第13話 やっとヒロイン登場?


 何回か前進と採集を繰り返していたらアラートに反応があった。赤い点が3個と黄色い点が1個。北東方向で距離は250メートル。そこまで遠いわけではないが起伏が邪魔のようで今のところ視認できない。4点をロックしてマークを付けておいた。


 位置が特定できた以上直接転移でもその気になれば近づけるが、転移先の状況が分からないと何が起こるか分からないので、歩いて近寄るほうが無難だ。


 100メートルほど駆け足で近づき、そこから草丈までしゃがんでマークが集まる場所近くまで近づいていった。


 赤いマークに100メートルまで近づいたところで、視認できた。幅広の剣を持ったオーク3匹と小柄な人間が一人。草の途切れた場所で戦闘中のようだ。オークについてはチュートリアルフィールドで戦ったことがあるはずなのだが、覚えていない。印象が薄すぎたのだろう。


 さらに接近したところ小柄な女の子が短剣のようなものを構えてオークと対峙しているのが見えた。


 あっ! 女の子の短剣がオークの剣ではじかれ飛ばされた。大きく体勢の崩れた女の子に向かってオークが軽く剣を突き出した。かすっただけで致命傷ではないようだ。オークたちに軽くあしらわれて遊ばれている?


 これは、クッころ展開か? クッころ鑑賞もいいがそれはアニメかコミックの世界の話で現実だと見ていて楽しいものではないだろう。まっ、助けてやるか。


 しかし、助けるとしてもどうやって助けるか? それが問題だ。


 インスタントデスでは後の説明が面倒だし、素手で斃してしまうのもなんか違うというか。もっと説明がややこしくなりそうな。


 仕方ない、刃物は使ったことがないけど、ナイフでオークたちの頸動脈を狙ってみますか。それなら何とかなるだろう。


 忍び足でオークたちの後ろに回り、1匹の首筋をナイフで軽く切り裂いてやった。あまり強くするとナイフが折れるか首ごと切れてしまいそうなので、あくまで軽く。


 残った2匹は仲間の異変にまだ気付いていない。絶体絶命の女性はいきなり現れオークを斃した俺にビックリしたろうが、あからさまには視線を向けないようにしてくれている。


 2匹目の首を切り裂いてから3匹目に忍び寄った。そこで1匹目が大きな音を立てて地面に倒れたので、その音で最後の一匹が振り向いたことで、俺とオークの目が合った。驚くオークの口からはヨダレが垂れていて非常に気色悪い。それ以上に息が臭い。


 俺は思わず、ナイフを持っていなかった左手の手のひらでオークの顔をあっちに行けとばかりにはたいてしまった。


 バッ!


 短い音とともに最後のオークの頭が首からちぎれて飛んでいってしまった。ありゃりゃ。

 チュートリアルフィールドではありがたいことに、どういったモンスターと対峙してもこういった臭いはなかった。神さまのさりげない配慮だったのだろう。


 ちぎれた首の根元から何本か血管らしきものがのぞいていて、その先端から大きく広がることなく血が吹き出ていた。血管は血が噴き出るのに合わせてのたくるのでいたるところに血がばらまかれるのだが、幸いなことに俺にも女の子にも血はかからなかった。


 目の前の女の子が目を見開いて俺の方を見ている。怖がらせてしまったかな? 絶体絶命のピンチを救ってあげたんだけど。やっちまったのか?


 右手に持っていたナイフは汚れてはいなかったけれど軽く血振りしてアイテムボックスの中にしまっておいた。それからゆっくりと女の子に近づいていった。あれ、この女の子、昨日の昼めしの時同席した女の子だ。この雰囲気は間違いない。


 今はフードが外れ、肩までで切りそろえた濡羽色ぬればいろの髪が、頬から首元にかけて白磁のような肌の上に汗で張り付いている。少々なまめかしい。切れ長の目の中の黒い瞳が驚いたような、怯えたような、そんな感じで俺を見つめている。


 年の頃はと言えば、14、5歳か? それよりも若いか? どちらにせよ美少女だ。


「なんとか間に合ったみたいだね」


 俺が声をかけると、彼女はわれに返ったようで、小さな声で俺に礼を言った。


「ハア、ハア。フー。

 助けていただきありがとうございます。

 何かお礼をさせてください。あいにく手持ちがわずかなので、アルスの宿に戻らなくてはなりませんが」


「いや、別にお礼はいいよ。そのかわり、オークの死体はもらうから。いいよね」


 少女がうなずいた。


 彼女の手足には何か所か切り傷もあり、出血もしている。纏ったローブも何か所か切り裂かれて、その下の衣類に血がにじんでいた。見てて痛々しい。


「回復ポーションあるけど、飲まないかい? というより見てて痛々しいから飲んでくれ。お願いするよ」


 先ほど成分解析用に買った中級ポーションを取り出し栓を抜いて少女に手渡した。


「ありがとうございます」


 回復ポーションを受け取った彼女は、一気に飲み干した。


「瓶は返してくれるかな?」


 ポーション自作の時に使うから空瓶を返してもらったのだが、ちょっとセコイか。


 いけないこととは知りながらちょこっとこの女の子を鑑定してみましょう。チラ見でね。あと、鑑定で、長さ(スリーサイズ含む)は正確にわかるけど、体重はおおよそでしかわかりません。能力値は小数点以下四捨五入で表示。


<鑑定>

名前:カレン・アーマット 年齢:14 種族:人

レベル:1

HP:15/15

SP:21/21

力:7

体力:7

知力:16

精神力:17

素早さ:12

巧みさ:9

運:16

スキル:なし

特殊:アテナの呪い(レベルアップ不能。スキル取得不能)


アテナの呪い? 何だこりゃ?



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