第23話 カレン7、カレン視点オーク殲滅。


 オオヤマさん、いえ、ゲンタロウさんはどうもオークの集落を探し出して殲滅してしまうつもりのようだ。


 オークたちはゲンタロウさんに一方的に殺されていくのだろう。いくら嫌いなオークといえども、首から血が吹きだしたり、頭がちぎれてどこかに飛んでいくところなんかを近くで見たくはない。


「あの、ほんとにオーク狩をするんですか?」


 確認するように恐る恐るゲンタロウさん聞いてみた。


「いや、あくまで薬草採集だよ。でも、たまたまオークがいたら逃げ出すくらいなら刈った方がいいんじゃないか? どうせオークなんだし」


 やっぱり。


 オークはわたしにとって、軽いトラウマなんですけど。でも嫌だとか行きたくないとは言えない。


 昼食用の肉や野菜を挟んだパンを屋台で大量に買い込んだゲンタロウさんは、さっさと支払いを済ませて、人目につかない路地裏にわたしを連れて入っていった。もちろん変な意味じゃない。ハズ?




 路地裏に連れ込まれたのは、予想通り転移のためだった。あまりおおぴらに人に見られたくないということだろう。ゲンタロウさんでも少しは人目を気にするらしい。少し安心した。


 手を握られたかと思うと、薄暗い路地裏から日の光の眩しい草原に立っていた。



「あれれ、オークの集落だ。100匹くらいいる。偶然見つけちゃった。ちょっと離れているけど、野放しにはできないし、行ってみるしかないよな」


 転移後、しばらく黙っていたゲンタロウさんがこう言った。


 わたしには、ゲンタロウさんがどうやってオークを見つけたのか、どこに集落があるのか、まったく見当もつかない。でも、ゲンタロウさんの言う通りなのだろう。


 ゲンタロウさんの後について草をかき分け1時間ぐらい草原を進んだろうか。途中オークに出くわすこともなく、周りが良く見渡せる少し盛り上がった場所にたどり着いた。


 ゲンタロウさんは腰をかがめて草の間から前方をじっと見ている。わたしもゲンタロウさんのまねをしてそっちの方を見ると、歩けば5、6分くらいのところにオークの集落らしき場所を見つけた。見張りをしているオークや、何かの作業をしているオークが全部で15匹前後見える。ここは風下のようだしオークたちはわたしたちのことを気付いてはいないようだ。あの場所からゆっくり移動したといっても1時間も歩いた先のオークの集落をどうやってゲンタロウさんは知ったのか? 謎だ。


「すぐに終わるから。カレンは耳の剥ぎ取り用のナイフを出しておいてくれるかい」


 何が終わるのかわからないけど、短剣でなく剥ぎ取り用のナイフを出すよう言われた。


 なんとなく、これから起こることはわたしの予想とは違うような気がし始めた。それでもわたしはリュックをいったん下ろして中から剥ぎ取り用のナイフを取り出した。当然、目線はオークたちをとらえたままだ。


 前方を見ながらリュックを背負い直したところ、いきなりわたしが見ていたオークたちが一斉に倒れた。どうなってるのかわからない。わからないけれど、ゲンタロウさんが何かしたんだと思う。でも何をしたのかそぶりも何もなかったはず。

 ゲンタロウさんはオークの集落の中に突っ込んでいって当たるを幸いになぎ倒していくのだろうと何となく思っていたのだが、予想通り予想が外れた。あれ? わたし何言ってるんだろ?


『よし。インスタントデスはレジストゼロで発動した。上位種とかいたかどうか分からないが、オークって想定以上に弱いな』


 ゲンタロウさんが独り言を言っている。


「全部で112匹いたはずだから、漏れのないよう数えながら左耳を剥ぎ取っていこう」


 ゲンタロウさんはわたしにそう言って立ちあがり、軽い足取りでオークの集落に向かって歩いていった。その後に続いてわたしも歩いていった。


 オークのいたハズの場所には嫌な臭いの中にオークの死体が無数に転がっていた。


 わたしは臭気に耐えながら黙ってオークの左耳を切り取り始めた。


 ゲンタロウさんもしゃがんでオークの耳を切り取り始めたのかと思ったら、何を思ったか、オークの頭を手刀で殴りつけてそれで千切れた左耳を回収していた。ゲンタロウさんに殴りつけられたオークの頭の左側は潰れている。何かそのオークに恨みでもあったのだろうか?


 どうも、アレは恨みを晴らすために頭を潰したのではなく、耳を手刀で削ぎ取ろうとして単に失敗したらしく、その後ゲンタロウさんはマジックバッグのリュックからナイフを取り出して、それでオークの左耳を削ぎ落し始めた。


 わたしも負けないようにオークの左耳を削ぎ落していったのだけど、わたしの剥ぎ取り用のナイフはすぐに切れ味が悪くなったので、荷物の中から護身用のナイフを取り出して、それで耳を切り取っていくことにした。


 ……。


 意外と時間がかかったけれど、これがおそらく最後のオーク。その左耳をそぎ落とし袋に入れた。袋には40個の耳が入っいる。幸い、そんなに血が付いていないので助かった。


「全部で、40個あります」


 そう言って袋をゲンタロウさんに渡した。


「じゃあ、全部で112匹。完了だね。一緒に収納しとくよ」


 ゲンタロウさんは手に取った袋に何をしたわけでもないようだが、その袋は目の前で消えてしまった。アイテムバックのリュックにしまったのだろう。


 それはそうと、そこら中に横たわっている112匹のオークの死骸はいったいどうするのだろう? と、見ていると、一瞬で目の前にあったはずの死骸が全部消え失せてしまった。周りを見ても死骸はどこにもなかった。散らばっていた武器なども同時に消え失せた。これもマジックバッグに収納したのだろうが、ゲンタロウさんの持つマジックバッグの容量はどれほどのものなのか見当もつかない。


 片付け終わったら報酬の分配の話になった。ゲンタロウさんは今回も含めて2人で活動した場合、わたしに報酬の3分の1くれるという。それでも、金貨50枚を超えるんじゃないだろうか。


 耳を切り落としただけのわたしは受け取れない。と、言ったら、「気にするな」と、笑って言われた。わたしだって活躍して、納得して分け前をもらいたい。次回こそ頑張ろう。と、思いたいけどきっとそう簡単には活躍なんてできないよね。


 先ほどオーク達がバタバタと倒れのは即死魔法なんだろうか? オークの死体には傷もなければ苦しんだ様子もなかった。ふつう、即死魔法はレジストされれば何の効果もない。だけど今回、オークたちは一瞬のうちに全滅したようだ。本人も「レジストゼロ」とかつぶやいていたし。


 つまり112匹全てに一度もレジストされないだけの圧倒的なレベル差か能力差があったのだろう。しかし即死魔法は本来単体魔法のはず。全体攻撃型の即死魔法? いやいや、そんなものあれば、軍隊だろうと相手にならないだろうし、戦争そのものが無意味になる。でも現実としてオークたちはわたしの目の前で即死している。ゲンタロウさんは、一人でも一国の軍隊を簡単に滅ぼせると考えていい。


 さらにあげれば、ゲンタロウさんは呪文のたぐいを一切詠唱していなかった。そもそも魔法名さえ口にしていない。ゲンタロウさんが魔法を使っているのなら、もはや最高位の魔法使いに匹敵するスキルを持っていることになる。しかも、あの身体能力。もはやモンスター?


 いけない、命の恩人に対してそんな失礼なことを考えてはだめだ。いくら変わった性癖があろうとわたしの命の恩人であり先生なんだから。



 そういえば「俺はAランクの冒険者程度なら簡単にあしらえると思うよ。たとえそれが、パーティーでもね」と、冗談のように言っていたけど、あれって本気だったんだ。


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