第5話 冒険者ギルド


 街の門を潜り抜けた先のアルスの街並は、中世風というのか、近世風というのか。太めの黒い木の柱と白壁でできた2階から3階建てのあまり間口の広くない建物が多かった。中には石造りの大きな建物もある。ガラスのはまった窓がないわけではないが数は少なく、おおかたの窓は木製の鎧戸式のようだ。


 街の南門からまっすぐ北に延びる石畳の大通りをしばらく歩いていくと門衛のおじさんが言ってたとおり広場があり、その広場に面した一番大きな石造りの建物が冒険者ギルドだった。建物の立派さから類推するに冒険者ギルドは儲かっているようだ。冒険者の仕事が十分にあり、上前のピンハネがうまいのだろう。ちょっと見方が意地悪か?



 開けっ放しの出入り口からギルドの建物の中に入ると、そこはかなり広いホールになっていて入り口の正面には窓口のカウンターがあり、左手は売店と食堂兼酒場になっていた。いまは昼前のためか、ホールに冒険者はそんなにはいなかったが食堂兼酒場では数人の男女が飲み食いしていた。


 さっそく何個かある窓口のうち若い女性が担当しているカウンターに向かいギルド登録をお願いした。ここ数年ベテラン看護師さんをベッドから見上げることはあっても正面から見ることはなかったので、いやらしい意味ではなく若い女性を見下ろすように正面から見るのはとても新鮮だ。


「冒険者登録をしたいんですが」

「かしこまりました。この用紙に名前と年齢を記入してください。登録料は銀貨1枚になります」

 銀貨1枚を手渡し、受け取った紙に氏名と年齢を書いて係の女性に返した。


名前:ゲンタロウ・オオヤマ

年齢:18才


 この世界の文字の読み書きできなければ困ったことになったが、神さまの計らいに感謝だ。


「オオヤマさんですね。私は、マリア・アレンと申します。ギルドカードを作ってきますので、しばらくお待ちください」

 そう言って係の女性、マリアさんは席を立ち、奥のほうに歩いていった。


 しばらくカウンターの前に立ってぼーとチュートリアル時代のことを思い出していたら、5人ほどの男たちがどたどたとホールに入ってきた。この連中、目つきも悪いうえ、どこかだらしなく見える。厄介者という言葉が頭に浮かんだ。今の俺からすれば雑魚以下の連中なのだろうが、進んでトラブルに巻き込まれる必要はないのでかかわらないに越したことはない。


 そう思って視線をそらしたつもりっだたが、向こうのほうから1人俺の方に向かって歩いてきた。降りかかる火の粉なのかねー。


「兄ちゃん、見ない顔だが新人かい? どうだい、この俺様が初心者のために特別に冒険者の心得ってやつを教えてやろうじゃないか。なあに代金は特別に安くしといてやるよ」

 そう言いながら、男は汚い右手を前に出し、俺の胸倉を掴もうとしてきた。


「はい? 間に合ってますから」


 伸びてきた男の右手を体を捻って軽くかわしてやった。


 男は右手が空振りしたので、こんどは一歩前に出ながら左手を伸ばしてきた。これも軽くかわしてやった。どうでもいいがこのおっさん口が臭い。ただの臭さじゃないぞ。胃がやられてるんじゃないか?


 こいつを叩きのめしてやってもよかったが、こんなところで騒動を起こしてしまうと後々面倒になると思ってやめておいた。チュートリアルフィールドでの訓練のたまものなのか弊害なのか分からないが、寝たきりだったころの俺では考えられないような思考をしている。


「バーツさん、ギルド内での乱暴は処罰されますよ」


「チッ!」

 マリアさんの隣の窓口の女性が男を止めてくれ、バーツと呼ばれた男は舌打ちして、仲間のほうに戻っていった。

 俺が男を叩きのめしていたら俺が怒られるところだった。ギルド内での乱暴は処罰ということはギルドの外だとギルドは関知しないということなのだろう。まあ、ギルドの外のいざこざは警察?案件だろうから当たり前か。



 口の臭い冒険者に絡まれかけた後、それほど間をおかずマリアさんが戻ってきた。口臭冒険者は俺の方を睨んだまま、仲間と何か話をしている。


「うん? オオヤマさん、何かありましたか?」

「いえ、だいじょうぶです。問題ありません」

「そうですか。ではこれがオオヤマさんのギルドカードです。クエスト受注、素材の買い取り、昇格時に必要ですから大事にしてください。再発行は可能ですが、再発行には手数料が必要です」


 マリアさんからギルドカードと言って木の札を渡された。札には俺の名まえと、おそらく生年らしい3桁の数字が刻まれて、ギルドのマークらしい剣と杖の交差したマークの焼き印が押してあった。何かあれば簡単に割れそうなチープな木の札だから、失くす前に壊れるんじゃないか?


「オオヤマさんは新規登録なので、ランクはGとなります。ランクについての説明は必要ですか?」

「なんとなくわかりますから結構です」

「そうですか。出入り口の両側の壁が依頼掲示板になっています。依頼掲示板の左端にG、Fランク用の比較的簡単な依頼が張り出されています。オオヤマさんは単独でのご活動のようですので、そこから適当な依頼を探して受注することをお勧めします。

 高難易度の依頼を受注することは可能ですが、依頼を達成できない場合、ペナルティーが発生しますのでお勧めしません。

 お勧めなのは薬草収集。体力に自信があるなら街の外壁工事です。街の外壁工事は毎朝受け付けています。

 依頼を達成した場合は、窓口に報告してください。一般の依頼の場合はこの窓口、期限なしの採集依頼などはわたしから見て左手奥にある買取窓口に直接お持ちください。

 依頼料のうち10パーセントが当ギルドに、20パーセントが税として徴収されます。掲示板に表示された報酬額はこれらを差し引いた後の手取り額になっています。

 報酬額金貨1枚につきギルド貢献ポイントが1ポイント加算されます。指名依頼や緊急依頼を受注していただいた場合はその都度決められたギルド貢献ポイントが加算されます。

 このギルド貢献ポイントは昇格のために必要で、GランクからFランクへ昇格するためにはギルド貢献ポイントが10ポイント必要です。

 それではケガなどしないよう頑張ってください」


 手持ちの現金が金貨5枚程度ではこれから生活するにしては心もとない。チュートリアル中たおしたモンスターの素材が背中のバックパックの中にそれなりの量入っているので少し現金化しておくとしよう。


「ここに来る前にたおしたモンスターの素材を持ってるんで、その買取をお願いしたいんですが」

「そちらから見て右手の買取窓口に回ってください」

「わかりました。ありがとうございます」


 俺はマリアさんに軽く会釈して、買取窓口に回った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 時間は少し遡り、大山源太郎がアテナ世界に送られたのと時を同じくして5人の日本人高校生がアテナ世界に召喚されていた。

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