第9話 クラフトフェスタⅢ - 事業計画
作業を始めるにあたり、まずは生産するアイテムの打ち分けから決めた。
いくら初心者の俺とはいえ、リアルでは一端のサラリーマンだ。
それも、商社のマーケティング部門で働いている。
だからこそ、商売の大前提を知っている。
物を売るならまず、ターゲットを定めることが最も重要なのだ。
序盤用の武器アイテムか“グロウリング”──これも戦闘職ならば序盤にしか使わないアイテムだ──しか作れないのだから、おのずとターゲットは狭まる。
もちろん、初心者戦闘職が俺のターゲットとなる。
戦闘職経験のある俺だからよく分かる事なのだが、実は序盤用の武器アイテムはかなり長くお世話になる。
というのも、ある程度救世クエストが進み資産も貯まるまでは、複数の武器を強化するほどの余裕は無いのだ。
武器の強化には金と強化素材アイテムを要求される。
そして強化が進むと段階的に成功率も下がっていくし、強化費用も高くなっていくのだ。
だから武器を入手する度に切り替えていては、強化段階が中途半端になってしまう。
しかし序盤用の武器でも強化を進めていけばそれなりの戦力になるから、資産の少ない中盤手前までは、序盤用武器に強化を集中させて使い続ける方が良いというのが戦闘職の常識なのだ。
とはいえ、俺が生産できる序盤用武器は、戦闘職ギルドでクラスを習得した時に同時に入手できる。
ならば序盤用武器をわざわざ生産職から購入する意味は無いのか?
否である。
クラスギルドで貰える武器にはアディショナルパワーが付与されておらず、品質も低いから初期戦闘力も低くなる。
ならば最序盤に、品質が高くアディショナルパワーが付与されている序盤用武器を手に入れておけば、中盤手前までの攻略がグッと楽になるという訳だ。
ということで、最も力を入れるべきは序盤用武器のラインナップであろうと判断した。
すべての初級クラスの序盤用武器を用意すれば、初心者戦闘職ユーザーのすべてが俺のターゲットとなり得る。
では“グロウリング”は必要無いのか?
これもまた、否である。
この“グロウリング”というアイテムは、指輪枠に装備できるアイテムだ。
NPCショップでも売られているのだが、購入時・生産時の時点では何の効果ももたらさない。
このアイテムは装備した状態でEXPを獲得するにつれ、次第にレベルが上がり強化されていくという性能のアイテムである。
レベルが上がるとアディショナルパワーがランダムで付与されるのだが、これがまた何とも…………奥が深く、そして厄介なのだ。
と言うのも、ランダムで付与されるアディショナルパワーなのだが、このゲームに存在するすべてのアディショナルパワーからランダムで選ばれるという仕様である。
だから、剣士なのに【魔力放出】のような魔法系クラス向けのアディショナルパワーが付与される場合もあるし、何だったら生産職向けのものが付与される場合だってある。
そして一つのアイテムに付与できるアディショナルパワーの数は5つまでと決まっている。
しかもこのゲームにおいて、一度付与されてしまったアディショナルパワーを削除するには、そこそこ高価なアイテムを使用しなくてはならないから、それこそ資産の少ない初心者では無駄なアディショナルパワーが付与されたまま、なんて事態にも陥りがちだ。
幸いにして、アディショナルパワーが5つ付与された“グロウリング”も更なる強化が可能であり、それ以降はレベルが上がるごとにアディショナルパワーのレベルを上昇させられるのだ。
そこで俺は閃いた。
もし、初めからクラスに合ったアディショナルパワーが付与された“グロウリング”が手に入ったらどうだろうか。
ランダム要素に踊らされることもなく、有用な効果だけが得られるのだ。
とはいえ、一切のランダム要素が取り払われたのでは面白みに欠けるだろう。
折角ならその楽しみも味わってほしいから────もとい、削除もできない初心者の俺が5つの有用なアディショナルパワーを付与させるなんて運ゲーをしては商品になる“グロウリング”が十分に集まらないだろうしな。
「……我ながら完璧なプランニングだ」
そして導き出した俺の商売が、これだ。
アディショナルパワー付きの高品質な序盤用武器と、クラスに対応したアディショナルパワー付与済みの“グロウリング”のセット売り。
そして値段設定は控えめに。
何せターゲットは資産の少ない初心者であるから、せっかく有用な商品を用意できてもお金が足りないでは話にならない。
更に言えば『クラフターズメイト』系列店のスタンプラリーも埋めてほしい──割引券を使うためにリピーターになってほしいからな──のだから、他店で使う予算も残してやらねばなるまい。
これで俺のクラフトフェスタに向けた商業戦略は定まった。
いよいよ生産開始だ。
まずは“グロウリング”を生産し、自分で装備する。
その状態でひたすらに序盤用武器を生産し続ける。
そうすれば勝手に“グロウリング”にEXPが貯まっていき、セット売り用の“グロウリング”も完成する。
「うぉおおおおおおおおお!!! 生産生産生産だぁああああああああああ!!!」
そして俺は、狂ったように生産を始めた。
その道が地獄に繋がる愚者の道とも知らぬままに────。
次回、ハーレムお色気テコ入れ回です。
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