第31話 同居生活開始2
夕食を食べ終えたところでカレンは先に部屋に戻った。
俺はリリーの冷たい視線を浴びて食堂を出て階段下でカレンを待っていたら、それほど待たず手に八角棒を持ったカレンが大きなリュックを背負って階段を下りてきた。
カウンターには誰もいなかったので俺がカレンの鍵を預かってまだ食堂を手伝っているリリーに手渡した。
「カレンの部屋の鍵だ」
再度ジトメで睨まれたしまった。
「リリーも時間があったら、そのうちうちに遊びに来いよ。歓迎するぞ」
「時間なんかありません! 時間があっても新婚の人のうちなんかに行くわけありません!」
「どうせ食事にはここに二人で来るだろうから機嫌を直せよ」
「ほんと?」
「ホントだよ。俺もカレンも料理はできないし、ここの食事はうまいからな」
「分かった。じゃあね」
最後に機嫌を直してくれたようだ。
食堂の前で待っていたカレンを連れて白ユリ亭を出たところでカレンの荷物をアイテムボックスに入れ、そのままカレンを連れてカレンの部屋に跳んだ。
「ここってわたしの部屋ですよね?」
「そうだが」
「わたしの部屋の中にも
「いちおう俺の家だからな」
「そ、そうですよね」
「心配しなくても今回だけだ。
荷物はここに置いていくぞ」
俺はアイテムボックスから出したカレンのリュックを床の上に置いて部屋から出ていき、1階に下りて居間のソファーでゆっくりした。
明日からはカレンの訓練に付き合った後は本格的にポーションづくりだ。
翌朝。
早朝からいつも通りカレンとランニングを始めた。ご町内のみなさんにあいさつするわけではないが、いちおう周囲の土地勘を得ることも目的にしてこの日は家の周りの道をくまなく走るコース取りをした。
ランニングが終わり汗をかいた服を着替えようかと思ったんだが、マクロ<クリン>を思い出したので今着ている衣服に対してクリンをかけたところ汗もきれいになくなってスッキリさわやかになった。こうなると風呂の価値が下がりそうだが、風呂は風呂。
「カレン、今着ている服をきれいにしてやろうか?」
「えーと、ゲンタロウさんがわたしの服を洗ってくれるんですか? 下着まで?」
「いやいや。結果は下着まできれいになると思うけど、本当に俺が洗う訳じゃない。
試してみれば分かると思うから、今からカレンの着てるものをきれいにするからな」
なぜかカレンが顔をほんのり赤らめて左右の手のひらを広げて自分の胸の前で両手をクロスした。カレンは俺から見れば異世界出身者なのでこういった何かのまじないを始めても俺はそれを指摘しないようにしている。
「いくぞ、<クリン>。どうだ?」
「あれっ! 急に汗が引いたし、衣服にしみ込んだ汗も無くなってる。とっても気持ちいいです」
「だろ? いまカレンが着ている衣服は洗濯したての時よりきれいになっているはずだ」
汚れはホコリになって飛び散っていくから、家の中でなくこういった地面の上で<クリン>をかけた方がいい。家の中なら窓を開けて体をパタパタしてもいいか。
家そのものに<クリン>をかけることもできるはずだけど、クリンの性格上家じゅうからホコリが舞い降りてくるはずなので止めた方がいいだろう。そのかわり、錬金道具の洗浄には重宝しそうだ。
「体も衣服もすっきりしたけれど、
「そうですね。今着ている服は汗をかいてもいい動きやすさ重視の服なので着替えてきます」
「俺はこのままで平気だからここで待っておく」
「はい」
5分ほどでカレンが着替えて出てきたので家の扉に鍵をかけて、カレンを連れて白ユリ亭の裏側近くに転移した。
そういうことなので今日は二人して白ユリ亭の食堂に食堂側から入ることになった。給仕に回っていたリリーがすぐに俺たちを見つけてやってきた。
「おはようございます。ゲンタロウさんとカレンさん」
「おはようリリー」「リリーさん、おはようございます」
リリーは並んで立っていた俺とカレンの顔をじっと見て、
「いつもと変わってないな。変な臭いもしない」と、低くて聞き取りづらい声で独り言を言った。
なんで変わるんだよ? 変な臭いって何だよ!? 宿屋で手伝いしてればそれ相応のことを実地で目の当たりにしているのかもしれないが。
俺は何も言わず、リリーが案内してくれた二人席にカレンと向かい合って座った。
すぐに朝食が運ばれてきたので二人分の代金を俺が払っておいた。
食事しながら、カレンに今日の予定を話しておいた。
「俺は錬金工房でポーションを作ってるからカレンは今日は棒術の訓練は庭の方で素振りしててくれ」
「はい。
でも何か手伝えるようなことがあれば手伝いますよ」
「一人で素振りだけしてても楽しくないだろうから、俺がポーションを作っているところでも見ててくれ。見てるだけでも得るものがあるかもしれないし。ある程度慣れていた方がいいだろうしな」
いまのところカレンに頼むようなことはないのだが、見学させていれば何かの役に立つだろうし、何か作業をするうえで、カレンの出来そうなことがあれば手伝わせれば本人のためにもなるし。
「わかりました。
ところで、作ったポーションは売るんでしたよね?」
「そのつもりだが」
「店を構えるんですか?」
「そうだなー。大口客がいればそこに卸す方が面倒じゃないけど、大口客はみんな錬金術師ギルドのツバが付いているだろうから無理だろう。
大口の消費者を抱える冒険者ギルドの近くに場所を借りて、店を開いてもいいかもな」
「安くて良いポーションならきっと売れますものね」
「そういうこと」
食事を終えた俺たちはリリーに軽く会釈して食堂を出て家に戻った。
「作業は9時から始めるからそれまでカレンは休んでいてくれ」
「はい」
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