第8話 買い取り


 買い取り窓口で俺を担当してくれたのは、中年のおじさんだった。


「あのう、オオカミの毛皮が何枚かあるので買い取ってもらいたいんですが」

 手持ちの中で一番高価でなさそう・・・・なものがこのオオカミの毛皮だったりする。


「そこの台の上に出してくれるかい。

 おっ、お前さん見ない顔だが新入りだな? 何でもそうだが仕留め方や処理の仕方でずいぶん値段が変わるからな」


 背中からバックパックを下し、中から3枚ほど赤っぽい色をしたオオカミの毛皮を取り出した。


「こいつはルビーウルフじゃないか。これはお前さんが斃していだものかい? どれも頭蓋を潰して一撃か。見事な腕前だな。得物はメイスじゃなさそうだがまさか素手ってことはないだろうし。なんであれ、胴体の皮にキズがないうえに後処理も完璧だ。

 この毛並みとつや、素晴らしい。毛皮1枚あたり金貨10枚、全部で金貨30枚で買い取ろう。

 これが買い取り証明だ」


 受け取った紙には『ルビーウルフ、金貨30枚』と書いてあった。それと俺には判別不明のサインが下の方に書き加えられていた。


 何も考えずただ赤茶けた狼と思っていたのだが、ルビーウルフという立派な名前が付いていたのか。名まえにたがわず予想以上の値が付いた。金貨1枚の価値は日本円にして5万円くらいだろうから、この3枚で150万円だ。しかし、一番価値のなさそうな狼の毛皮でこれだと、他のものはそうそう出せないんじゃないか?


 ちなみに通貨の単位はシー。貨幣は下から、銅貨、大銅貨、黄銅貨、銀貨、金貨の5種が主流になっており、銅貨=1C、大銅貨=10C、黄銅貨=50C、銀貨=250C、金貨=5000Cとなっている。銅貨1つ=1Cが簡易的に10円と思えばよい。価格はシーではなく銀貨1枚と黄銅貨2枚というふうに貨幣何枚で表されることが多い。


 ほかに大金貨=金貨10枚=5万Cというのもあるようだが一般ではあまり使われていないらしい。


「お前さん、結構な腕前なうえに面構えからしてただ者じゃないな。俺の名前はグレンという。これからもバンバン頑張ってくれよ」


「わたしはこの街に今日到着して、ついさっき冒険者登録をしたGランクのオオヤマといいます。田舎から出てきたばかりの初心者ですのでこれからもよろしくお願いします」


「謙遜するなよ。おまえさんの腕前なら半年もすりゃ、Bランクくらいにはなれるかもしれないぜ。さっきの買い取り証明を査定窓口に出せば貢献ポイントに加算される。今回30ポイント加算されるわけだから、あっという間にEランクだな。

 それはそうと、おせっかいかもしれないが、お前さんの持ってるそのリュック、マジックバッグなんだろ? 人前であんまり使ってるところを見せないほうがいいぞ」


「ご忠告ありがとうございます」


 さっきの目つきの悪い連中がこっちのほうを見ているなかで、素直に感謝の言葉を返しておいた。


 さして大きくないバックパックからかなり大きな毛皮の塊がぽんぽん3つも出てくればそりゃ普通じゃないし目立つわ。ま、いっか。


 別にEランクになったところで何がどう変わるわけでもないのだろうが、一応買い取り証明書を持って一般窓口の先にあった査定窓口に回った。査定窓口にはだれもいなかったので「お願いします」と大き目な声で係りの人を呼んだ。


 そうしたら、一般窓口に座っていたマリアさんがやってきた。


「あら、オオヤマさん。査定の受付してるエレンが、休憩に入っているから私が代わりに承ります」


 マリアさんに買い取り証明書を渡した。


「へ? もう金貨30枚も」


「ここに来る途中仕留めていたルビーウルフとかいうオオカミの皮を持ってたもので」


「ルビーウルフを一人で」


「一応」


「そ、そうですか。分かりました。ギルドカードをお願いします」


 ギルドカードをマリアさんに渡したら、マリアさんがはそれを見ながら後ろの書類棚からカードを1枚取り出して何か書きつけた。俺の貢献ポイントを記録しているのだろう。その後席を立って奥の方に駆けていった。


 少し待っていたらマリアさんが帰ってきた。


「これがEランクのカードになります。Dランクに昇格するためには60貢献ポイント必要になります」


 渡されたカードは銅製だった。ちょっと残念だがピカピカではなく使い古した10円玉の色だった。



 とりあえず、冒険者登録も完了したし、オオカミの毛皮を売って懐も十二分に温かくなったうえ昇格までしてしまった。


 どこかで昼飯にしよう。ギルドの中の食堂兼酒場だと妙なやつが絡んで来るかもしれないし、こんなところで叩きのめすと目立ってしまうだろうから外をあたるとするか。


 その前に、冒険者に関係するルビーウルフの情報も調べておくか。


<検索>「ルビーウルフ 冒険者」


 ルビーウルフ:オオカミがモンスター化した変異体で体長(鼻先から尻まで)は2メートルを超える。単体でもランクDの冒険者パーティー、群れになればランクB以上の冒険者パーティーでの討伐が推奨される。


 ふーん。俺にとってはモブモンスターだったというくらいの記憶しかないモンスターだけど、毛皮の値段からしてそこそこのモンスターだったことは分かる。しかし、群れになろうとザコはザコ。それをランクB以上の冒険者パーティーでの討伐が推奨されるってか。Aランクの冒険者の実力も推して知るべし?


 ルビーウルフはさておき、さっきの男を鑑定してやろう。


 先ほどのバーツとかいうおっさんを視界にとらえ、<鑑定>。


名前:バーツ 年齢:32 種族:人

レベル:12

HP:120/124

SP:15/15

力:11

体力:12

知能:8

精神力:7

素早さ:8

巧みさ:7

運:4

スキル:片手剣


 これらの数値は高いのか低いのか? 感覚的にはかなり低いように思えるが。


 その後俺自身を鑑定してみたが、名まえと年齢以外鑑定不能と出た。うーん、位置情報も書き換えられるのだが、俺のステータスを知ることはできないのか。そもそも俺はアテナ世界で生まれたわけじゃないうえ、いきなりこの世界に現れたわけだから、そこら辺のデータが欠落してるんだろうな。


 冒険者ギルドを出た俺は、広場の中をゆっくり歩きながら、そこらを歩いている人を片端から鑑定してやった。どうやら、普通の街の人のレベルは3から6くらい。冒険者風の人物や兵隊のような人物で10から15くらいだった。結局20を超えるレベルの人物は一人もいなかった。



 横目で冒険者ギルドの出入り口を見ると、バーツくんたちがやっと出てきた。俺の方は広場から続く通りに出て食堂を探しながら、連中が俺のことを見失わないようにゆっくり歩いていった。


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