第18話 カレン3


 買い物を終えて白ユリ亭の近くに転移で戻り、玄関からホールに入った。もうすぐ夕食の時間だと思うが白ユリ亭を出た時と変わらずカウンターの後ろにリリーが座っていた。


「買い物はできた?」

「いや、錬金術師ギルドのメンバーじゃなかったから買えなかった」

「ごめんなさい。わたしそんなこと知らなかった」

「いや、気にしないでいいよ。雑貨屋を見つけて役に立ちそうなものは買ってきたから」

「それならよかった」


 リリーと少し雑談してから部屋の鍵を貰って部屋に戻った。




 階段を上って廊下を進むと俺の部屋の前に、黄色っぽいワンピースに着替えたカレンが立っていた。さすがにフード付きのローブ姿ではない。


「オオヤマさん。一緒に夕食を。と、思って、ここでお帰りを待ってました」

「そう。それはうれしいな。部屋に戻らなくてもいいからこのまま下に下りよう」


 積極的な美少女もまた良し。


 二人連れ立ち、宿の食堂は向かう。空いている二人席に座ったところで、リリーがオーダーを聞きにやってきた。リリーはよく働くな。


「オオヤマさん、カレンさんとお知り合いだったんですか? いつの間に。結構手が早い?」

「コホン。タマタマ知り合っただけだよ」


 俺が簡単にとぼけて答えていると、


「いいえ、オオヤマさんに命を救われました」

 キリッ! と、カレンが答えてた。


「ええっ! それほんと? 詳しく聞きたいー。だけど、無駄話してるとお母さんに叱られるから。今度またね。今日の夕食のメインはシカの内モモ肉のロースト。それで何か他にご注文は?」


「俺にはエールを頼む」

「わたしは薄めた葡萄酒お願いします」

「りょうかーい」


 リリーは後ろ手で軽く手を振り厨房に消えていった。



 いったん厨房に引っ込んだリリーはすぐにジョッキを二つ運んできた。


 俺は目の前に置かれた生暖かいエールを15度ほど冷やす。


「カレンさんの飲み物も冷やそうか?」

「えっ?」

「飲み物は冷たい方がおいしいから、俺は冷やして飲むようにしているんだ」

「そんなことも出来るんですか?」

「うん。いろいろとね」


 ブドウ酒なら10度くらいかな、冷やすの。

 カレンの前に置かれたジョッキの中身のブドウ酒を10度ほど冷やしてみた。


「どんな具合か、飲んでみて」


 カレンは葡萄酒を口に含み、目を丸めた。こういった顔も新鮮だ。なかなかいいんじゃないか。


「オオヤマさんは魔法も使えたんですね」

「魔法と言えば魔法のようなものだけど、魔法じゃないと言えば魔法じゃないかも?」

 自分でも訳の分からない説明なので、カレンも理解できていないのだろう。詳しく話したらもっと分からなくなるだろうし。


 すぐに料理も運ばれてきたので、その話はそこまでにしてさっそく料理に手を付けた。今日のメインのシカ肉のロースト、肉はやや硬めの赤身で、独特の風味がある。初めて食べたハズだがそれなりにおいしい。


 食べながら、


「カレンさん、昼間のことならもう気にしなくていいから」


「いえ、オオヤマさんとお話がしたくて。ええと、オオヤマさん、わたしのことどう思いますか?」


 ええっ!? いきなり? これはモテキか? いや、吊り橋効果か?

 いきなりのド直球に驚いて口に含んだエールを危うく噴き出してしまうところだった。


「かなりの美人だと思います」と、思ったまま答えてしまった。


「そ、そういうことではなく、冒険者としてのわたしのことです。でも、ありがとうございます。わたし、人見知りなうえに、この街にきて間がなくて、話のできる知り合いがリリーさんくらいしかいなかったもので。オオヤマさんならお話できる気がして」カレンの頬が少し赤くなった。ような?


「じゃあ、はっきり言おう」言葉を切ってもったいつけてみる。


「今のカレンさんは、冒険者には向かないと思う」


「そうですよね」カレンは小さな声で答えて俯いてしまった。そりゃそうだ、ここまではっきり言われりゃだれだってへこむ。


「そうですよね。わたしはもう15歳なんですがレベルは1のまま、スキルも何も持ってません。努力してなかったわけじゃないのにレベルは上がらないし、何をやってもそれがスキルにならないし」


「カレンさんなら、何も冒険者にならなくても、安全でそこそこ実入りの良い仕事もあるんじゃないかい」

「ええ。でも、わたし、そういうのじゃなくって、どうしても強くなりたいんです」


 女の子なのに強くなりたいねー。強くなって何がしたい? 女子プロってないだろうに。うーん? 俺くらい突き抜けてしまえば問題ないと思うが、中途半端はお勧めできないぞ。


「どういった理由かは聞かないけれど、命を落としたらおしまいだよ」と、さらに追い打ちをかけてしまった。


 でもね、俺は美少女には甘いんだよ。その気があるなら、できるかぎりのことはやってもいい。


「それでも、っていうなら強くしてあげようか?」


 勝算はある。カレンの持っている、レベルアップ不能。スキル取得不能とかいうアテナの呪い。これがキーだ。要するに、カレンはアテナシステムからの干渉を受けないと考えていいだろう。カレンの身体能力関連情報を俺が単純強化しかきかえたとして、その効果はアテナシステムから上書きされることなく継続するはずだ。そのうえで通常の訓練を重ねて基礎体力、技能を高めていけば、それ相応の力を持つだろう。

 俺でも他人にスキルを植え付けることはできないので、システム操作を持たないカレンは魔法っぽいことはできないけれど、それっぽいアイテムがあれば何とかなるだろう。よくいうアーティファクト級の武器や防具、そして装飾品とかだ。今現在当てはないが、そのうち手に入ることもあるだろう。


 カレンを強くすることの俺のメリット? それはアテナの呪いをカレンへかけたやつへの嫌がらせだよ。正直に言えば、美少女と一緒にいるのが楽しいというのが一番大きい。


「ほんとうですか?」カレンの顔がニパッと明るくなった。

「もちろん」鷹揚に頷く俺。


「どうすればいいんですか?」目を輝かした少女が俺を見つめる。

「訓練。ただ訓練あるのみ」


「え?」


 目を輝かしていた少女の顔が少し変化してしまった。


「心配しなくても大丈夫。必ず強くなれる。いや、俺が必ず強くしてみせる」

「わ、わかりました。よろしくお願いします」


「さっそくだけれど、明日の朝、夜明けのすこし前に宿の玄関前に集合。服装は動き易いもの。汗をかくと思うからタオルもね」


 食事を終えた俺たちはそれぞれ部屋に戻った。なお、今回の飲み物代はどうしても自分が払うというカレンが払ってくれた。



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