第6話 一つ目の努力

 あっという間に、小学と中学を卒業した。

 その間、凪くんとの接触は数えるほどしかなかった。

 クラス替えの運に恵まれなかったというのもあるが、あまり自分から積極的に話しかけにはいかなかったためだ。

 私はまだ凪くんに相応しくはなかったから。


 ———傷を負っても前に進める人は綺麗でかっこいい。


 私は凪くんにもっと綺麗でかっこいいと思ってもらいたい。

 そのためには過去のトラウマを克服し前進している自分を見せる必要があった。

 そうまでしなくとも、きっと凪くんなら今のままの私を優しく受け入れてくれるだろう。

 でも、それは私のプライドが許さない。

 凪くんの優しさに胡坐をかいて施しを貰うなど、彼を見くびっていることに他ならない。

 与えられるだけでなく、与える側の役割も担ってこそ本物だ。

 大事な人に不良品のままの自分を渡すなどあってはならないのだ。

 私は他のメスとは違う。

 凪くんと私が結ばれたとき、凪くんにも特別で魅力的だと思ってもらいたい。

 私が凪くんを愛しているのと同じくらい、凪くんから愛されたい。


 だから私は完璧を追い求めた。

 そして凪くんに認めてもらうために努力した。


 しかし、努力するにしてもまずはその方向性を決める必要があった。

 凪くんの好みとずれた方向に向かってしまっては何の意味もないからだ。

 そこで私は、二つの行動をとることにした。


 一つは凪くんのありとあらゆる好みの把握。

 出来るだけ多く、そして正確に知る必要があった。

 始めに思いついたのは、凪くんと親しい者から情報を探るという手段だが、交友関係の乏しい凪くんでは、あまり効果は見込めない。

 それに、そもそも私以上に本当の意味での凪くんを知っている人物などいないわけで、情報の信憑性にも欠けることになる。

 もちろん、直接本人に聞くというのもあるが、それはあくまで最終手段だ。

 できれば、自力で変わった私を凪くん自身で見つけて欲しかった。

 凪くんに見つからないうちはまだ努力が足りない証拠だ。


 そこで私は凪くんの読んでいる本に思い至る。

 

 凪くんがいつも読んでいる本。

 そこに凪くんの趣味嗜好が隠されていると考えた。


 本を読んでいる凪くんに近づき、タイトルを暗記。

 図書室の貸し出しリストの泉谷凪の名前も全て確認。

 凪くんを行きつけの書店まで尾行し、手に取った本や購入した本も全て調査した。

 ちょっぴりエッチな雑誌に目を奪われていたのも知っている。

 こういった何気ない行動も参考になった。

 ちなみに買っていたら、強奪の後、燃やしていた。

 小説に出てくるような架空の人物ならいいが、実在する人物はダメだ。


 それらを確認し、私は追うようにして同じ本を読む。


 凪くんはライトノベルから文学小説に至るまで幅広く読み漁っており、一見好みが分かりづらいようだが、やはりそこには一定の傾向があった。

 特に顕著だったのは、主人公が男性であり、必ずヒロインとの恋愛要素が描かれているという点。

 もっと言えば、主人公は優しく正義感がある王道系、ヒロインも容姿端麗、才色兼備と割とありきたりな人物像が多かった。

 凪くんは特別変わり種な女性が好きというわけではないようだ。

 そして私はそう言ったヒロインを参考にし、一つの目標点として定めることにした。

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