サイジェン島合宿 編

16話 サイジェン島合宿Ⅰ - 目的

 照る太陽、寄るさざなみ、揺れるおっぱい。



「そっち行ったよアリアっ!」


「任せなさい────ってまた逃げたっ!」


「やばっ、ミロロの方行った」


「やぁ~~~ん、水着返してください~~~~~」


「あっくまさんさん、“レッディサワー”飲みますぅ?」


「ありがとうございます、ノンアルでお願いします」



 俺達『クラフターズメイト』は観光向けリゾートマップ・サイジェン島を訪れていた。


 もちろん遊びに来たワケではなく、ある目的の為にここを訪れている。


 まずはクランメンバーからサイジェン島行きを提案された、昨晩にまで時を遡ろう。





               * * *





 クラフトフェスタが終わってから、『クラフターズメイト』の面々は一緒に過ごす時間も減り、各々の平常業務プレイに戻っていた。


 俺は次の目標についてムラマサに相談し、鍛冶士のギルドクエストを進めてクラスレベルを上げたり、鍛冶士のスキルを増やしていこうという方針で定まった。


 戦闘職のギルドクエストはマップ上に現れる特定のモンスターを倒す、という内容ばかりだった。


 それならプレイヤースキルさえあれば止まることなく進められたから楽だった。


 しかし生産職のギルドクエストはそうもいかなかった。


 常に想定クラスレベルよりも少しだけ高いレベルを要求する生産アイテムの納品がクエスト内容となっているから、裏でレベリングを行う必要があったのだ。


 とはいえ、クラフトフェスタ準備のおかげで鍛冶士のクラスレベルはそれなりに上がっていたから、始めた時からノンストップでギルドクエストに挑むよりは簡単に進められた。


 が、ある程度進めたあたりで壁にぶつかった。


 納品対象アイテムの生産素材を、自分で入手しなければならなくなったのだ。


 クラスレベル5、10、15で受けられるギルドクエストは素材を貰えていたが、レベル20で受けられるクエストからは素材の入手すらもギルドクエストの内容に含まれるようになってしまったのだ。


 なにぶん、始めてすぐにムラマサに拾われ、あれよあれよとクラフトフェスタに参加していた俺である。


 例えば、戦闘職で救世クエストを進めていたならば、デイリー・ウィークリークエストを進める過程でマップに出てついでに採取をしていたならば、きっと素材が無くて困ることもなかっただろう。


 仮に素材を持っていなくても、マーケットから素材アイテムを購入するだけのお金も貯まっていただろう。


 だから戦闘職で救世クエストを進めるべきか、あるいは鍛冶士のギルドクエスト最優先と考えて必要な素材だけをピンポイントに採取に行くべきか、クランメンバーに相談することにした。



「あら~、それは困ったわね~」


「そいや、パリナも入りたての時にそんな感じになったよね」


「でしたねぇ…………あれ、あの時ってどうしたんでしたっけ私ぃ?」


「アレじゃない? 恒例の合宿やらなかった?」


「合宿ね~、そろそろ良いタイミングかもしれないわね~」


「た、たしかにぃ……クラフトフェスタで素材の貯蓄もだいぶ減りましたしねぇ…………」


「合宿ってなんですか?」


「んーまあ、クラフトフェスタ前のアレが生産合宿としたら、今話してたのは採取合宿って感じかな。くまっちさ、ゲーム内に存在する採取アイテムが全て入手できるマップがあるんだけど、知ってる?」


「それなら知ってます、サイジェン島ですよね」



 有料DLCマップ・サイジェン島。


 広大なホルンフィア大陸から船に乗って行ける、春夏秋冬すべての気候が混在するリゾート列島マップだ。


 そこには様々な採取ポイントが設置されており、本来なら広すぎるホルンフィア大陸を東奔西走しなくてはならないはずの採取アイテムが全て手に入る。


 サイジェン島の目玉はそれだけではない。


 リゾート地と銘打ってるだけあって、リゾートホテルやカジノ、海水浴場にスキー場といったアミューズメント施設なんかもあったりする。


 それに何と言っても『The Knights Ⅻ Online』はMMORPGなのだから、DLCともあれば何が求められるか…………そう、ダンジョンマップに新レイドボスである。


 もちろんダンジョンとレイドボスの2つは、DLC配信日にどんぐり亭らと共に最速攻略したし、アミューズメント施設も一通り利用した。


 そしてもうひとつ、忘れてはならない施設がサイジェン島にはある。


 ────『Spring*Bear』の豪邸だ。


『くまさん』に素性を変えた俺の最終目標であるそのハウスは、サイジェン島居住区最大の土地に建っており、周囲のハウスからはきっと、吹き下ろす山風と交換するように羨望の眼差しが向かっていることであろう。



「へえ、楽しそうですね」


「くまさん君はDLC買ってるかしら~? 初めてのお客さんが付いたお祝いもしてなかったし、奢ってあげても良いのだけど~」


「いえお構いなく、そういうのは先に揃えちゃうタイプなんで」


「さすがくまっち」


「あっ、あのぅ……サイジェン島には結婚式場を模した綺麗な教会もありましてぇ…………一面の海が見渡せるステキな景色なんですよぉ!」



 その調子で話は進み、後からクランハウスに戻ってきたムラマサとアリアの了承も得て、次の土日に採取合宿を行うことが決定した。





               * * *





 計画立案、いざ当日、サイジェン島到着からひとまずの海遊び。


 そこまではまだ、平穏だった。



「アリア様~~~~~~~~~~っっっ!!!!!」


「おっと危ない、太陽かと思ったらムラマサだったとは!」


「「げっ」」



 真白の浜辺を駆けてくる2つの影、なんとそれは『Initiater』のミカリヤとミステリオだった。



「あら~、あなた達も来てたのね~」


「やあミロルーティ。なるほど、そちらもクラン揃っての採取合宿といったところかな?」


「その通りよ~。「そちら」ってことは~、『Initiater』もそうなのかしら~?」


「他のクランメンバーは到着するなり採取ポイントに行っちゃったけどね。まったく、クランマスターの僕が遊ぼうと提案したのに全然付いて来てくれないんだよ」


「うふふ~、人望が無いのね~」



 ミステリオからムラマサを守るように間に挟まるミロルーティ、あっちでミカリヤと追いかけっこをしているアリア、そしてしれっと砂の城を建設し始めたネクロンとパリナを横目に、俺はこれから始まる二日間への期待に胸を膨らませていた。


 …………それにしてもムラマサとミロルーティの水着姿、半端ねえな。

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