第7話 二つ目の努力

 そして、もう一つの行動。

 それは、凪くんの周りで沸く害虫の駆除だ。

 害虫には二種類いる。まずは、凪くんに色目を使うメスの害虫。

 大して凪くんと接点があるわけでもないのに、なぜか恋慕を募らせる地味で大人しめなメスがときどき沸いた。

 凪くんの少し大人びた雰囲気や、優しそうな人柄にただ何となく魅かれただけの女。

 そんなのは浅くて重みのない一時の感情に過ぎない。

 その程度で凪くんに思いをはせるなど、おこがましいにも程がある。

 だけど、私はこの種のメスには寛大だった。

 地味で大人しいがゆえに、直接凪くんに接触を試みようとしたものはほとんどいなかったためだ。

 だから、わざわざ策を講じる必要もなく、ただ下手な行動に出ないか監視をする程度で済んだ。

 それに理由が浅いとは言え、凪くんの魅力に気づいたという点も考慮してやってのことだ。


 だが問題は、ある程度カースト上位に所属するメスの方。

 何の気まぐれか、意外にも凪くんの顔が整っているということで一時期話題になったことがある。

 その時、一人の女子生徒が本命への練習がてら試しに告白してみるという流れになったのだ。


 練習?

 試しに?


 あろうことか純粋な凪くんを汚そうとしていた。


 なぜ、お前らのくだらないお遊びに凪くんが使われなければならないのか?

 気持ちのない告白に凪くんが傷ついたらどうするつもりだ。

 女性不信にでもなったら?

 いや、それ以前に、私を差し置いて告白など許さない。

 何人たりとも、凪くんの心の隙間に入り込ませはしない。

 私と凪くんの邪魔をするな。


 だから私は気づかれないようにその女を階段から突き落とした。

 結果は複雑骨折で全治一か月。

 意外と軽症だった。

 背骨の一か所や二か所折るつもりで思いっきり突き飛ばしたはずなのだが。

 しかし、その甲斐あってか、彼女たちの凪くんへの興味は自然と消え去っていった。

 それどころではなくなったのだろう。

 私は凪くんを穢れから守ることが出来てとても満足していた。


 そして、次に排除すべき害虫は凪くんにあだなすオスの害虫。

 凪くんに害をもたらす男子たちだ。

 大人しい凪くんを標的に、からかい、冷やかし、時に侮辱した。

 根暗だの、不気味だの、散々好き勝手に言い散らかし、効果が無いと見るや、ものを隠したり、本を取り上げたりと、凪くんの平静を蝕んでいく。

 凪くんはそんな時、努めて冷静さを保ち、基本的に無視を決め込んでいたが、そんな態度も一部の男子たちには気に入らなかったのだろう。

 日に日に嫌がらせはエスカレートしていった。

 当然そんなゴミどもを私が見逃すはずもなく、一人残らず報復することを決める。

 男子相手に階段から突き落とすといったような力ずくでの策はリスクが高かったので、少し趣向を変えてみた。

 理科室から盗んだ劇薬を給食に混ぜたり、女子の体操着を荷物に忍ばせ犯人に仕立て上げたり、さらにはネットやSNSを駆使して人間関係を壊してやった。

 とにかく凪くんに構う暇を与えない。

 自分のことで手一杯になるように、着実に致命傷を負わせてやった。

 いい気味だった。

 泣きわめくもの、仲間内で争い出すもの、学校に来なくなったものもいる。

 問題児たちが次々に不幸な目にあうことに、周りは天罰だの祟りだの噂するものもいたが、凪くんはどう思っているだろうか。

 あなたを守りたい一心でやった私の報復。

 凪くんには綺麗なままでいてもらいたかったから。

 いつか、あれは私があなたのためにやったことだと伝えたとき、何て褒めてくれるだろうか。

 早くその時が来て欲しい。

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