19話 サイジェン島合宿Ⅳ - 雪山エリア
「さっささささぶささささぶるぶぶぶぶさささぶっ」
さて、俺達が到着したのはどこもかしこも真っ白けの雪山だった。
サイジェン島は北部に冬が、南部に夏が、そしてその間で東から西にかけて春と秋が挟まっているという、リアルでは絶対にありえない気候環境である。
そのおかげであらゆる素材アイテムを島内で採取できるし、海水浴とスキーを同日のうちに楽しめる。
それはさておきこの北部真冬環境、普通に寒い。
どれくらい寒いかと言うと、社員旅行で初春の北海道に行ったことがあるのだが、それと同じくらい寒い。
幸いにして、命にかかわる程の体温下降は起きぬようシステム側が管理してくれている。
だがしかし、逆に言えばそこに達するまでは一切の慈悲もなく、ただただ「さっぶ~いっ!(byムラマサ)」のだ。
「ほらアンタの分、アタシ達の雪山装備よ」
「あでぃあでぃあだだだあでぃがとごずごずござばす」
「あははっ、震えすぎて言葉になってないわよ」
アリアから渡された服を装備した途端に、凍えるような寒さを感じなくなった。
装備のステータスを確認してみると……。
名称:ノーザンエルフのコート
レアリティ:☆☆☆☆☆☆★
品質:96
DEF:46
必要パラメータ:なし
アディショナルパワー
・耐寒Lv.5
・鉱夫の業Lv.5
・隠密Lv.5
品質は俺が作る生産アイテムなんかよりずっと高く、
ちなみに【耐寒】は文字通り寒さに強くなるパワーで、こんな雪山だろうが服の内側は春の木漏れ日のような暖かさである。
【鉱夫の業】は採掘時に採れる鉱石アイテムの品質と採取数を上げてくれる、生産で言うところの【大量生産】と【匠の仕事】を合体させたようなパワーだ。
そして【隠密】は近くのモンスターに気付かれにくくなるパワーで、これのおかげで雑魚モンスターに邪魔されることなく採掘に専念できるのだとか。
アリアは全員分の装備を、合宿前夜に用意したらしい。
今の俺にはまだできな────いや、未来の俺ならきっとできるだろう見事な仕事だな。
「この装備ってことは、
「その通りっ! と言っても、またミロロにテーブルを割り出してもらってただひたすらに掘り続けるだけなんだけどね」
「あー、ムラマサちょっといい? あたしだけできたら別行動させてほしいんだけど」
「ネクロンだけ? ああ、そっかそっか! 10周年記念の大型アプデで史跡が見つかるようになったんだっけ!」
「史跡って何ですか?」
「えーっとね、簡単に言えば超古代の機械文明が遺した遺物って感じ」
「じゃあレアアイテム探しは他の5人で頑張るとしようっ!」
「えっ、それじゃ少しの間不利では? せめてネクロンも史跡ってのでレアアイテムを探すくらいはしてもらわないと……」
「ところでくまっち、巨大ロボに乗ってみたくない?」
「そりゃ乗ってみたいけど…………えっ、マジ? 乗れんの?」
「あたしの史跡調査がうまくいけば、ね」
「ムラマサ先輩、ネクロンには好きなだけ史跡調査をさせてあげましょう。その分俺が2倍……いや3倍は頑張りますからッ!!!」
そしてネクロンだけが一時離脱し、採掘の時間が始まった。
まずは森林エリアでの採取と同じく、別々の採取ポイントで1度だけ採取を行い、その採取結果からミロルーティに乱数テーブルを判別してもらう。
あとはミロルーティが判別した回数まで採掘を続ければ────。
「出たッ! 出ましたよ“ドラグニティライト”ッ!」
名称:ドラグニティライト
レアリティ:☆☆☆☆☆☆★
品質:68
アディショナルパワー
・龍神の祝福
「ナイスだよくまさんクンっ! ちなみにボクもあと5回で…………4、3、2、1っ! 出たっ、“ドラグニティライト”っ!」
名称:ドラグニティライト
レアリティ:☆☆☆☆☆☆★
品質:97
アディショナルパワー
・龍神の祝福
・増幅Lv.2
この“ドラグニティライト”という鉱石だが、鉱石ジャンル中最強の武器素材性能を誇るらしい。
これを素材に作られた武器には【龍神の祝福】という
本来物理攻撃は無属性ダメージ──この属性で弱点を突くことは無く、エンドコンテンツ級のレイドボスはほぼ全てがこれに耐性を持つ──として計算されるが、そのダメージを龍属性に変換する。
この龍属性というのが非常に強力で、ほとんどのモンスターの弱点属性となっているのだ。
ちなみに『The Knights古参の会』の愛すべき後輩・グラ助の愛刀にももちろん、【龍神の祝福】が付与されていた。
この龍属性、序盤はそこまで効力を感じにくいが、救世クエストが進めば進むほど、特にストーリー第1部最終盤の災いの五柱魔戦では、有るのと無いのとでは雲泥の差を生み出す代物なのである。
「ムラマサ先輩、これどうぞ」
俺が“ドラグニティライト”を差し出すと、彼女は不思議そうな顔をしてきた。
「それはキミが掘り当てたんだから、受け取れないよ」
「でもこんな鉱石、俺じゃまだ扱えないですし。それならベテラン鍛冶士のムラマサ先輩に有効活用してほしいんですよ」
「だーめ、それはキミが持っていなさい。たしかに今は猫に小判かもしれないけど、きっといつか役に立つ日が来るはずだからさっ!」
「ではそうします」
俺はすぐに“ドラグニティライト”をインベントリにしまった、ロックも掛けておいた。
「態度の変わり身はやっ!? ほんとはいくらでも出すから買い取りたいくらいなんだけどっ!? それをグッと我慢して良い先輩ぶったのにっ!」
「9,999,999,999ゼルで売りますよ」
「目標達成RTAでもしてるっ!?」
まあそんな冗談はさておき。
「これからどうするんです? ネクロンの所に行くのか、それとももう少しここで採掘を続けるのか」
「わたしはどっちでも良いわよ〜、鉱石の中にも錬金術で使える物もあるし〜」
「わっ、私としてはぁ、史跡でしたっけぇ? それがどんな場所なのか気になりますぅ……っ!」
「それなら2班に分かれたら良いんじゃない? ムラマサとくまさんは採掘したいでしょうし。ミロロもそっちに残る?」
「そうね〜、そうさせてもらおうかしら〜」
「じゃ、それで決まりね。ムラマサもそれで良いわよね?」
「…………」
どうしたんだ?
ムラマサは個人チャットのタブを開いたまま固まってしまっている。
「ムラマサ先輩、どうかしたんですか?」
「ももっ、もしかして『Initiater』から煽りメッセージ届いてるんじゃぁ…………っ!」
「ネクロンからかもしれないわ。もしかしてもう作業終わったとか?」
「…………ああ、ネクロンからのメッセージで正解だよ」
「何て言ってるの〜?」
訊ねると、ムラマサは神妙な面持ちで黙り込んだまま、ネクロンとのチャットタブをこちらに向けた。
────『たすけて』
「「「「っ!」」」」
俺はマップも見ず、一目散にネクロンの元へ走り出した。
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