第14話 カレン、カレン視点


 わたしの名はカレン・アーマット。ゆえあってアルスの街で冒険者登録して冒険者のまねごとをしている。


 今日は冒険者ギルドに顔を出さずそのまま東の丘陵近くまで行き薬草採取をしていたら、知らないうちに奥の方まで入り込んでしまっていた。マズいと思って街道の方に戻ろうとしたら腰布だけを着けて刃こぼれした剣や棍棒を持った人型のモンスター、おそらくオークに出くわしてしまった。それも3匹も。オークから逃げようと駆けだしたらオークたちが追ってきた。


 わたしはすぐに背負っていたリュックを投げだして走り続けた。


「ハア、ハア、ハア、……」


 息が上がってきた。


 それでも駆け通し、ここまで何とか逃げてきたけど、とうとう追いつかれてしまった。

 オーク1匹でも歯が立たないのに、目の前には3匹もオークがいる。


 背中を灌木にあずけたわたしは短剣を両手で構えて正面のオークに突き出すも、軽くあしらわれてしまった。

 何度かそういった攻防ともいえない戦いを続けていくうちに、剣を持ったオークに切り付けられ体のいたるところが傷ついていった。

 剣を持ったオークはまだわたしを殺す気はないようで本気での斬撃ではない。本気だったらもう何回も死んでいる。

 棍棒を持ったオークはいたぶられるわたしを見て笑っているように見える。


 オークに辱めを受けるくらいならいっそのこと。そんな考えがふとよぎる。まだだ、まだ諦めない。


 キッ! と、オークたちをにらみつける。わたしのその顔を見てオークたちはさらに興奮したらしく鼻息が荒くなってきた。そしてひどく臭い。


 またオークが剣を突き出してきた。

 短剣でなんとか受け流そうとしたが、短剣を弾き飛ばされてしまった。ナイフは投げだしたリュックの中だし、もう自分で死ぬことすらできない。


 その時人影のようなものが一瞬見えた。見えたと思う。


 何かが揺らいだかと思ったら、右端にいたオークが首から血を吹き出ししばらくして崩れ落ちた。その時には真ん中に立って剣でわたしをいたぶっていたオークも首から血を吹き出している。最後のオークが、仲間が倒れた音に気付いて振り返ったと思ったら、振り向いたはずの頭がなくなっていた。


 頭を失くして首の付け根から鼓動に合わせて血を噴き上げながら倒れていくオークのすぐそばに普段着の男の人が立っていた。


 この人がオーク3匹を一瞬のうちに斃したのだろう。攻撃しているところは目で追うことすらできなかった。その男の人は先ほどまで手にしていたナイフをどこかにしまってわたしに近寄ってくる。


 自分でも身をこわばらせているのが分かる。危ないところを助けてもらったのは理解している。でも、あの強さは理解を超えている。普通じゃない。


「なんとか間に合ったみたいですね」


 男の人が声をかけてきた。言葉つきは丁寧。思ったよりも声は高め? 軽め? 体つきはそんなに大きくはないし、そこまで筋肉質にも見えない。何より、この人若い。わたしとそんなに変わらない。


 そんな自分勝手なことより、助けてもらったのだからお礼を言わなくちゃ。ただの村娘だったわたしも少し前までとある場所でちゃんとした教育を受けている。


「ハー、ハー。フー。

 助けていただき、ありがとうございます。

 何かお礼をさせてください。あいにく手持ちがわずかなので、アルスの宿に戻らなくてはなりませんが」


 命を助けてもらった以上、金品でのお礼が必要と思うけれど、どの程度の金品が妥当なのか見当がつかない。もちろん余裕があれば、高額の金品をお礼として渡すこともやぶさかではないが、現在そこまでお金に余裕があるわけではない。一応、弾き飛ばされて地面に転がってしまってはいるけれどわたしの短剣はそれなりの値段で売れると思うし、宿に戻ればある程度のお金も置いてある。しかし、果たしてそれで十分だろうか? などと悩んでいると、


「いや、お礼はいいよ。そのかわり、オークの死骸はもらっていくから。いいよね?」


 そもそもオークを斃したのはこの人だし「いいよね?」って、言われたら「はい」って言うしかない。


 さらに、この人はわたしが軽い傷を何か所か受けて衣服や手足に血をにじませているのが痛々しいと、回復ポーションをくれた。オークと対峙しているときは痛みを感じなかったが、こうして助かってみると体中が痛む。礼を言って、素直にポーションを受け取り一気に飲み干した。体がほんわりと温かくなり、痛みが引いてゆく。どうやら中級の回復ポーションだったらしい。中級の回復ポーションは確か金貨1枚だったはず。


 飲み終わったポーションの瓶を目の前で捨てるのもどうかな? と、思ったわたしは上着の内ポケットにしまおうとしていたら、その空瓶を返してくれと言われた。もちろん断れないのですぐに手渡したら、どこかにしまってしまった。


 使ったポーション瓶を何に使うんだろう?


 まさかこの人、わたしの飲んだ飲み口を後で自分で舐めたりしないよね? 普通じゃない強さの人だからそういったところも普通じゃないかもしれない。でももう返しちゃったし、命の恩人だし。


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