第7話 勇者たち2


 鑑定が終わった5人の高校生たちに担当の神官がトレイを差し出した。

 そのトレイの上には金色に輝く指輪が5つ載っていた。

「みなさん、この指輪を左右どちらの手でも、どの指でも構いませんがおはめください。みなさんの身体能力と魔法耐性を高める効果があります。

 どの指輪も同じです。マジックアイテムですので、指にはめると緩いでしょうが指の太さに合わせてちょうどよい大きさに成ります」


 5人がトレイに手を伸ばして、各自思い思いの指に指輪をはめた。


「おー! ホントにピッタリはまった魔法の指輪だ!」

「うわっ! 抜けなく、……は、なかった」

「さすがはファンタジー世界」

「マジックアイテムってあるんだ」

「魔法があるんだから当然だろ」

「なんだか、体が軽くなった気がしない?」

「そんな気がしないでもない」

「いやー、軽くなってるぞ」


 しばらく浮かれる5人が静まるのを待って担当神官がこれからの予定を伝えた。


「みなさんには2日ほどかけてこの世界の常識などを学んでいただき、そのあと魔法関係のお話を3日いたします。それから10日くらいかけてみなさんそれぞれの職業に合わせた訓練を行なっていきます。

 そのあと実戦訓練ということで、第三迷宮都市に移動して迷宮に潜りモンスターを斃してレベル上げを行なっていただきます」


「迷宮ってダンジョンのことだよな」

「やっぱりダンジョンってあるんだ。よーし、やってやるぞ!」

「モンスターだって生き物じゃない? 斃すって殺すことでしょ? 生き物を殺していいの?」

「そりゃいいだろ。モンスターなんだし」

「罠があるなら、あたしの出番!」

「何だか怖いです」



 担当神官からの話を聞き終えた5人は、神殿に仕える侍女たちに連れられて各自の部屋に案内されていった。


 こちらは勇者、和田勇わだゆう。彼を部屋まで案内した侍女が、一通り部屋の中を案内した。

「ご用があれば、机の上に置いてあります呼び鈴を鳴らしてください。本日は晩餐会が開かれますのでその前にお風呂にお入りください。お湯の用意はできております。すぐにお入りになりますか?」

「そうだな」

「かしこまりました」そう言って侍女は部屋を出ていった。


「個室か。僕は勇者なんだからこれくらいの待遇は当然だな。しかし、先ほどの侍女といい、他の侍女もみんな美人だった。この世界の女性はみんな美人なのだろうか? もしそうなら……。

 勇者の俺がみだらなことを考えてちゃまずいな。

 いや、しかし勇者の子どもが欲しいという女性はごまんといるだろう。となると忙しくなるのでは?

 それはそうと、この時間から風呂に入るのはちょっと新鮮だ。どんな風呂だか、ちょっとだけ楽しみだ。どれどれ」


 脱衣場で服を脱ぎ裸になった和田勇が風呂場に入り、掛け湯をして湯船に入りホッと一息入れたところで白っぽい薄着一枚を羽織った女性が二人風呂場の中に入ってきた。一人は先ほど和田勇を案内した侍女だった。


「な、な、なに?」

「お背中をお流しします」

「えっ! そんなこといいから。自分でできるから」

「遠慮なさらず」

「ひ、ひぇーーーー! ひぃーーーー!」


 風呂から上がった和田勇は二人の女性に体を拭いてもらったあと香油を塗ってもらいマッサージを受けた。


「……」


 バクバク、バクバク、バクバク。和田勇の心臓が音を立てる。

 頭の中ではいろいろ妄想がはかどっても勇者と言えども所詮はこの程度。なのかもしれない。



 これと同じ状況が田中一郎たなかいちろうの部屋でも起こっていた。


「え、えぇーーーー! ひょーーーー!」


「……」


 バクバク、バクバク、バクバク。田中一郎の心臓が音を立てる。

 彼も例外ではなかった。



 男子二人に対して女子たちは落ち着いたもので気持ちよく体を洗ってもらい髪も洗ってもらってからいい気持ちでマッサージを受けた。


「天国、天国」



 マッサージのあとは各自神官服に似た衣装を着せてもらった。男子は水色、女子は薄緑でおそらく絹地で出来た衣装だった。男子の下着はフンドシに近いもので、女子の下着も似たようなものだった。男女ともに股間がどうもしっくりこなかったが、女子の胸に関してはそれほど違和感がなかったようだ。


 支度の終わった5人はそれぞれ侍女に食堂らしき部屋に連れていかれた。


 食堂の真ん中に置かれた白いクロスのかかったテーブルの上の大皿の上には、大きな肉の塊や、果物、その他が並べられていた。各自が引かれた椅子に座ったところで、夕食が始まった。飲み物は銀の盃の中に入った赤ワインだった。


 侍女が「どうぞお召し上がりください」と、言ったところで各人が料理に手を伸ばし、小皿に料理を移して食べ始めた。


「これ、お酒じゃないか?」

「どう見ても赤ワインだろ」

「未成年がお酒を飲んではいけないのでは?」

「ここ日本じゃないから全然問題ないだろ」

「わたしんち、うちではお酒OKだったから」

「ほんと? それってマズくない?」

「今となってはいい思い出よ」

「確かに」

「……」

「箸が欲しいところだな」

「郷に入っては郷に従え。ナイフとフォークとスプーンは日本の物と見た目は同じなんだから十分でしょ?」

「確かに」


「そういえば、和田と田中もお風呂に入って背中を流してもらってマッサージしてもらったんでしょ? 女性に背中を流してもらった上にマッサージなんかしてもらって、どうだった?」

「……」

「……」

「やだー、二人とも顔を赤くしてる。キャハハハ」

「高橋さん、二人が困ってるから、止めようよ。セクハラだよ」

「わかったー。鈴木は真面目だねー」


 ……。


 こんな感じで和気あいあい?と食事は進んでいった。



 翌日からさっそく講義が始まった。5人のうち3名ばかりは昨日の夕食で飲んだワインの影響が残って蒼い顔をしていたのだが、それに気づいた教師役の神官が3人に向かって何やら口の中でブツブツ唱えたら3人の体調は元に戻ってしまった。


「あれ? 気持ち悪いの治った」

「よかったー」

「すごい」

「今のは魔法だよね?」

「やる気がモリモリ出てきたぞ!」

「それって、アレみたい」

「アレって何だよ? 言ってみろ!」

「言わないわよ」


 ひと騒ぎのあとの5人はいたって真面目に神官によるこの世界の常識なるものを学んだ。



 2日間の世界常識の講義に続いて魔法の講義が始まった。世界常識の講義は白服の神官が講師となって行なっていたが、魔法関係の講師は外部から招聘しょうへいされた魔術師ということだった。



 戦士の田中一郎と盗賊の高橋愛には魔法に関する特性はなかったのだが、それでも3日目には簡単なファイヤー程度の魔法は使えるようになった。


「明日からは、みなさんの職業に合わせた講師のもとでみなさんのスキルを伸ばすための訓練をしていただきます」



 勇者和田勇と戦士田中一郎、そして盗賊高橋愛には、王国騎士団から中堅騎士が派遣され、剣の基礎から教育が始まった。和田勇は大剣、田中一郎は長剣、高橋愛は短剣を武器として勧められたため3人とも素直にそれらを選んでいる。もちろん木でできた訓練用の物だが、十分凶器として通用する。3人とも運動部で活躍していただけに呑み込みが早くみるみるうちに上達していった。


 

 魔術師佐藤美紀と僧侶鈴木奈々については各々攻撃魔法と治癒魔法の習得訓練が始まった。佐藤美紀の講師は魔術の講義を行なった魔術師で、治癒魔法の講師は神官のうち特に治癒魔法に優れたものが充てられた。


 剣術の訓練の途中で、和田勇については佐藤美紀と合流して攻撃魔法の習得。田中一郎については引き続き騎士団から派遣された騎士が担当し盾の訓練が始まった。高橋愛については冒険者ギルドから派遣された盗賊系冒険者が充てられ、罠の発見方法や解除方法など教え込まれた。佐藤美紀については回復魔法から防御魔法、強化魔法などを習得していった。



 実習の後半に入り、武器は訓練用の物から本物に切り替わった。各人の防具も最初は出来合いの防具だったが、今は各人に合わせた革製の鎧やヘルメットができ上がっており、各人それを着込んでの訓練となっている。


 戦士の田中一郎は鎧が革製だったことに多少不満を抱いていたが、全身金属製の鎧など重くて動きが制限されるし、一人では着脱もできないと和田勇から諭されて納得した経緯がある。

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