第21話 カレン6、トレーニング3


 カレンにちょっかいを出していた連中を煽ってやったら簡単に釣れた。


 ギルドの中にいたほかの冒険者たちも何事かとこちらを注目している。もちろん誰も止めようとはしない。


「すみません。間違えました。鬱陶しいうえに、ランクでしか相手を見られない無能な連中? ですよね?」


 一番ガタイのいい男がいきなり俺に殴りかかってきた。あとの3人は横に広がり退路を断つ動き。そこそこ連携もいいのか?


 面白いからまず一発だけは殴られてやるか。剛性強化。これは一応名前は付けているがシステム操作ではなく、俺が俺自身の筋肉を意識して****緊張させただけ。


「ゲンタロウさん!」


 カレンが驚いた顔で俺の方を見ている。どうせなんともないから。


 ビシャ!


 男の拳が俺の頬にクリーンヒットしていい音が響いた。


 殴られた俺は1ミリも動いていない。全く動かない。全く変形しない。そんなものに殴りかかたらどうなるか。その答えが、男のこぶしに現れた。そう、男の全力のストレート、そのすべてのエネルギーが全く減衰しないまま男の拳から肘にかけて戻っていった。


 まず拳と手首の粉砕骨折。肘の脱臼。男は自分の腕の骨を変形させることでそのエネルギーを吸収した。


 男はつぶれた自分の肘から先を抱いて声もなくうずくまった。適度に下がった男のこめかみに、軽く回し蹴り。吹っ飛んだ男は、残った3人のうち2人を巻き込んで伸びてしまった。巻き込まれた2人が床から起き上がろうとしたところを、2つ並んだアゴ目がけて回し蹴りを一蹴り軽く当ててやったら二人とも揃って床の上に伸びてしまった。


 残った一人は、床の上に伸びてしまった3人の方に意識を向けた。よそ見するなよ。軽く踏み込み、横合いから平手を下から軽く突き上げ、顎を打ってやった。そいつは一度体を真上に伸ばした後、そのままの仰向けなっていい音を立てて床に体を打ち付けた。


 4人とも気絶したようだ。周りの観客は目をむいている。別にギルドの内装を壊してはいないようなのでそのままカレンの手を引いてギルドを後にした。



「ゲンタロウさん。さっきわざとあの人たちを煽ったんですか?」


 カレンが聞いてくる。誰が見ても明らかだけど解説しておくことにした。


「そう。わざとカレンが絡まれ易い状況にして、絡まれたら返り討ちにしようとしたわけさ。あれだけやっとけば、今後ギルドの中でカレンが一人でいても絡まれることはいくらか減るんじゃないか? それに1週間もすればあんな連中くらいカレン一人でどうとでもできるようにするし、そうなるから」


 カレンは何も答えず、俺の顔を見つめている。


「基礎体力をつけていく中で、武器の扱いも覚えていこう。

 まず、カレンのメイン武器だけれど、今は短剣を使っているみたいだが、刃物は扱いがそれなりに難しいし手入れも面倒だから、鈍器に替えてみないかい。カレンにはメイスなんかがいいと思うんだけどなあ。手入れは簡単だし、討伐相手を切り裂かないから、素材も傷みにくい。技というより単純に力と速さだけで勝負できるし」


 歩きながらカレンに提案してみた。


「えっ! メイスですか。メイスはちょっと」小さな声になる。


「メイスは嫌いなのかい?」

「ええと、女子がメイスを振り回すのはちょっと、……」

「そうかい。これから武器屋に寄ってこようと思ってたんけど」

 女子だからこそメイスが有効と思ったんだが。本人にこだわりがあるなら仕方ない。


 それで、掲示板には何かよさそうな依頼はあったかい?」

「そういえば、気になる依頼が掲示板にありました。東の丘陵一帯のオークの調査です。オークの目撃情報が増えてきて、オークの集落ができている可能性があるそうです」


「ふうん。俺たちは、EランクとGランクだから調査依頼は受けられないんだろ?」


「はい。調査依頼はDランク以上が対象になるようです。Eランク以下の冒険者は、東の丘陵一帯へはなるべく近づかないようにとのことです」


「その調査でオークの集落が見つかったら討伐依頼に切り替わるんだろうけど、それはEランク以上だったかな?」


「オークの集落討伐には、かなりの冒険者を動員する必要があるので、Eランクまでが対象になるはずです。そのときは私はGランクですので参加できません」


「なるほど。

 なるべく****近づかないということは東の丘陵の手前までは問題ないってことだろ?」

「そうかもしれません」


「東の丘陵の手前で、薬草採集に夢中になって気付けば東の丘陵まで移動してしまうことってありそうじゃないか? カレンみたいに」

「そうでしたね」そう言ってカレンが下を向いた。

 ちょっと、意地悪だったか。


 それはそれとして。

「その時たまたまオークの集落を発見して、たまたま全滅させてしまってもいいんじゃないか? たまたま、成り行きなんだし。

 そしたら調査報酬も討伐報酬ももらえないだろうけど、オーク討伐の常設依頼はいつでも出てるんだし」


「あのー、ほんとにオーク狩りをするんですか?」


 カレンが嫌そうに聞いてくる。


「いや、あくまで薬草採集だよ。でも、たまたまオークがいたら逃げ出すくらいなら刈った方がいいんじゃないか? どうせオークなんだし」


 カレンが今度は恨めしそうな顔をしてこちらを見る。

 昨日の今日でオークはいやだろうな。とは思うが、こんなおいしい話はめったにないんじゃないか? この波に乗らない手はない。

 カレンのオークへの苦手意識の払拭にもなる。カモ知れないしな。何事も経験。


「じゃ、そういうことで。まずは弁当の用意でもするか。そこらの屋台で何か買っていこう」


 屋台で売っていたサンドイッチのようなものを数種類買った。カレンはまだ何か言いたそうだったが構わず支払いを済ませた。


「カレンは剥ぎ取り用のナイフは持っているだろ?」

「はい。持ってます。あまり上等ではありませんが」


「それは良かった。それじゃ、ちょっとそっちの路地に入って、そこで東の丘陵に転移しよう」


 黙ってついてきたところを見ると、カレンも諦めたようだ。



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