第40話 たたきつぶせ悪魔の手先、バスラバ一家


 バスラバ一家のチンピラたちが退散していって、静かになった冒険者ギルドの前でポーションを売りながら、マークしたチンピラたちの行方を頭の中で追っていたら30分ほどで動きが止まった。バスラバ一家のアジトの可能性大だ。


「カレン、今日の営業はこの辺にしておくか」

「はい」


 椅子を屋台の中にしまってから屋台を押して冒険者ギルドの脇の道に入っていき、そこで屋台をアイテムボックスの中にしまいカレンを連れていったん家に戻った。


「カレン、俺はちょっと用事ができたから出てくる。

 そんなに遅くはならないから待っててくれ。

 そうだ、先に風呂の準備をしておくから風呂にでも入っててくれればいい」


「はい。

 何か手伝うことはありますか?」


「別にないから、ゆっくりしててくれ」


 俺は井戸端に跳んで空樽を並べて水を井戸から汲んでいき、いったんアイテムボックス収納してから風呂場に跳んだ。アイテムボックスから水樽を出し、その水で軽く風呂場を流してからクリンをかけて風呂場の掃除は終了。


 バスタブと湯貯めに水桶から水を入れ、水温を適温まで上げてやり風呂の準備は終わった。


「カレン、風呂の準備ができたから、ぬるくならないうちに入ってくれ」


『はーい』


「俺は出かけてくるから」


『はーい』



 さて、お仕事頑張ってきましょうかね。


 俺はバスラバ一家のチンピラたちが集っている場所に転移した。



 俺が現れた先は前回アギーノ一家、現在オオヤマ組に跳んで行った時の部屋とよく似た窓のない部屋で天井から吊るされたランプの光だけが頼りの薄暗い部屋だった。


 部屋の中には屋台にちょっかいを出そうとしたあげく冒険者たちの手で袋叩きにされて血まみれになったチンピラ4人の他、4、5人のチンピラがいてソファーに座っていた。


 袋叩きになった4人は4人とももう痛みは引いたようで今はうめいていなかった。よく見るとソファーを挟んでランプの真下に置かれたテーブルの上に殻のポーション瓶が転がっていた。ここの連中は羽振りがいいというより錬金術師ギルドと仲がいいんだろーな。と、勘繰った。仲良きことは美しきかな。ちがうか。


 そこまでを一瞬のうちに認識した俺は、それまで俺のことに気づいていなかった部屋の中の連中に向かってあいさつしてやった。


「よう!」


 その声で、部屋の中にいた10人近くの男たちが一斉に俺の方に顔を向けた。照れるな。


「俺は、アギーノ一家あらためオオヤマ組の組長のオオヤマだ。

 お前たちのボスに用があるんだが案内してくれないか?」


「なにを!」

 兄貴分に見えなくもない男が俺に向かって声を荒らげた。

「ナニオ、じゃなくてお前たちのボスに用事だ」

「いい加減にしろ!」

 

「俺にかかってくるのならそれもまたよし。ボスのところまで案内させるには一人いれば十分だ。

 全部で9人か。それじゃあ、これからお前たち9人の内で一人だけ生き残れる。言い方を変えるとお前たちの中の8人が死ぬ。そういうゲームを始めるぞ」


 われながら好戦的だが、相手は叩き潰すと決めた連中だ。俺にとってはチュートリアルフィールドのモンスターと同じだ。いや、あのモンスター以下の存在だ。


 部屋の中の男たちの内、ケガをしてない5人が一斉に立ち上がってナイフを構えた。ケガをしていた4人の内3人は賢くその5人の後ろに移動し、最後の一人は部屋を出ていった。加勢を求めに行ったのか、ボスの元に行ったのか。何であれ少しだけ長く生き残れる一人を自分で選んだようだ。案外賢いな。


 逃げていったのはいいが、扉を空け放しておいてくれればいいものをご丁寧に出ていったとき扉を閉めてくれた。ちょっとだけだったが、扉が閉まる前、扉のすぐ先に上り階段が見えた。


 今俺がいる部屋を中心にサーチしたところ、建物内にかなり人がいる。全部が全部バスラバ一家ではないかもしれないし、皆殺しにしてしまうと少し問題が出そうな気もする。とはいえオークとかゴブリンと同じ社会にとって害悪な連中を駆除する途中で多少の犠牲はやむを得ない。でき上った死体はアイテムボックス突っ込んでおけば問題ないし。錬金術師ギルドへの脅しおみやげにも使えるしな。


 考えはまとまった。


「一人逃げてしまったからお前たち全員殺すことにした。どうせ死んでしまうお前たちだ、思いっきり俺のことを悪く思っていいんだぞ」


 インスタントデスできれいに・・・・殺してやっても良かったが、あれだと凄惨さが全くない。逆に殴り殺してしまうと元の形がなくなってしまうのでよろしくない。中を取ってナイフで片を付けることにした。



 俺が見た目どこからともなくナイフを取り出したことで目の前の連中は身構えた。今回俺の取り出したナイフは刃がかけていなかったから、アギーノのところで頂いたナイフだ。


 ある程度俺がその気になってナイフを振るえば、どんななまくらナイフでもナイフに血糊はおろか脂も付かないと思う。


 俺はチンピラでは視認できない速さで5人に近づきナイフを一閃して5人まとめて喉を切り裂いてやった。血しぶきがかかっては嫌なので、そいつらの脇をそのまま潜り抜けて後ろにいた3人の喉も切り裂いてやった。


 ナイフの刃はほれぼれするほどピカピカのままだ。


 血だまりの中で8人が転がったが、失血死するまでアイテムボックスにしまえないので、鼓動に合わせて血が噴きでなくなってしばらく置いてから順にアイテムボックスにしまってやった。


 俺は先ほど逃げ出した男が何かしてくれるだろうと思ってナイフを右手に持ったまま、チンピラたちが座っていたソファーで血で汚れていないところを探してしばらく座っていた。それほど待たず扉の向こうから階段?を駆け下りる音が聞こえた。そしたら7、8人の男たちが扉を開けてなだれ込んできた。


 男たちは血の臭いが立ち込め、そこら中血しぶきと血だまりの中で悠然とソファーに座る俺を見て一瞬ひるんだ。


 どうもここの連中、こういった場面に慣れていないような気がする。


「よっ! ここにいた連中は俺が全部片づけてやった。

 死体も片付けてやったぞ。血の方はそのままだがな」


 俺の靴底も血の海に浸かっている。家に帰る前にクリンできれいにしておかないと床が汚れるな。


「俺はこうして座ってるんだ。さあ、遠慮せずにかかってこいよ」


 わざわざ隙を見せたうえ挑発してやったのにもかかわらず誰も俺にかかってこない。


「来ないなら、こっちから行くぞ」


 俺はゆっくり立ち上がり、男たちに向かって一歩前に出て一番近くの男の間合いにわざわざ入ってやった。俺の間合いはこの部屋全体のようなものだがな。


 さすがに堪えきれなくなったその男は手にしたナイフを突き出してきた。俺の目から見るとかなり緩慢な動きだ。それでも一歩を踏み出した勇気は称賛に値する。その勇気に敬意を表してナイフを持った手を手首からすっぱり切り取ってやった。切れ味良いなー。もう少し刃が長かったら首も刈れるんだが、この長さだと少し足りないんだよなー。いつぞやチンピラから奪った短剣は、手元流動性に余裕があり過ぎるので、そのまま売らずに持っているが、短剣を振り回すほどでもないんだよなー。


 男の手がナイフを握ったまま宙を飛んでいる間にそんなことを考えながらも、返すナイフで男の首を切り裂いてやった。手首より首の方が脳に近いから、手首の痛みが脳に到達しても、そっちが優先されてそれほど手首の痛みを感じないはずだ。本人は目をむいているだけだし。

 結局、痛みなんか飛んで行ってそのまま意識をなくしそうだ。


 他の男たちは状況が脳内で処理しきれていないようでボーっと突っ立ったままだ。連携も何もない烏合の衆とはこのことだ。こいつらと付き合っていても何も意味もないので、動きのない男たちの首筋をナイフで切り裂く簡単なお仕事を終わらせてやった。体感2秒、実質0.3秒といったところか。前回同様血しぶきに汚されないよううまく立ち回ったおかげで、今回も汚れずに済んだ。





[あとがき]

『鉄人28号』

https://www.youtube.com/watch?v=j_UYgWhmuZs

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