第6話 アンガー山へ

 アンガー山はそこまで遠くはないが、徒歩で半日はかかる距離にある。

 急がなければ。


 アンガー山までは街道を利用していく。

 最初は勢いよく飛び出して早歩きでずっと来ていた。

 俺は疲労というものがないからいいが、テイマーであるミリアは体力がそんなにある訳ではなく。


 二時間経った頃にはヘトヘトになっていた。


「ううぅぅぅ。こんなに歩くのってしんどかったっけぇ?」


 ヨロヨロと歩いているミリア。

 そんなのではあの子のお母さん助からないぞ?

 仕方ないなぁ。


 ミリアの前に回るとしゃがむ。

 そして、背中を指さす。


「えっ? ナイル……もしかしておぶってくれるの?」


 コクリと頷く。


「うぅ。ごめんね。有難う」


 背中に覆いかぶさってくる。

 うん。おんぶしても体は問題ないな。

 力的にも問題なくおぶれる。


 ミリア軽いな。

 そして、背内に柔らかい物が当たる。

 んー。骨なのに感触があるのはちょっと不思議だよなぁ。


 骨にも神経みたいなのがあるって事かな?

 神経も何も骨だけだからそんなわけないか。

 謎だな。スケルトン。


 おぶって歩いていく。

 疲労がないからこの方が効率的かもしれない。

 なんか、ミリアを背内に載せる専用の物を作った方がいいかもしれないな。


 これなら、もう少しでアンガー山には着きそうだ。

 そう思った矢先、ブラウンウルフに囲まれた。

 気づいたら囲まれていた。


 統率が取れている群れだな。

 リーダー格が居るに違いない。

 一旦ミリアを下ろす。


 それを隙と思ったのだろう。

 一番近かったブラウンウルフが突進してきた。

 剣を抜く暇はなかった。


 前世で剣聖になったが、剣だけしかできなかった訳では無い。

 何せ、剣がなきゃ何も出来ないと思われる為、剣を隠されたりもした。


 その上で襲撃。

 良くやられたものだ。

 だから、俺は素手でも強くなる事にした。


 迫り来るブラウンウルフのこめかみを蹴りを放ち吹き飛ばす。


「ギャンッ!」


 痛かったか?

 硬化した骨だからな。

 痛いのかもな。


「ウウゥゥゥゥ」


 今ので警戒されたようだ。

 俺達には時間が無い。

 悪いが、こちらから行く。


 ゆっくりと歩み寄る。

 ジリジリと後ろに下がっていくブラウンウルフ。


 ストロング流剣術 幻剣術

「カタタ(うつつ)」


 残像だけその場に残して、目の前のブラウンウルフに肉薄する。

 近づかれた事に気づいていない。

 後は首を切り落とすのみ。


 これで一体。

 後は輪になっているので、残像に気を取られている間に始末する。


 中心にいる俺の残像はまだ残っている。

 次々とブラウンウルフを横から切り飛ばしていく。

 半分くらい来た時、残像が無くなった。


「グルルルル!」


 大きめなブラウンウルフの周りに土の塊が浮かび上がる。


 ほぉ。モンスターが魔法を使うのか。

 そんな個体も居るんだな。


「ガァァァ!」


 土の弾が俺に向かって放たれた。

 そこまでのスピードはない。

 一つ一つ丁寧に切り裂いていく。


 前世でも魔法士の相手をする時はこうやって全てを切り伏せたものだ。

 懐かしいな。

 こういう奴は大体魔法を放った後は無防備なものだ。


 一気に距離を詰め肉薄する。


 ストロング流剣術 抜剣術

「カタカタ(すめらぎ)」


 リーダーと思わしき個体は真っ二つになった。

 それを見ていた他のブラウンウルフは逃げ出した。

 散り散りに逃げていく。


 適わないと思ったんだろう。

 最初からリーダー個体を狙えばよかったな。

 次からはそうする事にしよう。


 そうだ。

 ブラウンウルフを一体捌くことにした。

 解体用のナイフ買わなかったんだよな。


 金がないからな。

 剣で捌くしかないな。

 出来ないわけじゃないからな。


 刃の部分を手で持ち、先っぽの方で皮と肉を剥がしていく。

 内蔵は土に埋める。

 後は放っておけば何かが食べるだろう。


「ねぇ? なんでブラウンウルフの肉取ったの? えっ? もしかして食べる?」


 コクリと頷くと、ミリアはブルブルッと震えた。


「モンスター食べるの?」


 コクリと頷く。

 だって、ミリア金ないから食料買ってないだろ?

 仕方ないんだって。

 念話繋がってないから分かんないだろうけど。


 手を握りしめて胸の前でギュッと握る。

 ガッツポーズのような形で。


「頑張れってこと?」


 コクコクと頷く。

 ウルフの肉は少し臭みがあるけど、美味かったはずだぞ?


「はぁぁ。仕方ないよねぇ。お金なかったし。そもそも一週間じゃあ、保存食しか買えないしね」


 コクコクと頷く。

 分かってるじゃないか。

 仕方がないことだ。


 持ってきたロープに肉を吊るして腰に下げる。

 そして、またミリアをおぶる。


「なんかごめんね? もう歩けない」


 はははっ。

 うちのお姫様はか弱いこったな。

 そんなんでよくあの子の依頼を引き受けたもんだ。


 でも、誰もあの子には手を差し伸べようとしていなかった。

 そんな中、迷わず手を差し伸べたミリアを、俺は尊敬する。


 この子のテイムモンスターで良かったなと、そう思うほどに。

 俺はミリアがしたいと思うことを手伝うことにする。


 手伝う?

 違うな。

 一緒に歩んでいくんだ。


 ミリアがこれから歩く道が茨の道であるなら、俺はその茨を根こそぎ薙ぎ払ってみせる。


 俺達は最強のコンビだと証明してみせるさ。

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