第8話 登山

「ここの頂上にミストン花があるんだよね?」


 コクリと頷くと、進行方向を指して登っていく。


「あっ! 待って!」


 ミリアも慌てて後を追って来る。

 ゆっくり休めたみたいだから少しは山も登れるだろう。

 リミットを考えると三日で下りてこないといけない。


 頂上にグリフォンが君臨していると考えると、その下も近しいランクの魔物がいると思われる。

 油断せずいかないとな。


 少し登ると行く手を阻んだのはホワイトボアだった。Dランクの魔物なのでそこまで強くはないが、突進してくるのが厄介だ。


 こちらを見るなり突っ込んできた。

 咄嗟にミリアの腕を引っ張り横に逃げる。

 ジェスチャーで念話スキルをアクティブにする様に指示する。


「えぇーっと……えぇーっと。ここをタップして……」


 ホワイトボアは再びこちらに向き直る。

 少し横に移動してミリアを攻撃の範囲から外す。

 またしてもこちらに突っ込んできた。


 これだけちゃんと来るタイミングが分かるなら処理は簡単だ。


 ストロング流剣術 抜剣術

「カタカタ(すめらぎ)」


 突進してきたホワイトボアの横を素通りしながら剣を抜き放ち、首を切り落とした。

 後は解体して肉だけ回収する。


「あっ。念話入れたよ。そのお肉はまたご飯に使うの?」


 あぁ。

 ここからは何かあった時は指示を出す。

 逃げなきゃ行けない時は逃げてくれ。


「私も一緒に戦うよ!」


 一緒に戦うのはいいが、指示は聞いてもらうぞ? いいか?


「はい! わかりました! ナイル殿!」


 ふざけて敬礼をしているミリア。

 胸を張るとせり上がってくるものに目がいってしまう。

 さっと顔を進行方向に向け。


 よしっ。

 行くか。

 足元気をつけてな。


「うん。ナイル優しいね?」


 そ、そうか?

 まぁ。普通だと思うけどな。


 ちょっとカッコつけてしまった。

 本当はこんな事を言うのは初めてだ。

 実は前前世の日本で過ごしていた時にモテたくてモテる男は気が使える男だと雑誌で見たのだ。


 それを最近思い出して、ミリアに気を使ってみている。

 決して、落とそうとかそう思っている訳では無いぞ。

 うん。断じて違う。


「ナイル?」


 ん? どうした?


「なんか無になってたから、どうしたのかなと思って」


 ちょっと昔を思い出してたんだ。


「ふーん。ねぇ、ナイルって前世では奥さんとか居たの?」


 痛いところを抉ってくるな?

 結婚は出来なかったし、お付き合いみたいなものをしたことも無いな。


「そうなんだ。ふふふっ」


 なんだよ? どうした?


「いや、なんかちょっと嬉しいなぁと思って」


 何がだよ?


「んー。初めてを獲得した気分?」


 なんだそれは。


「とにかく、いい気分なのぉ!」


 そりゃ良かったな。


 少し上で木々が揺れた。

 なにか来る。


 なんか来るぞ!

 頭を低くしろ!


「えっ!? うん!」

 

 二人で頭を下げてしゃがむ。

 上からだな。


「ギエェェェ!」


 爪をたてて襲いかかってきたのはレッドホークだ。名前の通り、赤い大鷹だ。炎の属性を持っている。Cランクのモンスターだ。


 咄嗟に剣で上へ弾き返す。


 ミリア、そのまましゃがんでろよ。


「うん!」


 空を旋回しているレッドホークを見つめる。

 上を取られていく分、こちらが不利だがやりようはある。


「ギエェェェェ!」


 炎を纏って突っ込んできた。

 森が焼けるとかはお構い無しのようだ。


 ストロング流剣術 柔剣術

「カタタ(おぼろ)」


 突進してきたレッドホークを剣で受け流しつつ攻撃を試みるが、スピードが早すぎる。

 受け流しただけになってしまった。


 それに、予想以上に上からの攻撃は重い。

 身体強化は魔力を使うので、余り使いたくない。

 剣はまだ大丈夫だと思うが、あまり無茶をしてグリフォンの前に折れでもしたら、目も当てられない。


 一撃で決める。


「ギエェェェェ!」


 再び上空から急降下してくる。

 俺は身をかがめて左手で剣の鞘を抑え、抜刀の準備をする。

 体を捻り力を溜める。

 骨だから、筋肉ないけど。


 ストロング流剣術 抜剣術

「カタカタ(開闢かいびゃく)」


 タイミングを合わせ。

 下から上への払いあげの抜剣術を放つ。

 目の前で縦に真っ二つになり、両頬を爪が掠めて後ろへ落ちていく。


 体がチカッと光った。

 レベルが上がったみたいだ。


 剣を確認する。

 刃こぼれはないな。

 だが、今ので少し歪みが出たようだ。


 二の剣を使ったからな。

 強力だが、この剣では後数回放ったら折れてしまうだろうな。


 剣を温存しながら戦わないとな。

 グリフォン戦までは、素手も混じえて戦うか。

 骨だからな。こっちにもダメージなきゃいいけど。


 あっ、ミリア?

 スキル獲得できるか?


「見てみるね! んーっと……あっ、【頑強】とれるよ!」


 違いが分からねぇけど、それを頼む。


「分かったわ! 【硬化】は硬くなるんだと思うけど、【頑強】は骨の素材自体の強度が上がるんじゃないかな? なんか中身が強くなるっていうか。硬化はガワが強くなるんだと思うわ」


 ほぉ。なるほどな。

 さすがミリア。

 テイマーの勉強を頑張っているだけあるな


「えへへぇ。そうでしょ?」


 あぁ。凄いぞ。


「ふふふっ。有難う。でさぁ、ナイル?」


 ん? どうした?


「疲れちゃった。おぶって?」


 ミリアさん、体力付けましょう?

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