第12話 パントマイム①

 タツキと四宮しみやの特訓から二週間過ぎたある日。

 

「四宮様の代理人で来ました澤木さわきチフユです」

 

 金髪の生真面目そうな女性が、メガネを光らせて言った。

 

「四宮さんの代理、て四宮さんは何してるんですか?」

 

 タツキは不思議そうな顔で言う。

 

「はい、四宮様はイノリ様からの任務を受けており、しばらく帰ってきません」

 

「任務ぅ? 任務てなんのだよ」

 

 宮崎みやざきが不機嫌そうに言うと、チフユは再びメガネを光らせる。

 

「それは秘密です。実のところ私にも分かりません。

 そして、四宮様の伝言も預かっております。

『みんなお仕事頑張ってー』だそうです」

 

 四宮の残した言葉に一同は、沈黙の空気を作った。

 

「タツキ今日は俺とパトロールをするぞ」

 

 三澤みさわはそう言うと、早速巡回の準備をし始める。

 

「分かりました」


「テツヤ! 今日は私とパトロールだよー」

 

「チッ、行くぞディザ」

 

 ※

 

「さて……そろそろ始めましょうか。お人形さんパーティを」

 

 入り組んだ骨組みの鉄塔の上にいたのは、ピンク色のワンピースを着込み、不気味に微笑むバッグを持った女だった。

 

 彼女はバッグに入った大量の人形のうち一つを持つと、それを楽しそうに引きちぎった。

 

 ちぎられた人形から滴る血、それはポタポタと地へ落ちていく。


「あら私ってダメな人ね……今度はこの子をお人形さんにしようかな。そしたら、この力をくれたあの人も喜んでくれるかしら」

 

 タツキが写った写真を持った女は言う。

 

 ※

 

 人々が行き交う東京のスクランブル交差点にて、タツキと三澤は街を巡回していた。

 

「なぁタツキ、もしお前の仲間が疑神に殺されたらどうする?」

 

 彼のその質問にタツキは困惑げになりながらも、質問に答えた。

 

「もちろん仇をとります……でもなんでそんな質問を?」

 

「いや聞いてみたかっただけだ」

 

 顔を一切見せず言う三澤に、タツキは頭を傾げる。

 

 そんな話をしながら歩いていると、タツキは不意に別の歩行者と肩をぶつける。

 

「す、すいませ——ッ!?」

 

「ところでタツキ、お前昨日さんざんディザに怒られてたけど、怖かったか?」

 

 彼はそう言って、タツキのいる方に体を向ける、そこには彼の姿はなかった。

 

「おい、タツキ?」

 

 辺りを行き帰りする人混みの中で三澤は、タツキを探す。

 

 しかし、彼の姿はどこにもなかった。

 

「ったく、アイツどこ行っちまったんだ?」

 

 焦りを見せた様子で探し回っていると、先ほどまでタツキと一緒に歩いていた交差点の真ん中で、一つの人形を見つける。

 

 それはタツキと似た様な服と見た目をした人形だった。

 

 不思議に思った彼がそれを拾おうとした時、別の方向から彼と同じ様に、手を伸ばす者がいた。

 

「アンタ何者だ」

 

 その者が漂わせる不気味な雰囲気に彼は言うと、腰に付けていた大きめのアタッシュケースを静かに取り出す。

 

「え? 別に私は何者でもありませんけど?」

 

 聞こえてきた女の声に、彼は目線を上げた。

 

「貴方こそどちらさま? 私はこのお人形さんに用があるの」

 

 そこには目に大きなクマ、彼女のぶら下げているバッグには人の様な人形があり、ニンマリと微笑む女が居た。

 

「俺はGIQの者だ、俺もこの人形に用があってな」

 

「そうGIQの人ね……なら私の敵かしら?」

 

 その不快な声に身の毛のよだった三澤は、アタッシュケースを拳銃に変え、銃口を女へ向けた。

 

「すまないが本部までご同行いただけないだろうか? なんせアンタの雰囲気が疑神と似た様なものを感じてな」

 

「なんなのその言いがかり、少し貴方、失礼じゃない? 気に食わないわ」

 

 そう言ったと同時に女は、懐からナイフを取り出し、三澤を刺そうとする。

 

 が、彼は持ち前の反射神経で、彼女の後ろに回ると、女の両手を拘束する。

 

 その時、三澤が辺りを見渡すと周りには人はいなく、野次馬が出来ていた。

 

「え、なにあれ?」

 

「GIQ隊員が女を拘束してるぞ?」

 

 周りから聞こえてくる野次馬の声を無視し、彼は女が握っていたナイフと、人形が入ったバッグを叩き落とす。

 

「ねぇ知ってる? お人形さんには魂が宿るの。そして、パントマイムをするのよ? 誰かに操られたかのように踊り狂うの」

 

「何言って——」

 

凶化きょうか

 

 女が余裕気味な様子でその言葉を発した時、彼女から豪風が吹き荒れる。

 

「コイツッ! ——おい! お前ら! 今すぐその場から離れろ!!」

 

 三澤は言うと、直ちに女から離れた。

 

 吹き荒れ続ける風は、あらゆる物を吹き飛ばす。

 

「さぁて、パントマイムの時間としましょうか」

 

 長い黒髪、キリンのような首と、五メートル程の巨体を持った疑神は、ニヤリと裂けた口の口角を上げる。

 

「疑神だと?! 凶人の特徴がない人間が何故!?」

 

 彼は拳銃をスナイパーライフルに自動変形させ、弾を装填する。すると、目の前にタツキに似た人形を見つける。

 

 仮にアイツが人形の疑神だとしたら……この人形を持っておくのは良いかもな。

 

「どうしたの? 攻撃してこないの? それなら私の方から。みんな起きなさい、私たちの敵が来たわよ」

 

 奴はそう言うと、地に散らばった人形に命令する。

 

 すると、先程まで人形だった物が人間へと変わり、まるでその人間たちは何かに操られたかのように、無差別に攻撃を始める。

 

「ふざけんな! 一旦この場を——ッ!?」

 

 彼がその場から離れようとした時だった。

 

「タツキ……お前……まさか」

 

 ユラユラとしながら立つ彼を見て、三澤は絶句した。

 

 そして、タツキは彼に向けて攻撃をする。

 

「どうしたの? 殺さないの? あぁそうだったわ、お仲間さんだったわね」

 

「テメェ!!」

 

 以前より俊敏になった彼の動きに苦戦しながらも、三澤はタツキの首筋に手刀を当て気絶させる。

 

 ※

 

 人形の疑神から逃れた三澤たちは、近くにあった自走式立体駐車場じそうしきりったいちゅうしゃじょうに隠れると、外の様子を確認した。

 

「タツキ! おい! 目を覚ませ!」

 

 タツキを揺さぶりながら言うも、彼は一切起きる気配がなかった。

 

 こうなったら……。

 

 三澤はタツキを安全な場所へ安置させ、スナイパーライフルを持ち、見渡しのいい場所へ向かって行った。

 

 ※

 

 駐車場の屋上へ来た彼は、見渡しのいい場所で銃を固定し、ライフルスコープの中央に疑神を入れ、引き金を引いた。

 

 対疑神用ライフルから放たれた弾丸は、風を切りながら、疑神の脳天へ命中した。

 

 奴はまるで機能を失ったロボットのように、動かなくなった。

 

「……ッ! クソが」

 

 何かを察知した三澤はすぐざまその場を離れ、隣のビルの屋上に飛び移った。

 

 やっぱり、疑神の弱点である心臓を狙わなきゃダメか。

 

 対疑神用ライフルの弾をリロードする。

 

 そして、再び対象の敵をスコープに入れようとした時だった。

 

「——いないッ!? まさか!」

 

 彼が急いで辺りを確認した直後だった。

 

 人形の疑神は三澤との数メートル先まで、壁を登って迫って来ていた。

 

「クソ!」

 

 急いで固定していた銃を持ち、スナイパーライフルを拳銃へ自動変形させる。

 

 銃口を人形の疑神へ向け、五発の銃弾を発砲した。

 

 が、その弾は弱点に、当たる事はなかった。

 

 三澤はそれを確認すると、すぐさまその場から離れる。相手との距離を取りながら、弾を装填する。

 

 そして、ある程度の距離を取ると、もう一度スナイパーライフルへ変形させ、隣のビルへ飛び移る。

 

 壁をよじ登って来た疑神を前に、三澤は銃を構える。

 

 無言の作業だった。

 

 スコープの中央に敵を入れ、引き金を引く。

 

 その撃ち放たれた弾丸は、見事に疑神の弱点部位へと向かって行った。

 

 その時だった。

 

「——ッ!?」

 

 突如、銃弾の通った場所に獄炎の火柱が立つ。

 

 弾は永遠の炎により燃え尽きた。

 

「ふざけんな!」

 

 紅蓮の炎の中から出てきた疑神は、三澤の前に立ちはだかった。

 

「タツキ……なのか……」

 

 突然の出来事に彼は、数秒間唖然とする。

 

 その瞬間だった、炎の疑神は凄まじい速さで三澤との距離を詰めると、業火に煮えた拳で彼へと迫り来る。

 

「しまっ——」

 

 繰り出されたタツキの拳が三澤に直撃すると、彼の体は真下にビルを貫通した。

 

 ※

 

 ビルの真下に落ちた三澤は、頭からの出血と、体に強い衝撃により吐血をしていた。

 

 たくっ、ふざけた真似を……こうなったら……。

 

 彼は朦朧とする視界の中で、もう一つの小型のアタッシュケースを出し、中から何かを取り出した。

 

 そんな事をしていると目の前には、炎の疑神が舞い降りてきていた。

 

「待ってろよタツキ。今すぐその状態から治してやるから」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る