第24話 錬金術師ギルド2


 しらユリ亭に戻った俺とカレンは、いったん各々の部屋に戻って着替えたあと、一緒に食堂で昼食をとった。今日の昼用にと屋台で用意したサンドイッチはアイテムボックスに入れておけば傷むわけではないのでそのままだ。


「食事が終わったら、冒険者ギルドに行ってオークを換金してこよう。いくら何でも一度には引き取ってくれないだろうから、1回当たり5匹がいいところかな?」


「あのう、ゲンタロウさん。冒険者ギルド行くならオークを殲滅したことを報告してもいいんじゃないですか?」


 どうも、カレンはまじめ人間のようだ。まじめは悪いことではないが、オークを殲滅したとか言った場合、注目されるし、殲滅したと言った以上オークの死体を全部見せなきゃならなくなる。根掘り葉掘りでは済まない。自分の行動の一歩先くらいは考えた方がいい。とはいえカレンはまだ15歳くらいの小娘なのだから、注意するほどのことでもないか。


「ギルドに報告? なんで? 面倒だからいいよ」


「面倒でも、東の丘陵にオークがいなくなれば低位の冒険者でも行けるようになるんですよ」


「オークがいなくなればな。さっき集落にいたオークは全部仕留めたけれど、ほかにも俺が数えただけでも30匹はまだあのあたりに残ってうろついているんだよ」


「そ、そうだったんですか」


「そ。それに、ギルドに頼まれてわざわざオークの集落を調査にやってきた冒険者たちだって、オークが全然いませんでしたじゃかわいそうじゃないか。いるのを見つけることは簡単だが、いない事の証明は難しいしな」


「……」


 納得したのかしないのか分からないような顔をしてカレンはそれ以上その件に関しては何も言わず食事を続けた。



 昼食を食べ終えリリーに軽く会釈して店を出た俺たちは、冒険者ギルドの脇の小路に転移して、そこから正面に回ってギルドの中に入っていった。


 カレンとは入り口で別れ、俺はいつものように買い取り窓口に向かった。今日もグレンさんの窓口が空いているたので、そちらに回る。カレンは依頼の書いた紙が貼ってある掲示板の方に向かった。


「グレンさん。今日もお願いします」

「おう。ゲンタロウか、今日もオークかい?」

「はい、今日は5匹でお願いします」

「わかった。解体作業場に回ってそこに出してくれるかい」

「了解」


 解体作業場で5匹分のオークを取り出した。


「昨日は首筋一撃だったが、今日はどうやって斃したのかもわかんないな」

「ははは。まあ、いろいろとですね」

「別に聞きゃしないよ。それとだ、1匹当たり金貨1枚と銀貨10枚だったら、詳しく見なくても今すぐ払えるけどどうする?」

「それなら、それでお願いします」


 買取窓口に戻って、買取金額証明書と金貨7枚と銀貨10枚を受け取り、掲示板を見ていたカレンを呼んで査定窓口に回った。



 査定窓口は、マリアさんではなく違う女性だった。彼女がエレンさんだろう。


 朝の分の金貨5枚の買取金額証明書と先ほどの金貨7枚と銀貨10枚の買取金額証明書、オークの左耳5個を提出した。


「オーク5匹で、討伐報酬が金貨2枚と銀貨10枚になります。買取金額証明書が合計で金貨12枚と銀貨10枚ですから、ギルドポイントは合計で15ポイントになります。配分はどうしますか?」


「わたしと、カレンでそれぞれ半分ずつになるようにお願いします」


「了解しました。お二人ともギルドカードをお願いします」


 ギルドカードを渡したらエレンさんはそれを見ながら後ろの書類棚から2枚カードを取り出して何か書きつけた。俺たちの貢献ポイントを記録しているのだろう。


「カレンさんは貢献ポイントが11ポイントですので、Fランクに昇格します。ギルドカードを更新しますのでしばらくお待ちください」


 窓口で待っていたらそれほど待つことなくエレンさんがカレンのギルドカードを持って戻ってきた。Gと書かれたところが消されてFに書き換えられていただけだった。そんなもんだよ下っ端だもの。


 カレンには今日の報酬金貨15枚の3分の1の金貨5枚を渡した。



「今日はこんなところかな。あとは自由時間ということでいいか。

 カレン、俺はこれから錬金術師ギルドに用があるんだけど、一緒に来るかい?」一応確認。


「わたしもご一緒します」


 カレンもついてくるようだ。



 冒険者ギルドから100メートルほど歩いて錬金術師ギルドに到着した。前回は会員でなかったので何も買えなかったのだが、今回は話を聞くだけだ。いくら何でも話くらいしてくれるだろう。


 俺は窓口に向かって歩いていき正面に立ったところで、窓口の女性が応対してくれた。


「どういったご用件でしょうか?」


「わたしの作ったポーションの買取をお願いしたいんですが」


「申し訳ございません。当ギルドでは、ポーション類の買取は行っておりません。また、ギルド会員さま以外には素材や資材の販売も致しておりません」


 ここまでは想定内。


「わかりました。あと、上級の回復ポーションはどこかで取り扱っていませんか?」


「上級以上の回復ポーションは、国内はもとよりこの大陸に作成できる錬金術師がいませんので販売されていません。ダンジョン等で上級以上の回復ポーションが発見された場合は、国が優先的に買い取ることになっています」


「そうでしたか。用向きは以上です。ありがとうございます」


 窓口の女性に丁寧に礼を言って錬金術師ギルドを出た。


「ゲンタロウさんは錬金術師でもあったんですか?」


 カレンが聞いてきた。


「そうじゃないんだけど、一応ポーションは作れるよ。複雑な物でないなら。それで一儲けしようと思ってたんだけどな」


「ポーションが作れるなら、錬金術師なんじゃ?」


「そういう意味だと錬金術師かもしれないけれど、さっきの窓口でも言ってたように錬金術師ギルドの会員じゃないから錬金術師ギルドにポーションを卸せないんだよ」


「錬金術師ギルドがポーションを一手に扱って、ギルドの会員以外を締め出しているってことですか?」


「まっ、そんなところじゃないか」


「ゲンタロウさん、落ち着いているけどそれでいいんですか?」


 どうしたカレン? 正義感が強いって生きていくうえであまり良いことじゃないと思うが。


「自分で売るのは面倒だから錬金術師ギルドに卸してやろうかと思ったけれど、自分で売ればいいだけだから。連中の売るポーションよりいいものを安く大量に売ってやれば連中も困るだろ?」


「錬金術師ギルドと張り合うつもりなんですか?」


「こっちにはその気はあまりないけど、相手次第で結果的にはそうなるかもな。なんであれどうとでもなるから心配しないでもいいよ」


 素材というか薬草さえ手に入ればかなりの量のポーションを作れるから勝算はある。あんまり派手なことをしていると錬金術師ギルドから横やりが入るかもしれないが、それこそ望むところだ。やりようによってはこの街の錬金術師ギルドを俺の物にできるかもしれない。ワクワクが止まらないぞ。


 その日の予定はそれで終わったので、カレンを宿屋に戻し、俺自身はまだ薬草採集をしていない東の丘陵を回って薬草を採集して回った。もちろんオークもいたが面倒なので放っておいた。



 薬草の採集を終えて宿に帰った頃には夕方だったので、カレンを誘って宿の食堂で食事をした。


 二人席で向かい合って食事していたところにリリーがやってきた。

「いつも二人いっしょだけど、もう二人とも……」

「二人で冒険者として頑張っているが、それが何か?」

「何でもない」


 近頃の子どもは妙にませてる。黙っていたカレンの顔を見たら真っ赤な顔をしていた。意識し過ぎじゃないか? 俺とカレンはあくまで同じパーティーのメンバーで、俺がカレンの師匠ってだけの関係なんだがな。



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