第15話 大砲②

 宮崎の危機的状況に助けに入ったタツキは、すぐさま臨戦態勢に入る。

 

「宮崎さんここは僕に任せ——」

 

 宮崎は彼の頭を軽く叩くと、タツキの前に出た。

 

「バカか、俺に命令すんな。二人で行くぞ」

 

「はい!」

 

 ※ ※ ※

 

「先を越されたか……まぁいい今回の素材はアイツにしておくか」

 

 白服の男は外の景色がよく見えるビルの屋上で、タツキと宮崎の姿を見物していた。

 

「見せてもらおうか、お前らの実力を……」

 

「『見せてもらおうか、お前らの実力を……』じゃねぇよ! はよ金返せよ! お金!」

 

 男の隣に立っていた霧崎きりさきはそう言うと、お金の催促をする。

 

「そんなに気にする程でもないだろ? たかが六万だぞ?」

 

「お前なぁ!? 六万の大事さが分かんねぇのかよ! アホなのか? なぁ? バカなのか? それともお前の頭はイソギンチャクなのか!?」

 

「あぁ? いまなんつった?」

 

 白服の男は怒りを見せた様子で言う。

 

 逆ギレかよ〜! 今すぐにでもキレたいのこっちなんですけどぉ〜!

 

 ※ ※ ※

 

 血と肉が散る戦いの中、大砲の疑神は二人を一度に相手にすることに、苦戦を強いられていた。

 

 二人の仕掛けてくる斬撃を受け流しながら、攻撃をする大砲の疑神は、タツキに向けて空気弾を撃つ。

 

 疑神の放った空気弾に、タツキは大きく吹き飛ぶ。

 

「タツキィ! テメェやる気ねぇなら帰れ!」

 

 大砲の疑神の器用な攻撃に苦戦している宮崎は言うと、疑神に猛攻を続ける。

 

鬱陶うっとうしいなぁ!」

 

 大砲の疑神は攻撃を仕掛けてくる宮崎に、連続して空気弾を撃つ。

 

 宮崎は踊るように舞った土煙を薙ぎ払うと、次々と弾を撃ってくる疑神の攻撃を、サイドステップで避けていく。

 

「殺気が見え見えだ! そんなんじゃ俺にかすりもしねぇぜ」

 

 相手の攻撃を自身の感覚で避けていく宮崎は、華麗な動きで攻撃を避け、相手の右腕を切断する。

 

「チッ——でもな?」

 

「——しまッ!」

 

 残った片腕で、隙を見せた彼に空気弾を撃ちこもうとする。

 

 その時だった。

 

「——ッ!?」

 

 両足を疑神化させたタツキは瞬時に、宮崎の元へ辿り着くと、持っていた剣で大砲の疑神の左腕を斬り捨てる。

 

 そして、続けてタツキは疑神の首を切断する。

 

 噴水の様に吹き出る血。あっという間にそれは血の雨となり、辺り一帯に血の海ができていく。

 

「やったか……?」

 

 宮崎がそう唖然とした顔で呟いた時、血飛沫ちしぶきを散らしてユラユラと立ち尽くす疑神の体が、元の姿に修復されていく。

 

「普通の疑神ならここで大体は再起不能にになる。でもな俺はテメェら人間にコケにされて生きてきた。ただじゃ捕まらねぇ、俺は王から力をもらった!」

 

「お前……何する気だ!?」

 

 疑神は背中からチューブのような物を出すと、そこからまた風を集めだす。

 

 その時、大砲の疑神からとてつもない熱さの熱線が生まれ、疑神の背中から骨の様な物が生え、どす黒い深淵の闇を纏った異形の姿となった。

 

「お前……どうやってそれを……いや、もうこうなったら殺すしかない」

 

 大砲の疑神は纏っていた闇でタツキたちを、呑み込もうとする。

 

 その光をも通さない闇は、辺りの瓦礫を消滅させ、彼らに迫り来る。

 

「タツキィ! 避けろ! 死ぬぞ!」

 

 彼の咄嗟の声に、タツキは急いで横に避ける。

 

 宮崎は地を勢いよく踏み込み、大砲の疑神の間合いに入る。

 

 狙いは心臓! 

 

 疑神の間合いに入った彼は、空高く飛び上がる。

 

「心臓ごとテメェをぶった斬ってやる!」

 

 疑神は空から迫り来る宮崎に向けて、深淵の闇を触手のように操って攻撃する。

 

 闇が至近距離にまで到達した時、彼は空中で体をひねらせて、ギリギリのところで避ける。

 

 そして、大砲の疑神の間合いに入った宮崎は、疑神の体を一刀両断にした。

 

「チッ、手応えがねぇ!」

 

 宮崎が素早く敵の方へ振り向く。

 

 そこには一刀両断した傷を闇で、修復している疑神が居た。

 

「俺のあらゆる致命的な傷は瞬時に修復される。お前ならわかるよなぁ? この力がどれだけ異常なものなのかが」

 

「うるせぇ! テメェは早く黙って死んでろォ!」

 

 ニヤリと口角を上げて言う疑神に彼は言うと、すぐさま宮崎は体制を整える。

 

 ※ ※ ※

 

 近くで宮崎と大砲の疑神の戦いを見ていたタツキは、必死に疑神の隙を見計らっていた。

 

 その時だった、彼は自身の脳内に、どす黒い闇が侵食する感覚に襲われる。

 

 その感覚は斧の疑神と戦った時と同様の感覚だった。

 

「面白い、少し興味が湧いた」

 

 彼は大きく口角を上げ呟いた。

 

 ※ ※ ※

 

「宮崎くん、少しどいてもらえないだろうか。ここは私がやる」

 

「あぁ?」

 

 目付きを鋭くさせたタツキは宮崎の前に出ると、持っていた剣に、自身が生む炎を纏わせる。

 

 彼は落ち着いた様子で深呼吸をする。

 

 そして、とてつもない速さで疑神の懐に入ると、斜めに連続して剣撃を打ち込む。

 

 剣に纏っていた炎は蒼炎となり、深淵の闇を照らすその豪炎の炎は、疑神の傷に染み込む。

 

「何だこの炎は! 傷の修復が出来ない!?」

 

 傷が治すことが出来なくなった事に焦りを見せる疑神は、大砲から空気弾を発射させる。

 

 しかし、雰囲気の変わったタツキは、その空気弾を一瞬にして斬り伏せた。

 

「やはり器として完成されたこの体はよく馴染む。とは言っても自由に私の人格を出すことが出来ない所が難点だが……」


「おい、お前、その雰囲気はどいうことだ!?」

 

 何かに驚いた疑神はそう言う。

 

「何を驚いている? 早く戦いの続きを始めよう」

 

 タツキはそう言うと、再び剣を構える。

 

「まさかそうなのか!? チッ、クソがあぁ!」

 

 冷や汗をかいた様子の大砲の疑神は、焦りを見せながら、闇を操作してタツキを攻撃する。

 

 その攻撃に対しタツキは、腕に纏っていた炎で無数の槍状の炎を作り出し、それらを迫り来る闇にぶつける。

 

 深淵の如く黒き闇は、燃える光によって真っ二つに切り裂かれ、獄炎の槍は大砲の疑神の体を貫いた。

 

「——行きますよ! 宮崎さん!」

 

「だから俺に命令するな!」

 

 雰囲気の戻ったタツキは言うと、二人は一斉に大砲の疑神の元へ接近し、一度に攻撃を仕掛ける。

 

 その瞬間、宮崎は鎌で疑神の首を切断し、タツキは獄炎の炎を纏った剣で、奴の心臓を貫いた。

 

 急所を突かれた疑神の体はその場で倒れた。

 

 宮崎は転がってきた首を抱えると、暗い顔をする。

 

「あとは警察たちに任せて……俺たちは帰るぞ」

 

「傷は大丈夫なんですか?」

 

 背を向けてその場を去ろうとする宮崎に、タツキは言う。

 

「ジュウゾウ《コイツ》の「死」と比べたらこんなモノ傷にすらならない」

 

「……そうですか」

 

 ※ ※ ※

 

 大砲の疑神の影響で更地となった大地にて、その様子を見に来ていたアオイは口角を上げる。

 

「炎、そして闇と対となる光。やはり貴方は私の王子にふさわしい。ジュウゾウには悪かったけど、いいものが見れた。亡骸は彼らにあげる。

 次はあの場所で会いましょうね」

 

 彼女は何かを企んだ表情で、その場を去っていった。

 

 ※ ※ ※

 

 宮崎の傷が十分に回復したある日の事。

 

「やったぁ! 明日からゴールデンウィークだー!」

 

 そう言って、自身の周りをクルクルと回るディザ。

 

「ゴールデンウィーク、てことは明日から休みですか!?」

 

 タツキが澤木さわきに聞くと、彼女はこくりと頷く。

 

「やったぁ! 休みだ」

 

 タツキは喜んだ様子でディザと共に、辺りをクルクルと回りだした。

 

「うるせぇぞ! テメェら!」

 

 そんな二人のうるささにムカついた宮崎は、怒鳴り散らした。

 

「まぁ落ち着けよ宮崎、まだ完全に傷が治ってないんだろ?」


 そんな彼を遠くでなだめるように言う三澤。

 

「ということで四宮様の任務を言い渡します」

 

「「は!?」」

 

 澤木はタツキ達の前に出ると、任務を命令する。

 

「『しっかり遊んでゆっくりしなさい』だそうです」

 

「「やったぁ!!」」

 

 ディザとタツキはそう言って、はしゃぎ出した。

 

 その時だった。

 

「あ、言い忘れてましたが……タツキさん貴方に用があるという方がいまして、数分後にここに来るようなので、この部屋で待っててください」

 

「分かりました」

 

 澤木に言われた通りに部屋で待っていると、扉を叩くノック音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

 タツキがそう言うと、誰かが扉を開ける。

 

 開かれた扉から現れた者は、辺りが凍りつくような雰囲気を醸し出し、その鋭い目付きは何かを憎むようなものであった。

 

「カイト……さん」

 

「「「ウゲッ」」」

 

 タツキのその呟きを聞いた澤木を除く面々は、そう言葉を揃えた。

 

「おい、なんでカイトさんがお前に会いに来るんだよ。お前何かしたのか?」

 

 三澤が小さな声で、タツキに語りかける。それを聞いた彼は、冷や汗をかきながら首を横に振る。

 

「タツキ……」

 

「ヒェッ!」

 

 その禍々しいオーラにタツキは、ついそう言ってしまった。

 

「お前の友人からグランモールに行く誘いがタツキに来ててな。どうだ来るか? 俺もそのグランモールには行くが……」

 

 予想の斜め上をいく話にタツキは安堵した様子で、その誘いにこう答えた。

 

「え? 良いの!? もちろん行かせてもらうよ!」

 

「そうかなら良かった、明日、グランモール前に昼の一時に集合だ。それじゃ、邪魔したな」

 

 表情を一つも変えずままそう言って、カイトはその部屋を後にした。

 

 ※ ※ ※

 

 一筋の光をも通さない暗い部屋で白服の男は、今まで集めてきた疑神の体の一部で何かをしていた。

 

 男は数日間の日数を掛けてあるものを完成させていた。

 

「ようやく出来た、コレが俺のゲームのラスボスだ」

 

 ロン毛の白服の男はそう言うと、閉めていた全てのカーテンを開ける。

 

 そして、窓から入ってくる無数の光が、彼の完成させたあるモノを照らす。

 

 それは両腕に大砲の疑神の大砲を持ち、頭には兎の疑神の長い耳、身体中には爆破の疑神の手榴弾、両足は兎の疑神の足を取り付けた、あらゆる疑神の特徴を複合した新たな疑神が立っていた。

 

 ※ ※ ※

 

 一方、イノリの任務を順調にこなしていた四宮は、タツキについての新たな情報を手に入れていた。

 

「これは……彼になら私たち凶人の全てを預けてもいいかもしれない」

 

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