第32話 ポーションづくり

[まえがき]

2024年12月29日17:20頃、今後の主人公の行動にギャップが出ないよう、『9話 飛んで火にいる。白ユリ亭』において、ごろつき冒険者たちへの対応は元のままですが、その時の主人公の考えを加筆しました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 白ユリ亭から戻った俺たちは9時までゆっくりして、それから錬金工房に二人して入った。


 前回の錬金作業は宿の部屋の中だった関係で錬金操作をアイテムボックス内で行なったけれどここは錬金工房なので、ちゃんと手使って作業していく。


 今日作るのは前回試したところ中級ポーションとして収益性が一番高かった赤葉草エキスの100倍希釈ポーションだ。


 まずは赤葉草のエキス抽出。ここはアイテムボックス内での操作だ。


 カレンから見るとアイテムボックス内での作業は全く認識できないのでそこは口で説明しながらだ。


 赤葉草5束に対して<分離・抽出>。


 できあがった50シーシーほどのエキスを広口瓶に入れてアイテムボックスからテーブルの上に置いた。


 純水創出。


 前回は空気中の水蒸気から無理やり水を生成したが今回はアイテムボックスの中にかなりの水を用意しているのでその水からH2Oだけを抽出することで簡単かつ大量に純水を作った。


 エキスの入った広口瓶から1シーシーエキスをスポイトで吸い出してこの前買ってきたポーション瓶に入れ、小瓶の口のやや下あたりまで純水を加え、残りをオリーブ油で満たす。最後にコルク栓をして完成。


 ちなみにスポイトは錬金工房の中にあったもので、スポイトというより注射器に近いガラス製の器具だ。この世界でこれほど精巧なガラス器具は見かけたことはないので名のあるガラス職人に大枚をはたいて製作させたのだろう。シリンダーには目盛りも付いているがもちろん1シーシー刻みではないので、俺が時間を見つけて<鑑定>などを駆使して1シーシーを割り出して苦労して別途にメモリを刻み込んだものだ。


 コルク栓をする前にでき上がったポーションを<鑑定・解析>したところ、当たり前だが前回と全く同じものができ上った。この当たり前が実際は難しいんだがな。


名称:回復ポーション(中級・品質優良)


効果:服用することにより、HPを約20パーセント回復。部位の欠損の回復はできない。骨折の回復はできないが、回復速度は自然回復の120倍ほど向上する。直接患部にかけた場合、効果が安定しないので、服用が望ましい。


成分:赤葉草から抽出された純粋な回復成分を純水で100倍に希釈したもの。

不純物が混入していないため体内への吸収が極大。即効性がある。

その他:瓶への注入後、不純物の除去されたオリーブ油をコルク栓で封をする前に入れ、直接ポーションが空気に触れないようにすることで、ポーションの劣化を防いでいる。


 最後にコルク栓をして完成品をテーブルの脇に置いた。


「カレン。この器具はスポイトという名前の器具だが液体を正確に計り取る器具だ。

 このスポイトでエキスを1シーシーだけポーション瓶の中に入れて、ビーカーに入っている水で薄めて栓をする仕事をしてくれ。1シーシーの量は、このメモリの位置だ」


 そう言ってカレンの前で実際にポーションをスポイトで吸って見せた。


「これが赤葉草のエキスで、スポイトの中の棒を引くと中にエキスが入ってくる。その時にスポイトの先がエキスから外に出てしまうと空気を吸うことになるから気をつけてな。

 もし空気を吸ったらスポイトの先を上に向けて中の棒を少し押したら空気が抜けるから、そのあとエキスにスポイトの先を入れてエキスを吸い込んでくれ。

 さっきも言ったがこのメモリが規定量、今回は1シーシーだ。

 中の棒を押すとエキスが出てくるので、瓶の中にスポイトの先をいれてエキスを規定量だけ押し出してくれ。

 これがビーカーで中に入っているのは真水だ。この真水を小瓶の口のやや下あたりまで入れて、残りをオリーブ油で満たす。最後にコルク栓をして出来上がりだ。オリーブオイルは入れ過ぎても栓をするときこぼれるだけだからそんなに慎重に入れる必要はない。

 こんなところだけど、できそうかな?」


「はい。やってみます」


「少々失敗したところでどうってことないから肩の力を抜いてやってくれ」


「はい」



 カレンが作業しているあいだ、俺の方は残った赤葉草から450シーシーのエキスを作っておいた。


 俺の作業はそんなに時間がかからず終わったので、俺がスポイトを使って瓶の中にエキスを入れることと純水を追加する係になって、カレンはオリーブオイルを入れて栓をする係になった。


 1時間ほどで500本のポーションができ上った。でき上ったポーションは瓶の入っていた木箱に入れていき、一杯になった木箱から順にアイテムボックスにしまっている。


 使った器具は最後に純水で洗ってアイテムボックスにしまっておいた。


「カレン、ご苦労さま」


「どういたしまして」



 売ってる中級ポーションの売値は銀貨20枚=金貨1枚だったわけだから、半額で売ったとして500本だと金貨250枚になる。知名度が上がるまでそんなには売れないだろうが、物はれっきとした中級ポーションだからいずれ口コミで広がっていく。それまでにストックを増やしておけばいいだけだ。フフフ、ハハハハ。


 俺が取らぬ狸の皮算用で笑い顔をしていたらしい。


「ゲンタロウさん、どうしました?」と、カレンに言われてしまった。ちょっと恥ずかしい。


「いや。何でもない」


 どこでポーションを売るのか考えないとな。


 そういえば俺がまだ元気なころ屋台の行商人から身を起こしてホテル王になった男の話(注1)を読んだことがある。冒険者ギルドの前に屋台をだして、そこで売るのもいいかもしれない。屋台ってどこに売ってるんだろう? 屋台とか勝手に道に出して商売してると、その道の怖いお兄さんたちがやってきて難癖付ける可能性があるけれど、逆にそっちの方が面白い。うまくすれば怖いお兄さんたちとお話して仲良し以上の関係になれるかもしれないからな。フフフ、ハハハハ。


「ゲンタロウさん、どうしました? 何かいいことでもあったんですか?」


「いや。何でもない」




注1:屋台の行商人から身を起こしてホテル王になった男

ジェフリー・アーチャー:「ケインとアベル」面白いですよ。

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