第35話 実演販売協力御礼
街のチンピラが文字通り身を張って路上実演販売に協力してくれたおかげで、それ以降ポーションが飛ぶように売れてしまった。俺もいい気になって売ったのだが、元々400本しか用意してないポーションが50本売れたわけで、在庫が少し心配という嬉しい悲鳴を上げることになってしまった。
販売価格銀貨5枚×50個=銀貨250枚、ちなみに金貨1枚=銀貨20枚なので金貨換算12.5枚の売り上げということになる。金貨での支払いはなかったので、一気に銀貨が250枚も増えてしまった。結局両替は不要だったようだ。ドンマイ。
この街の冒険者の実数がどれくらいだか分からないけれど、回復ポーションなどそうそう使う物でもないので、すぐに飽和してしまうだろうから次の瓶が用意できる1カ月先くらいまでポーションはもつかもしれない。それまでに売り切れてしまえばそこまでという話だけどな。
午後4時前に販売を終えて、ギルドの脇まで屋台を引っ張っていきそこで屋台を収納してカレンを連れていったん家に戻った。
マークしたチンピラたちの居場所をサーチで探ったところ、二人とも同じ場所にいるらしい。チンピラたちのアジトの可能性が高い。手土産は用意していないが今日の販売協力のお礼に行くには好都合だ。
「カレン、俺は用事で出かけてくる。夕食時までには帰ってくるから、ここで待っててくれ」
「はい。行ってらっしゃい」
俺は野暮用をこなすためにカレンを家に残して、チンピラたちのところに跳んでいった。
通常、転移は転移先を先に覚えておく必要があるが、今回のようにマークした先にも転移できる。その際、転移先が崖の縁とかのような変な場所なら困るが、たいてい人間がいる場所は『安全』なので転移できる。安全でなければ転移の実体であるアテナシステム上の俺の座標データの書き換えがレジストされると俺は思っている。
俺が現れた場所は四面の壁のうち一面の壁に扉が付いている窓のない地下室のような部屋で、天井の真ん中からランプが一つ下がっているだけのやけに薄暗い部屋だった。
部屋の中には、あのチンピラ二人の他に6人ほどの男がいて、何をするわけでもなくソファーに腰かけてだべっていた。
いきなり部屋の真ん中に現れた俺を見た8人は、かなり驚いたようですぐに会話は止んだ。それはそうだ。
「よう」
俺は片手を上げて見知ったチンピラ二人に向かって軽く親愛のあいさつをしてやった。特に手首のチンピラAには世話になったし。
「あっ! こいつです。冒険者ギルドの前で屋台を出してポーションを売っていた男です」
仲間を置いて逃げていったチンピラBが俺のことをみんなに紹介してくれた。
「よう。仲間を置いて一人で逃げ出したチンピラ」
俺がお返しに紹介してやったチンピラBは口をつぐんでしまった。
「こいつが俺の手を傷めた男です!」と、今度はチンピラAが俺を指さして解説してくれた。解説は勝手だが、人を指さすな!
「お前の手首を砕いたのは俺じゃなくて俺の弟子のいたいけな女の子だっただろ! 俺はお前の手を治療した大恩人だろうが!」
「……」
俺が事実を指摘して叱ったらチンピラAは口をつぐんでしまった。
「そんなのはどうでもいいが、お前はどこから現れた?」
一番偉そうにしていた男が俺に聞いてきた。この中の兄貴分なのだろう。根が素直な俺はその問いに正直に答えてやった。
「この部屋の真ん中に現れたところを見てたんじゃないのか?」
「どうやって?」
「魔法。かな?」
「ふざけるな!」
いや、これはウソじゃないんだが。
「面倒だ。構わないからこいつを
その男、改め兄貴が顔を赤らめて弟分たちに命じた。
俺
こいつらに利用価値があるかどうで、処分するかどうするか決めてやるか。いちおう営業活動に協力してくれたチンピラAもいることだし基礎点は高めにしておいてやろう。
チンピラA以外の弟分たちが兄貴の命令で一斉にナイフを抜いて俺を囲んだ。カレンにナイフをはたき落とされたチンピラAはナイフの補充はまだだったようで手ぶらだ。一人だけ仲間外れはかわいそうなので拾ってアイテムボックスにしまっておいたチンピラAのナイフを取り出し、ナイフの柄を先にしてチンピラAに差し出してやった。
「ほら、お前のナイフだ。受け取れ」
せっかく好意で差し出したナイフなのにチンピラAは受け取らなかった。意外にシャイなやつだな。仕方ないので、収納し直した。
部屋の中の連中のアドレナリンもそろそろ過剰供給されたころあいだ。運動時間が始まりそうなので俺は全員のナイフをマークした。これでナイフは実質俺の物になった。俺自身にそこらのナイフの刃などは通用しないが俺の服はナイフの刃が当たれば簡単に切り裂かれたり孔が開くからな。ナイフの刃が俺にあたることはないと思うが、万が一ということもあり得るし。
「俺を殺したいんだろ? そろそろ
コイコイには期待した効果があったようで、俺の後ろに立っていた3人が俺の背中に向かってナイフを突き出してきた。その気配を感じた瞬間その3人のナイフをアイテムボックスに収納してやった。
いきなり利き手に持ったナイフがなくなって、その手を上げたままビックリ顔で立ち止まった3人に振り向きざまに回し蹴りをくれてやった。狙いは3人がナイフを持って振り上げた手。つまり利き手だ。
足加減して蹴ったのでので3人の利き手はちぎれることなく無事砕け、一部折れた骨がのぞいた。そのうち痛みと一緒に骨が内側から突き抜けて裂けてしまった皮膚から盛大に血が吹き出てくるだろう。
後ろに振り返った俺に今度は前に立っていたチンピラBと二人のチンピラがナイフを突き出してきた。
その3人のナイフを回収して同じように3人の利き手を砕いてやった。
残りは兄貴とチンピラAの二人。手首を砕かれた6人は痛みを感じ始めた順にうずくまってうめき始めた。
ここまで一方的だと、過剰供給されていたアドレナリン濃度は一気に下がり痛みをひどく感じるようになるんじゃないか?
「うるさい!」と、兄貴がうめく弟分たちに向かって怒鳴った。
「俺もお前の意見に全面的に賛成だが、お前もうるさいんだよ」
俺が兄貴にひとこと注意したら、顔を真っ赤にした兄貴はただ一人残っているチンピラAに向かって、
「お前、左手はちゃんと使えるんだろうが。これを貸してやるから、あいつを刺せ!」
「あ、兄貴、俺じゃあ無理だよ」
「つべこべ言わずにさっさと行け!」
兄貴はチンピラAに自分の持っているナイフを渡してチンピラAを押し出し、自分は後ろにある扉に向かった。
押し出されたチンピラAはすぐに立ち止まってナイフをその場に捨てた。いい判断だ片方何とか治っていると言っても本調子ではないだろうから、もう片方の手まで砕かれちゃたまらないものな。
俺は扉に付いている金物で出来たノブとノブの周りの温度をマイナス150度まで下げてやった。マイナス200度だと空気は液体になるわけだけど、そこまでやってしまうとちょっとマズそうだったのでマイナス150度で止めておいた。マイナス150度もあれば当然空気中の水蒸気や二酸化炭素は凍るのでノブは昇華したそういった気体ですぐに白くなった。扉も枠にくっ付いたはずだ。
兄貴はノブの変化に気づかないままノブに右手をかけた。その瞬間ノブに右手がくっ付いてしまい取れなくなった。
「なんだ!? 手がくっ付いて離れないし、痛い! 手が痛い」
かなりひどい凍傷になったんじゃないか? だいぶ兄貴の体温で温まったと思うけどまだドライアイスくらいは冷たいだろうし。
弟分たちのうめき声がうるさいので、親切な俺はかなり大きな声を出して兄貴に教えてやった。
「早いとこ引きはがさないと手が使い物にならなくなるぞー。男なら我慢して引きはがせ。
今なら中級ヒールポーションを安く売ってやるぞ。金貨2枚でどうだー?」
販売値段には出張費が含まれているので相場の2倍だが決して高くはない価格設定のはずだ。
俺の親切な言葉を聞いたことで決心がついたのか、口に出すのが難しい、あえて口で表現するとバリッとでも表現できる音を立てて兄貴は扉のノブから自分の手を引きはがした。手の皮と若干のお肉がノブにくっ付いて残っているみたいだ。どっちも凍って白くなっている。いや、お肉の方はピンクかな?
それよりも骨の中まで凍り付いただろうからそっちの方が痛いだろう。しかしそこはさすがは兄貴だ。その程度では泣き言を言わないようだ。と、思ったが兄貴は自分の右手の惨状を見て半分口を開けたまま凍り付いていた。
手のひらが凍り付いただけなのに顔まで凍るとはこれ
想像だが今まで人さまをさんざんいたぶってきた本人が、自分が痛い目に遭うとなると途端に
かくいう俺も、今でこそエラそうなこと言ってるけどな。
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