第34話 ポーション販売2、実演販売

[まえがき]

2025年1月1日。明けましておめでとうございます。旧年中ブックマーク、☆、応援ハート、感想、誤字報告、レビュー、ギフト等、ありがとうございました。

なお『異世界で魔王と呼ばれた男が帰って来た!』同様、残酷描写有り。暴力描写有りは保険ではありません。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ポーション販売の準備が整ったところで昼になった。カレンと二人で目に付いた食堂に入り昼食を摂った。


「試しに冒険者ギルドの前に屋台を出して、どんなものだか見てみようと思うがカレンも来るか?」


「はい。もちろんです」


 冒険者ギルドの前は屋台販売とすれば一等地だと思うが、それほど屋台が出ていなかったと思う。何か理由があるのかもしれないが、今回はタダのお味見なので細かいことを気にしても仕方ない。


 カレンを連れて冒険者ギルドの脇に跳んだ俺は、堂々と冒険者ギルドの出入り口の横に屋台を置いてポーション販売を始めた。


 10本ほどポーションを屋台の上に並べて客の注意を引くためあらかじめ考えていた口上を大声で述べた。


「中級ポーション1本銀貨5枚。初級ポーションと同じ値段で中級ポーションが手に入るのは今だけだ。

 ポーションの目利きなら、本物と分かるはずだ!」


 ポーションの目利きなるものが本当にいるのか知らないが、現に中級ポーション、初級ポーションと区別されて販売されてる以上そういった目利きがいるはずだ。ちゃんとした錬金術師ならおそらくきっとたぶん中級ポーションと初級ポーションの区別がつくはず。


 冒険者ギルドに出入りする冒険者たちが俺たちの屋台を横目で眺めていく。


 地道な営業活動が大切だ。


 10分ほど口上を述べて客引きをしたけれど、手ごたえはまったくなかった。営業活動は大変だ。


 営業開始して20分。やっと一人の冒険者が話しかけてきた。


「ホントに中級ポーションなのか?」

「本物です」

「何でそんなに安いんだ?」


「自分で材料を集めて自分で作ったからです。そのうち銀貨10枚に値上げするから今買った方がお得ですよ」

「そんないかがわしいもの買わねえよ」


 男は冷やかしだけで行ってしまった。それでも興味を引いたのは確かだ。ネット広告でワンクリックあったと同じと思おう。芽がないわけじゃない。


「カレン、大丈夫か?」


 俺は何時間でも立っていられるが、カレンはまだその域に達していないはずだ。


「いえ、大丈夫です」


 俺だって立っていても平気とはいえ座った方が楽なのは確か。立っていても仕方がないので椅子を用意しておけばよかった。後で家具屋を探して椅子を買おう。


 それから30分。一人の冒険者がポーション瓶をいったん手に取って、そして元の場所に戻していってしまった。ワンクリックありがとう。


 この調子だと、今日中に最初の客が現れることは無理そうだったので、屋台をしまって寝具などを買った家具屋に行ってみることにした。


「今日は無理そうだから家具屋にいって明日のために椅子を用意しよう」


 家具屋で簡単な椅子を2つ買い、その日の労働を終えた。買った椅子は当たり前だが同じものだ。カレンは何が嬉しいのか「お揃いですね!」とか言って喜んでいた。『箸が転んでも嬉しい年ごろ』という言葉を思い出して妙に納得した。



 翌日。


 朝の訓練をこなし朝食を白ユリ亭で食べた俺とカレンは、さっそく商売のため冒険者ギルドの近くに跳び、ギルドの扉の前に屋台を置いて営業を始めた。客引きの口上は昨日と同じだが俺もカレンも昨日買った椅子の上に座っている。今日のカレンは頭の上に白いタオルを乗せてその上から麦わら帽子をかぶっている。道の駅のおばさんってこんな感じカモ? と、失礼なことを考えてしまった。


 椅子に座って20分ほど口上を述べて客引きをしていたら、どう見ても街のチンピラといった感じの若い男が二人、屋台の前にやってきた。


「おにいさん。ここで商売するなら1日あたり銀貨1枚の場所代を払ってくれないと困るんだよなー」


 おー。早々にそれ系統の連中がやってきた。


「ほう。この場所はきみたちの土地なのかな?」

「そんなことはどうでもいいだろ! 出すもの出さないとどうなるか? 想像くらいできるだろ?」

 俺たちのことを弱っちい優男とただの小娘とでも思ったんだろうなー。狙っていたわけじゃないが、たしかに見てくれは脅してくれと言わんばかりだものなー。


「どうにもならないと思うが」


 俺が少し強い調子で返したら、チンピラ二人は少し驚いたような顔をした。こいつらチンピラ素人なのか?

 なんであれ丁度いい。


「カレン、こいつらをモンスターと思って退治してみろ。モンスターのつもりで殺してしまうとあとが面倒だから殺さないようにな」

「本当に、やっちゃっていいんですか?」

「大丈夫。俺が許す。何かあったとしても俺が何とかするから心配ない」

「分かりました。やってみます」


 椅子から立ち上がったカレンにアイテムボックスから八角棒を出して渡してやった。

 俺たちの会話を聞いたチンピラ二人は警戒しているだけで何もしてこない。チンピラ二人だって俺たちと同じように営業活動しているんだろうが、本当にやる気あるのか? 迫力が足りないんだが、カレンが相手取るには好都合だ。



 冒険者ギルドの正面での騒ぎだったせいか冒険者ギルドの中から4、5人の冒険者が出てきていた。


 八角棒を持ったカレンはそれなりに迫力あるようで、チンピラ二人は慌てて屋台から離れた。それでも感心なことに、二人は逃げ出さず、上着の内側からナイフを取り出した。


 以前のカレンならナイフどころか観衆まで怖がったかもしれないが、今のカレンはナイフ程度では何も感じないようで、二人の動きを注視している。


 片方のチンピラが威嚇のために一歩踏み込んでカレン向けてナイフを突き出した。そのナイフの動きにカレンはうまく八角棒を合わせて、一撃でナイフを持つチンピラの右手首を砕いてしまった。ナイフは地面に転がり、チンピラは痛みで手を抑えたままうずくまった。うずくまったそのチンピラの背中にカレンは手加減しつつもそれなりの力で八角棒を打ち付けた。


 おー!


 カレンがチンピラを叩き伏せたところで、冒険者たちから歓声が上がった。


 その程度で人は死にはしないが、八角棒が打ち付けられたとき何かが折れる音がしてチンピラはその場に突っ伏して動かなくなってしまった。


 それを見たもうひとりのチンピラは「覚えていろよ!」と言い残して、仲間?を放って逃げていった。


 カレンは冒険者たちに軽く会釈して屋台の後ろで様子を見ていた俺のところに戻ってきた。


 俺は逃げていったチンピラにマークをセットしておいたので、いつでもチンピラの居場所が分かる。地面に転がったチンピラのナイフは俺がアイテムボックスにしまっておいた。



「カレン、なかなか良かったぞ」

「ありがとうございます。わたしが人を相手にあんなに軽く動けるとは思ってもいませんでした」

「真面目に訓練していた成果だ」と、言ったものの、俺の想像以上だった。

「はい。手加減はしたんですが、しなかった方がよかったですか?」

「いや。今のカレンの力だと本気を出して八角棒を人の急所に叩き込めば必殺だ。よく指示を守って手加減した」

「はい。伸びてしまった男は放っておいて大丈夫でしょうか?」

「せっかく大けがしてくれたから、一仕事してもらう」


 俺はカレンから八角棒を受け取ってアイテムボックスにしまっておいた。

 そのあと、屋台の上に出していた中級ポーションを1つ持って、石畳の上でうずくまったままのチンピラのところにいった。


 チンピラの右手は砕けて白い骨がのぞき、骨が内側から突き破って裂けた皮膚から血が地面にポタポタ落ちている。


 俺は砕けたチンピラの右手の手首を持って上に上げてみたら、手首から先は不思議な方向に曲がったままでブランブラン。面白いので少し振ってたら、チンピラが大声を上げた。どうやら気絶していたわけでもなかったようで痛かったようだ。


「うるさい! いま売り物の****中級ポーションで楽にしてやるから静かにしろ。大サービスだぞ」


 チンピラの砕けた手首の傷口に中級ポーションを半分ほど直接振りかけてやり、そのあと瓶の口をチンピラの口の中に突っ込んで残りを無理やり飲ませてやった。


 チンピラの手首からの出血はすぐに止まったうえ、他に傷めたところの痛みも引いたようだ。チンピラは右手をかばうようにして立ち上がって何も言わず逃げていった。もちろんこのチンピラにもマークをセットしておいた。


 今のチンピラのおかげで、結構な宣伝ができたんじゃないか?


「そのポーション、ホントに銀貨5枚でいいんだな?」


 一人の冒険者が聞いてきた。いい流れだ。


「もちろんです。今は開店サービスで銀貨5枚ですが、もう何日かしたら銀貨10枚にするので買うなら今ですよ」

「よし買った!」


 冒険者から銀貨5枚を受け取りポーション瓶を1つ渡した。屋台の上にポーションは8本。


 そしたら、雪崩を打ったように冒険者たちは俺も、わたしもと言ってポーションを買ってくれ、8本はすぐに売り切れた。


「もうないのかよ」

「心配しないでもまだありますよ」


 そう言って俺は屋台の下の物入れから出すジェスチャーをしてもう10本のポーションを屋台の上に並べた。


 その10本もあっという間に売れてしまい、また10本を並べるといった具合で商売は大繁盛してしまった。チンピラさまさまだ。

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