第37話 オオヤマ組


 アギーノの放った電撃を受けた俺は服が傷まなかったか心配したが、見たところどこも焦げていなかった。よかった。もし俺の服が傷んでたら、……。


「な! どうしてお前は立っている?」


 知らんがな。


「あのなー、今の電撃程度じゃどうにもならから、こうやって俺が立ってるんだろうが。アギーノさんとやら、あんた運がいいぞ。もし俺の服に焦げ目でもついていたら、相当後悔したと思うぞ。

 それはそうと、アギーノさんや。今の電撃だが、相手が俺じゃなかったら大ごとになったんじゃないか? あんた俺を殺そうとして電撃放ったんだろ?」


「……」


「そしたら、自分が殺されても文句は言えないよな?」


 一度は言ってみたいセリフナンバー14くらいのセリフを言ってやり、アギーノの後ろに転移で現れた。最後の「言えないよな?」はアギーノの耳元でささやいてやった。それでアギーノはびくっとした。


 俺は、もっぱら人型モンスターの耳の切り取り用に使っているナイフをアイテムボックスから取り出し右手で持った。ちらっと見たら先端だけは切れそうに見えるものの刃がだいぶ欠けていた。これでも相手が金物じゃなければ力を入れさえすればなんでも切れる。要は切れればいいんだよ、潰さずに切れれば。


 アギーノが振り返る前にナイフをアギーノの首筋に当てわずかに引いてやった。深さでいって3ミリ程度の傷のくせに首筋から血が盛大に染み出てきた。そんなに痛くはないはずだがアギーノは振り返るのを止めて代わりに悲鳴を上げた。そのせいでもう少し傷口が広がった。


 ほんとうに振り返っていたらもっと傷口は広がって最悪太い血管を切ってたかもしれない。この俺はそこまで鈍くないのですぐナイフ首から外すからそれはないけどな。


「や、止めろ!」


「止めろ?

 お前は立場が分かってないな。俺がちょっとばかし力を入れてこのナイフ引くだけでお前は首から血を吹き出して簡単に死んでしまうんだぞ」

「儂が死んだら、お前は俺の子分たちになぶり殺しにされるぞ」

「お前の子分に俺が殺されるだと? 地下にいた8人は俺がちゃんと言い聞かせておいたから今はおとなしくしてるんだが」


 俺はそう言って、わずかにナイフを引いて親分の傷口をもう少し広げてやった。


「ま、待ってくれ!」

「お前、自分の立場がまだ分かってないのか? その歳で口の利き方も分からないのか?」

「待ってください」


「それで?」

「えーと?」

「人にものを頼んで、ただってことはいくら何でもないだろ?」


「お前は何が欲しいんだ?」

「もう一度言ってみろ」

「な、何が欲しいんですか?」


 アギーノ一家をこのままボスごと叩き潰してもいいが、俺のポーションの客でもあるし、今後俺の役に立つことでカシを返してもらうとするか。

「そうだなー、あんたの持ってるシマをそっくり貰おうか」

「えっ!」

「えっ、じゃないだろ。はい分かりました。だろ!

 心配すんな。お前たちは今まで通り働けばいい」


「? どういうことですか?」

「俺の子分になるってことだ」

「あんたの?」

「そう」

「それだけ?」

「今のところはそれだけでいい。

 今まで通りとさっき言ったが、素人相手にあんまりアコギなことをするなよ」


 俺はそう言ってアギーノの首筋に当てていたナイフをアイテムボックスにしまい、代わりにヒールポーションを1本取り出してアギーノの首に垂らしてやり残りをアギーノに差し出した。


「飲んでみろ。今くらいの傷ならすぐに治るはずだ。

 それで、お前のところの若いもんは、地下にいた8人だけなのか?」


「外に出ているのが10人ほどいます」


「俺の名まえはゲンタロウ・オオヤマだ。

 今日からアギーノ一家はオオヤマ一家だ。

 いや、オオヤマ組だ。いいな。子分たちにも徹底しろよ。

 それから、俺のことは組長と呼べ。いいな」


「は、はい」



 エラそうな椅子に座っているアギーノに椅子から退くように言って、代わりに俺が椅子に座ってやった。なかなか座り心地がいい。


 アギーノを机の前に回らせて、


「それでアギーノ。お前は今日からオオヤマ組の若頭わかがしらだ」

「えーと、若頭わかがしらとは?」

「組のナンバー2ってことだ。俺が引退したらお前が後を継いで組長になる」

「はい!」

 俺の方が相当若いから俺が引退する前にアギーノが先に逝くと思うが気は心だ。


 それはそうと、先ほどアギーノが口にしたバスラバ一家について聞いておいたほうがいいだろう。


「さっきお前が言っていたバスラバ一家とはどういった連中なんだ?」

「うちとこのアルスの街を2分している連中です」

「その連中も、素人相手に阿漕あこぎなことしてるのか?」


「うちはあそこほどひどいことはしてません。

 あいつらは人攫いまで平気でやっている極悪人の集まりです」


 悪人から見た極悪人は俺から見たら超極悪人だ。俺に直接絡んでくるようなら遠慮なく叩き潰してやるんだが、今のところ接点がない。そのうちだな。


「バスラバ一家の拠点というかボスの居場所は分かるか?」

「どうするんですか?」

「そのうちあいさつにでも行こうかと思ってるんだ。俺に何かちょっかいを出すようならしめたものだろ?」


「しめたもの?」


「叩き潰すいい口実って話だ」

「叩き潰すんですか?」

「この街にはオオヤマ組一つあれば十分じゃないか? お前もそう思うだろ?」


「そ、そうですね。

 ですが、バスラバ一家のバスラバはそれなりの使い手です」


「お前さんと比べてどうなんだ?」

「そうでした。組長ならわけなくれると思います」

「だろ。まあ、さしあたって相手からちょっかいをかけてこなければ放っていもいいだろう。バスラバ一家の場所はいいや。

 そろそろ俺は帰るが、俺の言ったことを忘れるなよ」

「はい」


 俺の威令がどれほど部下に徹底されるか分からないが、少なくとも俺がいなくても俺の屋台にちょっかいを出すことはないだろう。というか、ここの若いもんを使ってポーションを売るのも手だな。連中が真っ当な社会人にジョブチェンジする手助けにもなる一石二鳥だ。そのうちにな。


「そんじゃな」


 俺は椅子から立ち上がって家の玄関ホールに跳んだ。気配からしてカレンは自室にいるようだ。


「今帰ったから」と、二階に向けて大きな声を出したら、カレンがバタバタと下りてきて「おかえりなさい」と、言ってくれた。こうなると家族だなー。


「野暮用は終わった。もう屋台にちょっかいを出してくるバカは現れないはずだ」

「その関係の用だったんですね」

「そういうこと。ついでに連中のボスを脅して組織を乗っ取ってきた」


「え、えぇ? 乗っ取ったって?」

「アギーノ一家とかいうヤクザだったんだが、今日からオオヤマ組にしてやった」

「ほんとに乗っ取っちゃったんですね」


「子分の数で十数人くらいだから大した組織じゃないが、この街を2分するヤクザだそうだ。残ったもう一つのヤクザだが俺たちにちょっかい出さなければ放っておくけど、どうせ絡んでくるだろう。そうしたらそいつらは叩き潰す。この街にヤクザは二つも要らないからな」


「そんなことして、大丈夫ですか?」

「大丈夫と思うぞ」

「そういえば、そうでしたね」



 まだ4時前だったので、初めてになるが風呂に入ってみることにした。


「俺は風呂の用意をして先に入る。

 俺が出たらカレン用に用意しておくから、呼んだら風呂に入ってくれ」


「手伝わなくていいんですか?」

「大丈夫だから、カレンはゆっくりしててくれ」

「ありがとうございます」


 俺は井戸に回って、先日買った汲み置き用の樽を1つ置いてその中に水を入れていっぱいになったら水だけアイテムボックスに収納してを数回繰り返し、樽を片付けてから風呂場に回ってアイテムボックスからバスタブに水を移しておいた。バスタブの隣りにある湯溜め用の大型の桶にも水を入れて、どちらも40度くらいの温度にした。


 風呂に入ろうとするだけでかなり面倒だ。


 水道が欲しいよな。水道につながったガス湯沸かし器も欲しい。


 ないものは仕方ないし、俺がそういった物を作れるわけではないので諦めて脱衣場で裸になって風呂に入った。


 桶で溜め置きのお湯をすくって体にかけてバスタブに入った。40度では何だかぬるく感じたのでもう2度ほど温度を上げたらちょうどいい湯加減になった。しばらく肩まで浸かってからバスタブから出て、洗い場で体を洗った。石鹸はこの前カレンと行った雑貨屋で買っていたのでそれを使って体を洗った。シャンプーはないので体を洗った石鹸で頭も洗ってやった。

<クリン>もいいが、やはり温かいお湯の風呂は別格だ。


 もう一度バスタブに入って肩まで浸かって、バスタブの底の栓を抜いて湯を流して風呂から上がった。タオルで体を軽く拭いたあとクリンで乾かし新しい下着を着た。そのあとバスタブやら桶、洗い場を軽く洗ったあと、カレン用にバスタブに水を入れ、溜め湯用の大型桶にも水を追加して、どちらも温めてからカレンを呼んだ。


 すぐにカレンが着替えなどを持って2階から下りてきて脱衣場に入っていった。


 若い女の子が近くで裸になっているのに、特に何も感じなかった。俺ってそっち方面大丈夫なのだろうか?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る