クール系キャラは主人公ではなく脇に配すべき

水無月礼人

キャラクターは個性を踏まえて適材適所の運用を

 こんにちは、水無月礼人ミナヅキレイトです。

 執筆活動中に抱えたストレスを、楽しく解消しようという趣旨でエッセイを書いています。読んで下さった皆様にも、楽しめる内容になれれば幸いです。


 さて、今回のお題はクールな性格を持つキャラクターについてです。

 ファンタジージャンルの作品に、一人は必ず居るキャラですね。

 このエッセイでは性別を男性と固定した上で、話を進めていきます。


 無口で無愛想。それだけではただのコミュ障くんですが、違う点、それはもの凄く高いスペックを持っているというところです。

 クールくんはやたらと強いです。味方連中が散々手こずった敵を、汗をかかず必殺技の名前を叫ぶこともなく、淡々と倒してしまいます。

 そして手先が器用です。簡単な繕い物、武具修理は職人を介さず自分でやります。医学知識も有るようで、仲間の腕がもげたくらいでは動じません。

 トドメに、99%の確率でお顔が綺麗です。

 格好良いですよね、イケメンの強キャラ。自分の作品にも登場させたいと考える作者さんはとても多いと思います。


 ですがここで落とし穴です。クール系キャラクターは、主人公にしてしまうと大変なのです。(主に作者が)


 まず、イベントが起きません。

 そつが無いので落とし物をせず、置き引きの被害に遭わず、道に迷うことも有りません。地図が読めないクールは嫌です。

 あまり感情が動かないので、若い娘さんが怪しげなオヤジに追われていたとしても、基本スルーします。

 なので作者は話を進める為に、強引で乱暴な描写をせざるを得ません。

 クールキャラの目の前で、怪しげなオヤジに娘さんを二・三発叩かせます。髪の毛を掴んで引きずるという演出もポピュラーです。

 ここまでして、ようやくクールくんは娘さんを助けようと動きます。

 ただし、話し合いというコンテンツはクールの中に存在しません。口下手なので、すぐに実力行使に出ます。

 ひょっとしたらオヤジはどこかの店の善良な主人で、娘さんは店のお金をチョロまかした糞ビッチ店員かもしれない。

 しかしクールくんは事情を確かめずに、武器でオヤジを一閃します。真実はいつも闇の中です。


 上記のことを踏まえて、クールくんがお散歩や旅に出る時は、必ずお供キャラを付けるようにしましょう。

 ベストなのが、陽気で勇敢な熱血キャラです。

 熱血くんは喋ろうとしないクールくんに積極的に話し掛け、返事が無くてもめげません。

「おい起きろ、ギルドで割のイイ儲け話が有るってよ!」

 朝一で町の情報を収集してくれる、勤勉さも持ち合わせています。


 現実世界では似た者同士がつるむものですが、創作の世界では、クールと熱血が高確率でバディを組まされます。

 『お互い自分に無い部分に惹かれ、補い合う内に親友になった』とかもっともらしい説明がされますが、嘘です。100%作者都合です。

 だってクールが二人以上居ても会話にならないんですもの。

 ゾロゾロ連れ立っても勇者パーティには見えません。似たようなルックスにボソボソ会話。法事帰りの従兄弟達です。

 ダブルクールで爽快になるのは歯磨き粉か、男性向けの化粧水・シャンプーくらいなのです。


 親友ポジションの熱血くんは良い仕事をします。

 悪人の甘言に騙され、罠が設置してあったら全力で掛かりに行き、最終的には囚われの身となります。

 読者様からしたら、うわ、コイツ足手まといと感想を持たれるかもしれません。ですが作者からしたら、イベントを次々に起こしてくれる熱血くんは孝行息子なのです。

 彼は身体を張って、クールくんの見せ場を作ってくれるのです。


 月がおぼろに照らす夜道を、クールの脚は静かに地を蹴り悪役城へ迫っていた。悪役大王に囚われた友を救出する為に。


 熱血くんの危機に、クールくんは微妙にダサい地文を引っ提げて登場します。

 本当はもっと格好良い文句を並べたいのですが、ここに来るまでに作者は様々な表現を使い切り、もうストックが残りわずかとなっています。

 それは全て、喋らないクール主人公のせいです。

 熱血くんが傍にいる間は、彼が情景や状況を台詞で説明してくれます。

「あのコ美人だな。ほら、花屋の前に居る赤い髪の女のコ」

「やべっ、雨降って来たぞ。おいおい、俺達マント持ってねーぞ」

「もう夕暮れか……」

 本当に熱血は便利な奴です。

 対する歯磨き粉は「ふっ」とか「はっ」しか言わないので、周りで何が起きているのか、作者が文章で丁寧に説明しなくてはならなくなります。


 小説を一度でも書いた経験の有る方なら、解って頂けると思います。

 短い期間に同じ表現ばかり使用すると、くどく、頭の悪い文章が出来上がってしまうのです。それ故に作者は、意味は同じでも違う言葉をあてようと努力します。

 『泣いた』に対しては、目頭が熱くなった、涙が頬を伝った、肩を震わせて嗚咽を漏らした、など。

 『怒った』に対しては、腹を立てた、憤った、プンスカした、女名と馬鹿にされたので鬱憤晴らしにガンダムへ乗り込んだ、この辺りがよく使われる表現でしょうか。

 頑張って頑張って考えても、喋らないクールくんのせいで表現方法はどんどん消費されていき、供給が追い付きません。


 対峙したクールと悪役大王。交わすのは言葉ではなく、互いの剣であった。

 カンッ。ヒュッ。キンキンキンキンキンキン!


 擬音を多用するようになったら末期です。作者のボキャブラリー箪笥の引き出しは空っぽになったと察して下さい。


 ズバシュッ。ギャアァァァァァア!!


 悪役大王が倒れたようです。

 囚われのお姫様と化した熱血くんとの、久々の再会を果たしたクールくん。さぞや感動的なシーンが展開するかと思いきや、

「フッ、帰るぞ」

 歯磨き粉の台詞はこれだけです。怪我の有無くらい確認しろや。いつもは賑やかな熱血くんも、自分のミスが招いた事件なのでションボリして静かです。

 なのでまた作者が地の文を考えて、綺麗にまとめなければなりません。もう勘弁してと叫びたくなります。


 だから、申し上げたい。迂闊にクール系を主人公に据えると、ドツボにはまってどっぴんしゃんになりますよ、と。


 しかしです、このクール、脇役にした途端に超使えるキャラクターへクラスチェンジするのです。


 物語は代わりに主人公となった熱血くんが引っ張ってくれるので、進行に問題は有りません。

 クールくんの仕事は熱血くんのフォローです。スペックが高いので楽勝です。

 熱血くんが取りこぼした敵を倒し、熱血くんの擦りむいた膝小僧に薬を塗ってやり、布団を蹴飛ばしてお腹を出して寝ている熱血くんに毛布を掛けてあげます。まるでお母さんです。


 それだけでは有りません。クールを脇役にする最大の利点、それは、書 き 忘 れ て も大丈夫ということです。


 クライマックス大決戦ともなると、敵味方、沢山のキャラクターが入り混じることになります。

 人数に合わせて台詞や心理描写が増えるので、作者は管理が非常に大変です。

 読者様もこれは誰の台詞? と混乱しやすい場面ですね。

 作者に力量が有れば上手にまとめるのですが、未熟な作者では駄目です。まとめるどころかキャラクターを暴走させ、収拾がつかなくなり、最悪一人や二人、キャラを書き忘れるという失態を犯します。

 これが普段よく喋るキャラや、主人公なら救いようが有りません。作者のうっかりは読者側へすぐに伝わります。


 でもそれが、クール系キャラだったなら……?

 ミスがバレないのですよ。クールは普段から喋らないから。出て来ないけど、きっと裏で何かしているんだろうと、読者様は好意的に脳内補正をして下さるのです。しめしめです。

 後は熱血くんが無事に魔王を倒してくれるのを祈るだけです。

 クールには最後の最後に、「フッ、ヤレヤレだ」とか一言お願いすれば大丈夫。素直な読者様は、ああ、やっぱり居たんだなと安心してエピローグを迎えられます。


 ね、クール系は脇役にすると便利でしょう?

 あなたの勇者パーティにも、お一人いかがですか?

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クール系キャラは主人公ではなく脇に配すべき 水無月礼人 @minadukireito

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