第7話 野宿

 「暗くなってきたね?」


 コクリと頷き、近くに川がないか探す。

 ヒンヤリとした空気が南から来ている。


 不思議だよな。

 骨なのに風の感覚まで分かるんだよな。


「こっち?」


 コクコクと頷き、進むと川のせせらぎが聞こえてきた。

 キラキラと夕焼けのオレンジの光を反射して何とも幻想的な景色を作り出している。


「わぁぁ。なんか綺麗だね?」


 コクコクと頷く。

 確かに綺麗だ。

 今日はここを寝床にしよう。


 ミリアを下ろすとその辺にあった石を積み重ねて即席のコンロを作る。

 木の枝を集めてくると。

 その真ん中に木の枝を入れる。


 火……って。

 ジェスチャーでミリアに火をおこしてほしいとお願いする。


「えぇっ!? 火をつけろって? 無理だよぉ。私魔法使えないもん」


 おいおい。マシかよ。

 思わず頭を抱えてしまう。


「あっ! なんか、冒険者になった時にこれで火をつけれるぞって、火打石っていうの貰ったんだった!」


 そうですか。

 ミリアさん? もしかして、金ないのに野宿初めてだったりします?

 宿代嵩んでるから、金ないんじゃないの?


 差し出された火打石を受け取る。

 カチカチと打ち付けて枝に火をつけた。


「わぁぁ! ナイルすごーい! へぇ。こうやって火をつけるんだぁ!」


 あのさ、火打石渡すってことはだよ。

 冒険者になる時に付け方教わったんじゃないかな?

 ねぇ。ミリアさん?


「火は付いたけど、鍋とかないね?」


 おぉふ。野宿初めてだったらそりゃ無いか。

 じゃあ、枝に肉を突き刺して火の傍につき刺せば。


「おぉー! ナイル凄いね! なんでも出来る! すごいすごーい!」


 もう何も言うまい。

 ミリアは一人だったから野宿も何も怖くて出来なかったのかもしれない。

 女の子が一人で野宿なんて大変な事だもんな。


 考え事をしている間に肉がいい感じに焼けてきた。

 肉を枝に刺さったままミリアに渡す。


「できたの? すごーい! 美味しそー!」


 ふーふーしながらかぶりつく。

 肉汁が染み出てきて口の横からつーっと首に流れていく。

 その様はなんだか妖艶だった。


「んー! おいひぃ!」


 いい顔で笑っている。

 うちのミリアは可愛いなぁ。


 焚き火の炎がミリアの顔を照らして少し赤みがかっているように見える。

 なんだか火照ってる子みたいでちょっとエ──────


「おいおい。こんな上玉がこんな所で野宿してるぜぇ?」


「どうしたのぉ? こんな所でぇー?」


「わざわざ俺達の縄張りで野宿なんてぇ、襲われたかったのかなぁ?」


 ゾロゾロと五人。

 この辺りの見回りをしていたのか?

 面倒な。


 まさかここがゴロツキの縄張りだったとは。

 調査不足だな。

 はぁ。


「なんなんですか!? あなた達!?」


「なんなんですかってぇ。この辺を縄張りにしてる盗賊だよぉ?」


「ねぇ。お姉ちゃん、いい体してるねぇ?」


「しかもわけぇ。クックックッ。今日はついてるぜぇ」


 ミリアの顔はみるみる怒りに満ちていく。


「盗賊なんて許せない! 成敗してあげるわ! ナイルが!」


 そういうとスッと俺の影に隠れた。

 俺は胸の魔力を巡回させて身体強化を発動させる。

 剣を左手に持ち立ち上がる。


 あの時は気づかなかったが、俺の身体強化は胸の炎が全身に広がり、青く燃えているように見える。


「なんだぁ? スケルトン? ハッハッハッ!」


「ギャハハハッ! お姉ちゃん、テイマー?」


「ダメだよぉ。こんな弱っちいモンスターをテイムしちゃあ!」


 口々に笑いながら得物を手にする。

 俺を殺った後にミリアを手にかける幻想を頭に描いているのだろう。


 ゲスは嫌いだ。

 ましてや、うちのミリアには手は出させねぇよ?


「スケルトン如きがすっこんでろ!」


 流石は盗賊。

 俺の弱点はしっかりと把握している。

 胸の炎を狙ってきた。


 そこを狙ってくると思っていたよ。


 ストロング流剣術 柔剣術

「カタタ(おぼろ)」


 金属の擦れ合う音が響き渡り、剣が火花を散らす。

 受け流された男は体が流れてこちらに首を差し出す。

 後は刈るだけ。


 男の体は地に落ち、頭は宙を舞い。

 他の男たちを驚愕させた。

 驚愕している暇など無いのだが。


 俺はすぐさま後ろの男に肉薄した。


 ストロング流剣術 抜剣術

「カタカタ(すめらぎ)」


 瞬きする位の刹那。

 二人目の首がはねられた。


「なに!? たかがスケル──────」


 ストロング流剣術 剛剣術

「カタカタ(かんなぎ)」


 そいつは喋っている間に脳天から股までに切れ目がはいり。

 真っ二つになって地に伏した。


「なっ! なななな」


 そこまでパニックなったなら、もう簡単だ。

 ただただ、肉薄して首を刈るだけ。


 一人残した。

 剣を首に突きつける。


「ひぃ! お、俺達、闇夜の盗賊団に手を出してタダで済むと思うなよ? ぜっ、絶対報復に合うぞ?」


 それはめんどい。

 けど、時間が無い。

 盗賊団の名前が知れたからいいや。


「分かったか? わかったなら、剣を下ろ──────」


 うるさい。

 その男は頭をなくして地に倒れた。


「ナ、ナイル? 人殺しちゃって大丈夫かな?」


 ミリア?

 盗賊なんて討伐対象だぞ?


 コクリと頷いてサムズアップする。


「だ、大丈夫なんだ。ほんとに?」


 コクリと頷いて死体を集める。

 そして、焚き火の火を放ち焼く。


 荷物を片付けてミリアの手を引いた。

 その場を離れて山に入る。

 少し登ると小さな洞窟があった。

 そこにミリアを案内して。


 今日はここで野宿にしよう。


「ここで寝るの?」


 コクリと頷いて洞窟の前に座る。

 はぁ。ここなら奴らが来ても対応出来る。


 その晩は見張っていたが、奴らは来なかった。

 

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