第9話 飛んで火にいる。白ユリ亭

[まえがき]

これ系統。恒例ですので。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 広場から続く石畳の道を少し行ったところで脇道に入ったところ、よさげな食堂を見つけた。一仕事終えたらここで食事しよう。それはそれとして、俺はその脇道からさらに人気ひとけのなさそうな小路へと入っていった。


 角を曲がるときにはちゃんとバーツくんたちが俺を見失わないように意識してゆっくり曲がる。俺が人気のない小路に入ったところでバーツくんは足を速めたのか、間をおかずバーツくんが声をかけてきた。待ってましたよ。

 俺自身、不思議なんだが、こういった展開を楽しんでる。今の圧倒的な肉体に精神が引きずられているのかもしれない。それはそれで、それだけの話だ。


「おい、さっきの新人。俺だよ。忘れちゃいないだろ?」

「いや、あなたのような貧相な人に知り合いはいません。どちらさんですか?」


 バカにしたようにというか、そのまんまバカにしてやった。


「なにー! まあいい。お前の背負っているそのリュック。新人が持つにはちょっと贅沢な品物だ。俺たちが代わりに使ってやるからよこしな。それと有り金もな。まあ、社会勉強代ってことだ」


 顔から想像したところ、無知蒙昧の輩かと思っていたが、社会勉強とは。意外と難しい言葉を知ってるもんだ。


「ああー。なんとなく思い出した、さっきギルドにいたおじさんだ。目つきの悪さと今の三下感さんしたかん丸出しのセリフで思い出しました」


 ギルドでは5人組だったと思ったが今は4人か。そのうちの2人が俺の後に回り込んで、位置に着いたところでゆっくりと剣を抜き、身構えた。俺の後ろに目が付いているわけではないが気配だけで背後の動きが手に取るように分かる。チュートリアルフィールドで人間を辞めてからずいぶん経つものなー。


 感慨にふけっていたら、バーツくんは仲間が俺の後ろを取ったところでニヤリと笑った。

「軽口はそれなりに高くつくぜ。おとなしく渡せば2、3発殴るだけで済ませてやろうと思っていたが骨の1、2本は叩き折ってやるから覚悟しな」

 そう言いながらバーツくんが殴りかかってきた。


 バーツくんは笑いを顔に出していたが、俺は笑いを顔には出さず心の中で笑いながら、俺の顔を狙ってきたパンチを体を少し捻ってかわした。かわしながら半歩ほど前に出て、左の手のひらで軽くバーツくんのみぞおちを突いてやった。


 カウンター気味というほどではなかったが、バーツくんはパンチを繰り出してきたそのままの勢いで俺を見ながら前のめりに崩れ伏した。

 俺を見る目が三白眼を上目遣いにしていた関係で白目30パーセントマシマシだった。

 そのバーツくんは息ができないのか顔を赤くして口をパクパクさせてあえいでいる。男の喘ぎ声は要らんです。


 それを見たバーツくんの後ろにいた男は左手にナイフを持って身構え、俺の後ろにいた2人は怒声を上げながら剣を振りかぶって切りかかってきた。


 体をねじりながら後ろからの一人目の剣をかわした俺は、左手でそいつのみぞおちを突いてやった。後ろからの2人目の剣はかわす余裕がなかったので振り下ろされる途中で左手の親指と人差し指で剣身を摘まんでそのまま奪い取ってやった。目を剥く男の顔に笑いかけて右手で男のみぞおちに軽く当て身をくれてやった。


 ナイフを持った3人目については今奪い取った剣でナイフを弾き飛ばして、一歩踏み込んで、剣の柄でみぞおちを軽く突いてやった。


 気絶しないよう頭を揺らすのではなくみぞおちを突いたおかげで4人とも意識は飛んでいないらしく下を向いて苦しそうにうなっている。いや、えずいている?


 この連中を始末して何か問題があるか? あまり問題はなさそうだが彼らは一応冒険者。狭い世界で横のつながりがありそうだ。

 それでも死体を始末してしまえば知らぬ存ぜぬでそれっきりではあるが、こいつらの残りの一人はこいつらが俺と接触したことを知っているはずなので、あまりグレーなことはしない方がいいだろう。仕方ない。ここは脅すだけで済ませるか。


 そういうことなので彼らに為になる教訓を垂れてあげよう。路地裏の垂訓だな。かの有名な垂訓と中身は真逆だけど。


「みなさんも、人の物をゆすり取ろうとしてたんですからそれなりの覚悟があったんでしょう?しかも刃物まで振り上げたんだから、自分たちが返り討ちにあっても文句なんかないですよね?」


 人生で一度は言ってみたいセリフナンバー12くらいのセリフを嫌味っぽく言ってニコッと笑ってやった。4人とも地面を見ていたので、天使のような俺のほほえみを見てくれなかったみたいだけど俺は話を続けた。


「迷惑料として皆さんの持ち物とお金をもらっておきますか。

 他人ひとに向かって骨の1、2本は叩き折ってやるとか言ってたけど、このまま皆さんの四肢の骨を踏み砕いてもいいんですよ」


 少しおっさんたちが静かになったのか?


「今回は大目に見ておきましょう。これに懲りたのなら、さっさとこの街からいなくなることをお勧めしますよ」

 脅し文句を付け加えたところで、それでは戦利品を回収するとしよう。


<サーチ>

<対象>硬貨 OR ポーション。<範囲>眼前の4名。男たちの懐や小物入れのある場所に複数の〔・〕マークが現れる。<ロック>。〔・〕マークが赤く点滅。

<対象>ロック

<アイテムボックス収納>


 金貨25枚、銀貨12枚、その他の硬貨が、アイテムボックスに収納された。残念ながらポーションは持っていなかった。けっこうな金を持ってな。


<サーチ>

<対象>like武器。<範囲>半径3m。路地に転がっている剣やナイフ、男たちの懐や小物入れのある場所に〔・〕マークが現れる。<ロック>。〔・〕マークが赤く点滅。

<対象>ロック

<アイテムボックス収納>

 長剣4本、短剣2本、ナイフ4本、投擲用ナイフ8本が収納された。大した出来の武器ではないのだろうが、消耗品と考えれば何かの役に立つだろう。


「それじゃ、さよなら。こういったことは相手を見てからにしたほうがいいですよ。まあ、それができないからこの結果になったんでしょうが」



 男たちはいまだに苦しそうに唸っているところを見ると、ある程度内臓が損傷したかもしれない。ドンマイ。



 俺は自業自得男たちをその場に残し、路地を出て道を引き返し、男たちを誘って小路に入る前に見つけておいた食堂に入った。


「いらっしゃいませ! しらユリ亭へようこそ」


 15、6才に見える女の子が元気のよい声で迎えてくれた。さっきのむさい連中とは大違いだ。


 白の長そでシャツに、黒のセミロングスカート。それにエンジ色のエプロン。栗色の髪の毛をショートに切りそろえ、ボーイッシュな小顔がとてもかわいい。


 昼時でだいぶ客も多いが、まだ空いた席もある。


「相席になりますが、よろしいですか?」


 うなずくと「こちらにどうぞ」と言って席に案内してくれた。案内されたのは二人席で、灰色のローブ姿の小柄な人物が頭にフードを被ったまま食事していた。


 俺は軽くフードの人物に会釈して、勧められた向かいの席に着いた。バックパックは邪魔にならないようテーブルの横に置いもののやっぱり邪魔になった。足元には置けない大きさなので仕方がないよな。かといってアイテムボックスに今さら入れられないし。


「ご注文は何にします? 今日のお勧めはウサギの腿肉のソテーになります。それにパンと野菜スープが付いて大銅貨5枚です」

「じゃあ、そのお勧めで」

「ご注文はウサギですか? かしこまりました」

 なぜに疑問形? いいけど。


「あと、エールを1杯もらおうかな」

「エールはジョッキ1杯で大銅貨3枚です。料理と一緒にお持ちしますので、その時合わせて大銅貨8枚お支払いください」


 店の女の子はそう言って、急いで厨房に引っ込んで、すぐにエールのジョッキと小皿を持って戻ってきた。


「お先にエール持ってきました。こっちの小皿は青豆を茹でたもので、お店からのサービスです」

「ありがとう」


 黄銅貨1枚と大銅貨3枚渡した。


 小皿はここが居酒屋ならお通しになるのだろうがサービスか。なかなか良心的じゃないか。高評価だ。


 そら豆に似た形をした豆を1粒つまみ、口に放り込んだ。まだ温かかった青豆はそら豆と違って皮がなくそのまま食べられた。


 この味はやはりそら豆? 塩加減が絶妙でうまい。


 口にしたエールの方は予想通り生ぬるかった。そこで思いついたのだがシステム操作で冷やせるんじゃないか?


<対象>ジョッキと中のエール。<ロック>。<原子・分子拘束場、弱>5秒。これで、対象を構成する分子の運動が強制的に弱められ、結果として温度が毎秒3度ずつ低下して15度ほど冷えるはず。


 もう一度口にしたエールは十分冷たくなっていた。妙な癖はあるのだが何年かぶりのアルコールだ。うまい!


 しばらく感動に浸っていた俺は、向かいに座る人物に注意を向けた。その人物はフードに隠れて目元は見えないがどうも若い女性のようだ。何かわけありかもしれないが、じろじろ見るのも失礼だし、面倒ごとは嫌なのでそれ以上注意することなくスルーしておいた。


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