第14話 大砲①

 壁や床が血まみれとなった一軒家にて、男は既に息絶えた様子の五人の家族らを、楽しそうに写真を撮っていた。

 

「これでよしっと。次は〜金だ! 金金」

 

 デジカメをバッグにしまうと、次は金庫のようなものへ近づく。

 

 凶人の特徴を持った男は銀の針金を用いて、金庫のロックを突破しようとする。

 

「ずいぶんとお気楽なのね貴方は。しかも自分が殺した一家の写真を撮るなんてとことん狂ってる。でも私は好き、あなたのそういう所」

 

 家の玄関から現れたアオイはそう言うと、歪んだ表情の父親と思われる人間に触る。

 

「んで、どうして凶人収容区を襲ってまで俺を出したんだ? 用件を言え」

 

 何かを企む彼女の思考を読むように言うと、アオイは頬を赤くする。

 

「あなたに力をあげるわ。だから小野寺おのでらタツキくんの養分になってほしい、ただそれだけ」

 

「何言ってんだお前」

 

 ※ ※ ※

 

「暑いなぁ、早く任務を終わらせるぞ」

 

「ふぁ、ふぁ~い」

 

 異常気象とも言えるほどの気温の中、宮崎みやざき達はある任務を受けていた。

 

「たくっ、あの依頼人、めんどうな任務

出しやがって」

 

 宮崎は不機嫌そうに、任務が依頼された時のことを思い出す。

 

 ※ ※ ※

 

 数時間前。

 

「お願いしますわァ! ワタァしの愛しの猫のマルちゃんの捜索をお願いしますわァ!」

 

 依頼部屋に響く程のどでかい声で、依頼をお願いするアクセサリーを大量に身につけた太った女性。

 

 そんな女性の対応に、少し困った表情を見せる澤木さわき

 

「分かりました、ではその……マルちゃん? の見た目を教えてください、写真があればそれを見せてください」

 

 彼女がそう言うと、女はドンッと机に、猫が写った写真を叩きつける。

 

「あ、ありがとうございます。ではこれで依頼のお話は終わりになります。

 あとは私たちGIQにお任せてください」

 

「お願いしますわァ、今日は三十度以上の気温だから助かったわァ!」

 

 と彼女は言って、扉をドンッと閉めて去って行った。

 

 澤木の後ろで一部始終を見ていたタツキと宮崎は、二人揃って言葉を並べた。

 

「「うわァ」」

 

「なんかゴメンね」

 

 ※ ※ ※

 

「おいタツキ。もうこの際だ別々で行動するぞ、良いな?」

 

「わ、分かりました」

 

 二人はそう言うと、お互い別々の方向へ散っていった。

 

 ※ ※ ※

 

 宮崎と別れ一人で行動をしていたタツキは、暗い路地裏に来ていた。

 

「流石にここには居ないかなー」

 

 猫が写った写真を持ちながら、辺りを散策するタツキ。

 

 その時だった、彼の目の前を、白と黒の水玉模様の背中をした猫が横切る。

 

 それは写真と同様の姿の猫であった。

 

「いた!!」

 

 ゴージャスな首輪を付けた猫は、タツキに対して威嚇をする。

 

 そんな威嚇に対して彼は、舌をリズム良く打ちながら接近する。

 

「怖くないよ〜、だからじっとしててね〜」

 

 ゆっくり静かに手を伸ばすと、見事に猫を抱き上げることに成功した。

 

「よぉし、捕まえた。あとは宮崎さんに報告だ」

 

 猫を抱き上げた状態で、裏路地から出た時だった。突然、真横から何かが爆発した音ともに、凄まじい爆風がタツキを襲う。

 

 瞬時に彼は薄暗い路地裏に隠れる。

 

 風が治まったのを確認したタツキが外へ出ると、そこは地獄のような光景だった。

 

 辺に立ち並んでいた建物が木っ端微塵に吹き飛んでおり、さっきま居たであろう一般人の場所には、血痕だけが残っていた。

 

 その時、街中から警報が鳴り、放送が流れた。

 

『神田市吉水町に疑神が出現しました、ただちに疑神の近くにいる人々はその場から避難してください。

 ただいま、神田市吉水町に疑神が出現しました、ただちに疑神の近くにいる人々はその場から避難してください』

 

「何が起こって……ッ!?」

 

 更地となった光景に呆然と彼が立ち尽くしていると、目の前に凶人の男が立っていた。

 

「お前が小野寺タツキだな、ある訳あってお前を半殺しに来た」

 

 そう言う男の右腕は、大砲のようなものになっており、発射口からは煙が出ていた。

 

 タツキは瞬時に彼を敵だと判断すると、両足を疑神化させ、その場から全力で逃げた。

 

 まずはこの猫をどうにかしないと!

 

「チッ、逃げんなよ」

 

 男はそう言うと、人間とは思えない程のスピードで、彼を追おうとしたその時だった。

 

「おい、そこのお前。少し俺と手合わせしてもらえないか?」

 

 突如、目の前に現れたのは、既に臨戦態勢に入っている宮崎だった。

 

「お前……失せろ、今はお前に構ってる暇はない」

 

「そうかっかするなよ、良いだろ?」

 

 そんな男の態度に、彼は不敵な笑みを浮かべる。

 

「おいタツキ! ここは俺に任せてその猫を早く本部へ届けてこい」

 

「わかりました、すぐ戻ってきます!」

 

 タツキが去るところを見届けた宮崎は、対疑神用武器である鎌を構える。

 

「久しぶりの疑神、楽しみだ。なぁお前もそう思うだろ? 鍋島なべしまジュウゾウ。お前どこから脱走しやがった?」

 

「教えるわけないだろ? アホか」

 

「そうかよ」

 

 宮崎はそう吐き捨てると、勢い良く踏み込みを入れ、相手との距離を縮める。

 

 一方、ジュウゾウは鎌を持って向かってくる彼に対して、両足を疑神化させ、高く飛び上がる。

 

 そして、高く飛び上がった彼は宮崎に向けて、かかと落としをする。

 

 が、それを見通していた宮崎は、持っていた武器で火花を散らしてガードする。

 

 技を受け止められたジュウゾウは、宮崎との間合いを取ると、器用な戦い方で一方的に攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、宮崎もそれに合わせるように、相手の猛攻を次々と受け流していく。

 

 その時だった、一瞬の宮崎の隙を見つけたジュウゾウは、彼の腹部に向けて、大砲から巨大な空気弾を発射させる。

 

 その威力は凄まじいものであり、宮崎の周りにあった物もろとも木っ端微塵に、吹き飛ばした。

 

「——ッ! ガハッ」

 

 ※ ※ ※

 

 ——ッ!? 何だ今の爆発音? 宮崎さんのいた方向……まさか!?

 

 猫をGIQ本部へ送り届けたタツキは、急いで爆発のあった方向へ向かって行った。

 

 ※ ※ ※

 

「たくっ、相変わらずだなお前のその破壊力は……」

 

 建物の残骸が広がる変わり果てた光景で、宮崎は腹部を負傷した様子で、立ち上がった。

 

「相変わらずのしぶとさだな、だがな前にお前に倒された俺じゃない。

 終わらせよう、俺たちの関係を。俺たちの過去をもろとも消し飛ばそう」

 

 信念のこもった赤黒い目を揺らすジュウゾウは、あることをする為の準備に入る。

 

「まさかお前!」

 

凶化きょうか

 

 彼がそう静かに呟くと、両腕に大砲が出現し、体にはまるで戦車のような黒い装甲を纏い、顔は両腕と同様の大砲が付いていた。

 

「死ね、宮崎テツヤ」

 

 ジュウゾウはそう言うと、辺りの風を集め、空気弾を撃つ準備に入った。

 

 宮崎はそんな危機的状況下で、無理やり負傷した体を叩き起すと、大砲の疑神との距離を縮める。

 

 すると、持っていた鎌で相手の攻撃を、停止させるために立ち回る。

 

「チッ、うぜぇなぁ!!」

 

 苛立ちを見せた宮崎は、先程までとは違う俊敏な動きで、相手に連続して攻撃を仕掛けていく。

 

 その時、宮崎は空高く飛び跳ねると、鎌を回しながら、大砲の疑神に振り下ろす。

 

 相手に向けて放った攻撃は、疑神の攻撃準備をしている右腕を、切断するほどだった。

 

「チッ」

 

 腕を失った疑神は彼から距離をとると、即座に失った体の部位を修復する。

 

 しかし、宮崎は傷を治すのに手一杯な相手に、休んでいる暇もないほどの俊敏で華麗な攻撃を、仕掛ける。

 

 迫り来る一方的な猛攻に疑神は、振り下ろされる鎌を、頬まで裂けた口で噛む。

 

 すると、一瞬だけ体を止めた宮崎の腹部を蹴り飛ばし、再び距離を取った。

 

「お前の目的はなんだ? なんで俺の仲間に手を出そうとした?」

 

 彼の問いかけにジュウゾウは、その問いに答えた。

 

「女王の思し召しだからだ」

 

「女王? 誰の事だ。

 お前は過去にアークに所属していたよな? もしかして幹部の誰かのことか?」

 

「勘のいいテメェに言えるわけないだろうが。とっとと死んでろ」

 

「——ッ!?」

 

 疑神は今までとは尋常ではないほどのスピードで、宮崎との距離を詰める。

 

 圧倒的なスピードに反応出来なかった彼の脇腹に、ジュウゾウの手刀が貫く。

 

「ガハッ」

 

 口から血を吐き、その場に蹲る《うずくま》宮崎。

 

 そんな彼に疑神は無情むじょうな表情を浮かべ、再び辺りの風を集める。

 

 その時だった。

 

「そうはさせない」

 

 突如、聞こえてきた聞き覚えのある声の主は、疑神の両腕を切り落とす。

 

「たくっ、来るのがおせぇんだよ」

 

「すいません」

 

 そこには対疑神用武器を持ったタツキが立っていた。

 

「主役の登場、てか」

 

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