3割を切ると負けという、無駄なデスポーンを防ぐルール──じゃないですよね?」


「無論、そんな暴力的な方法で戦うつもりは無いよ」


「当然です、わたくし達生産職はそんな原始的な方法ではなくより紳士的な方法で戦います」


「2人も戦闘職はレベル上げてないものね~」



 …………むしろプレイヤースキルがある俺の方がPvPは強そうな気がしてきたな。



「やっぱりPvPで戦いましょう。ボコボコにしてやりますよ」


「落ち着きたまえくまさん、ムラマサの目の前で無様に地に伏せたくはないだろう?  ここはもっと紳士的に────」


「PvPで戦いましょう」


「君、それは早計だよ。ハッキリ言って僕を相手にしては勝負にならない」


「いいえPvPでお願いします」


「正直に言おう、僕は戦闘が下手だ、そこらの雑魚モンスター相手でも運が悪ければ負けるほどだ。ムラマサの目の前で無様に地に伏せたくないんだ」



 勝負にならないってミステリオが負けるって意味かよ。



「というかそこまでしてPvPやりたがる生産職ユーザーが居るとはね、君、怖いよ」


「そうですっ! やっぱりあなたはくま畜生ですっ! 生産職の恥っ! アリア様の交友関係にこべり付いた唯一の汚点っ! というか体格的にPvPで勝てるワケないでしょうがっ!」



 アバターの体格はパラメータに一切の影響は無いんだがな……。


 だがしかし、そこまで言われれば俺も、これ以上PvPでの決闘は推せないな。


 ここで強行しては、まるで自分は生産職としての誇りなんて投げ捨てましたって言ってるようなものだしな。


 それに俺は、絶対に勝てる戦いには興味が無いしな。



「分かりました、そちらの提案する方法でやりましょう」


「グーーーッドゥ……それでこそ僕のライバルにふさわしい男だよ。では生産アイテムの品質が高かった方の勝ちということで」


「ついでに生産アイテムもレアリティ最高の物に限定しておきましょう」


「よーっしテメェら武器を取れ、1v2で構わねえよ……来ねえならコッチから行くぞオラァ!!!」


「ストップストーップ3人ともっ! それじゃあどっちにしても生産職のプライドの欠片も無いよっ! じゃあさ、こんなのはどうかな? サイジェン島でのみ採取できるレアアイテムがいくつかあるよね。チームに分かれて採取に出て、レアアイテムを多く採取できた方の勝ち。これなら公平だと思うけど?」


「アタシもそれが良いと思う。それならパラメータ的に不利なくまさんにも勝ち目があるかも。ミカリヤ、それで良いわよね?」


「もちろんですアリア様ーーーーーーーーーーっ!!! ではアリア様はわたくし達のチームということでっ!」


「んなワケないでしょうが」


「僕もそれで構わないよ。何より、ムラマサの提案を却下する言葉を僕は持ち合わせていないのでね」



 話し合いの結果、ミステリオとミカリヤのチームには『Initiater』クランメンバーが数合わせの為に補充され、クラン対抗で決闘を行うことが決定した。


 そして最も大事なコト……この戦いで勝者が得られるものが、両クランマスターの対等な話し合いによって決まった。



「というコトで、勝ったチームは負けたチームにひとつだけ言うことを聞かせられるってルールに決まったよっ!」


「はぁ!? ちょっとムラマサアンタそれで本当に良いのっ!? 要はアタシとアンタの貞操が賭けられてるって意味じゃないっ!」


「いやぁ、だけど相手は最近勢いのある『Initiater』だよ? 何でも言うことを聞かせられるなんて夢のような条件だと思わない?」


「でも負けちゃったら大変よね~。ムラマサのおっきなおっぱいも、アリアさんのスベスベな脚も、ぜーんぶあの二人の物になっちゃうもの~」


「大丈夫、聞かせられる命令はひとつだけって約束だからね。ボクが犠牲になってでもアリアだけは守ってみせるさっ!」


「いえ、絶対に負けませんよ! サイジェン島のマップは頭にバッチリ入ってます、そんな条件なら尚更負けられません!」


「あっ、アンタ……っ」


「甘酸っぱいのはごちそうさまなんだけど、ちゃっちゃと取り掛からなきゃ。遅れれば遅れるだけ不利になっちゃうんじゃない?」


「でっ、ですねぇ……あのぅ、ついでに食材系の素材も集めてもいいですねぇ…………?」


「もちろんです、採取の為の合宿ですし。良いですよね、ムラマサ先輩?」


「そうだねっ! どうせお目当てのレアアイテムを狙うついでに通常アイテムも出るんだし、どうせならみんなが欲しい素材が取れるポイントを選んでいこうっ!」



 早速、俺達は1つ目の採取ポイントを目指して移動を始めた。


 …………そのポイント、ちょっとした罠があるんだけど大丈夫だろうか。

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