第12話 パントマイム①
タツキと
「四宮様の代理人で来ました
金髪の生真面目そうな女性が、メガネを光らせて言った。
「四宮さんの代理、て四宮さんは何してるんですか?」
タツキは不思議そうな顔で言う。
「はい、四宮様はイノリ様からの任務を受けており、しばらく帰ってきません」
「任務ぅ? 任務てなんのだよ」
「それは秘密です。実のところ私にも分かりません。
そして、四宮様の伝言も預かっております。
『みんなお仕事頑張ってー』だそうです」
四宮の残した言葉に一同は、沈黙の空気を作った。
「タツキ今日は俺とパトロールをするぞ」
「分かりました」
「テツヤ! 今日は私とパトロールだよー」
「チッ、行くぞディザ」
※
「さて……そろそろ始めましょうか。お人形さんパーティを」
入り組んだ骨組みの鉄塔の上にいたのは、ピンク色のワンピースを着込み、不気味に微笑むバッグを持った女だった。
彼女はバッグに入った大量の人形のうち一つを持つと、それを楽しそうに引きちぎった。
ちぎられた人形から滴る血、それはポタポタと地へ落ちていく。
「あら私ってダメな人ね……今度はこの子をお人形さんにしようかな。そしたら、この力をくれたあの人も喜んでくれるかしら」
タツキが写った写真を持った女は言う。
※
人々が行き交う東京のスクランブル交差点にて、タツキと三澤は街を巡回していた。
「なぁタツキ、もしお前の仲間が疑神に殺されたらどうする?」
彼のその質問にタツキは困惑げになりながらも、質問に答えた。
「もちろん仇をとります……でもなんでそんな質問を?」
「いや聞いてみたかっただけだ」
顔を一切見せず言う三澤に、タツキは頭を傾げる。
そんな話をしながら歩いていると、タツキは不意に別の歩行者と肩をぶつける。
「す、すいませ——ッ!?」
「ところでタツキ、お前昨日さんざんディザに怒られてたけど、怖かったか?」
彼はそう言って、タツキのいる方に体を向ける、そこには彼の姿はなかった。
「おい、タツキ?」
辺りを行き帰りする人混みの中で三澤は、タツキを探す。
しかし、彼の姿はどこにもなかった。
「ったく、アイツどこ行っちまったんだ?」
焦りを見せた様子で探し回っていると、先ほどまでタツキと一緒に歩いていた交差点の真ん中で、一つの人形を見つける。
それはタツキと似た様な服と見た目をした人形だった。
不思議に思った彼がそれを拾おうとした時、別の方向から彼と同じ様に、手を伸ばす者がいた。
「アンタ何者だ」
その者が漂わせる不気味な雰囲気に彼は言うと、腰に付けていた大きめのアタッシュケースを静かに取り出す。
「え? 別に私は何者でもありませんけど?」
聞こえてきた女の声に、彼は目線を上げた。
「貴方こそどちらさま? 私はこのお人形さんに用があるの」
そこには目に大きなクマ、彼女のぶら下げているバッグには人の様な人形があり、ニンマリと微笑む女が居た。
「俺はGIQの者だ、俺もこの人形に用があってな」
「そうGIQの人ね……なら私の敵かしら?」
その不快な声に身の毛のよだった三澤は、アタッシュケースを拳銃に変え、銃口を女へ向けた。
「すまないが本部までご同行いただけないだろうか? なんせアンタの雰囲気が疑神と似た様なものを感じてな」
「なんなのその言いがかり、少し貴方、失礼じゃない? 気に食わないわ」
そう言ったと同時に女は、懐からナイフを取り出し、三澤を刺そうとする。
が、彼は持ち前の反射神経で、彼女の後ろに回ると、女の両手を拘束する。
その時、三澤が辺りを見渡すと周りには人はいなく、野次馬が出来ていた。
「え、なにあれ?」
「GIQ隊員が女を拘束してるぞ?」
周りから聞こえてくる野次馬の声を無視し、彼は女が握っていたナイフと、人形が入ったバッグを叩き落とす。
「ねぇ知ってる? お人形さんには魂が宿るの。そして、パントマイムをするのよ? 誰かに操られたかのように踊り狂うの」
「何言って——」
「
女が余裕気味な様子でその言葉を発した時、彼女から豪風が吹き荒れる。
「コイツッ! ——おい! お前ら! 今すぐその場から離れろ!!」
三澤は言うと、直ちに女から離れた。
吹き荒れ続ける風は、あらゆる物を吹き飛ばす。
「さぁて、パントマイムの時間としましょうか」
長い黒髪、キリンのような首と、五メートル程の巨体を持った疑神は、ニヤリと裂けた口の口角を上げる。
「疑神だと?! 凶人の特徴がない人間が何故!?」
彼は拳銃をスナイパーライフルに自動変形させ、弾を装填する。すると、目の前にタツキに似た人形を見つける。
仮にアイツが人形の疑神だとしたら……この人形を持っておくのは良いかもな。
「どうしたの? 攻撃してこないの? それなら私の方から。みんな起きなさい、私たちの敵が来たわよ」
奴はそう言うと、地に散らばった人形に命令する。
すると、先程まで人形だった物が人間へと変わり、まるでその人間たちは何かに操られたかのように、無差別に攻撃を始める。
「ふざけんな! 一旦この場を——ッ!?」
彼がその場から離れようとした時だった。
「タツキ……お前……まさか」
ユラユラとしながら立つ彼を見て、三澤は絶句した。
そして、タツキは彼に向けて攻撃をする。
「どうしたの? 殺さないの? あぁそうだったわ、お仲間さんだったわね」
「テメェ!!」
以前より俊敏になった彼の動きに苦戦しながらも、三澤はタツキの首筋に手刀を当て気絶させる。
※
人形の疑神から逃れた三澤たちは、近くにあった
「タツキ! おい! 目を覚ませ!」
タツキを揺さぶりながら言うも、彼は一切起きる気配がなかった。
こうなったら……。
三澤はタツキを安全な場所へ安置させ、スナイパーライフルを持ち、見渡しのいい場所へ向かって行った。
※
駐車場の屋上へ来た彼は、見渡しのいい場所で銃を固定し、ライフルスコープの中央に疑神を入れ、引き金を引いた。
対疑神用ライフルから放たれた弾丸は、風を切りながら、疑神の脳天へ命中した。
奴はまるで機能を失ったロボットのように、動かなくなった。
「……ッ! クソが」
何かを察知した三澤はすぐざまその場を離れ、隣のビルの屋上に飛び移った。
やっぱり、疑神の弱点である心臓を狙わなきゃダメか。
対疑神用ライフルの弾をリロードする。
そして、再び対象の敵をスコープに入れようとした時だった。
「——いないッ!? まさか!」
彼が急いで辺りを確認した直後だった。
人形の疑神は三澤との数メートル先まで、壁を登って迫って来ていた。
「クソ!」
急いで固定していた銃を持ち、スナイパーライフルを拳銃へ自動変形させる。
銃口を人形の疑神へ向け、五発の銃弾を発砲した。
が、その弾は弱点に、当たる事はなかった。
三澤はそれを確認すると、すぐさまその場から離れる。相手との距離を取りながら、弾を装填する。
そして、ある程度の距離を取ると、もう一度スナイパーライフルへ変形させ、隣のビルへ飛び移る。
壁をよじ登って来た疑神を前に、三澤は銃を構える。
無言の作業だった。
スコープの中央に敵を入れ、引き金を引く。
その撃ち放たれた弾丸は、見事に疑神の弱点部位へと向かって行った。
その時だった。
「——ッ!?」
突如、銃弾の通った場所に獄炎の火柱が立つ。
弾は永遠の炎により燃え尽きた。
「ふざけんな!」
紅蓮の炎の中から出てきた疑神は、三澤の前に立ちはだかった。
「タツキ……なのか……」
突然の出来事に彼は、数秒間唖然とする。
その瞬間だった、炎の疑神は凄まじい速さで三澤との距離を詰めると、業火に煮えた拳で彼へと迫り来る。
「しまっ——」
繰り出されたタツキの拳が三澤に直撃すると、彼の体は真下にビルを貫通した。
※
ビルの真下に落ちた三澤は、頭からの出血と、体に強い衝撃により吐血をしていた。
たくっ、ふざけた真似を……こうなったら……。
彼は朦朧とする視界の中で、もう一つの小型のアタッシュケースを出し、中から何かを取り出した。
そんな事をしていると目の前には、炎の疑神が舞い降りてきていた。
「待ってろよタツキ。今すぐその状態から治してやるから」
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