第11話 平和な日常

「いらっしゃいませ〜」

 

 扉に掛かった小さなベルの音が鳴る。開いたドアから現れたのは四宮の部隊だった。

 

「おぉ! ここが都内で有名のスイーツ専門店か!」

 

 赤い頬で喜ぶ様子を見せる三澤みさわ

 

「本当に三澤ミルクティーはスイーツが好きなんだね」

 

「たく、子供かよ本当にお前は」

 

 傍に来た女性店員に誘導され、四宮たちは空いた席に座る。

 

 三澤は颯爽と注文メニュー表を取る。すると、彼はメニュー表に載った美味しそうなパフェを見て、目をキラキラとさせる。

 

「好きなものを頼んでいいよ。今日は私がおごるから」

 

「本当ですか!? じゃあこの「イチゴもりもり畑パフェ」を!」

 

「ミルクティー以外は決まった?」

 

「僕は水だけで良いです」

 

「はいはい! ディザはアップルチョコパイ!」

 

「俺は……抹茶パフェで」

 

 全員の注文を聞いた四宮は、店の呼び鈴を押した。そして、彼女は駆け寄ってきた店員に、頼み物を伝えた。

 

 

 数分後、届いた注文の品を食べていた四宮達。

 

 ふと、タツキは四宮にある事を聞いた。

 

「四宮さん、こんなところでスイーツ食べてていいんですかね? 疑神に出くわした時の訓練とか、それに対疑神用武器だって、まだ使った事ないのに……」

 

「あのなぁ、そういうのは自分で練習して補うんだよ。あと今日は休暇だ、それくらい分かんねぇのかよ」

 

 宮崎みやざきは冷たくあしらう態度で言うと、机に置かれた抹茶パフェを口に頬張る。

 

 そんな彼をよそ目に四宮は、笑った表情を浮かべていた。

 

宮崎パンプキンパイは手厳しいね。でも特訓はしないとだね。そうだ! なら私と一緒に特殊な特訓をしてみるかい? タツキ《チョコミント》」

 

 彼をからかう様な顔で言った。しかし、タツキは自身がからかわれているのに気づいていない様子で、

 

「えぇ!? いいんですか!? じゃあお願いします!」

 

「チョコミント……君は鈍感なのかな?」

 

「え? 鈍感? ……——もしかして! からかってたんですか!?」

 

「気づくのが遅いな」

 

 彼の鈍感さに四宮たちは、呆れ返った様子を見せる。

 

「まぁでも特訓はしないとダメだから。今日余裕があったら一緒にしようか」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 ※

 

 スイーツを食べ終えたタツキ達は、コンビニで買ったアイスを食べながら、東京の街を歩いていた。

 

「なぁタツキお前、アイスはみんな『何でもいい』て言ったけどよ。

 みんな同じでしかも「ゲリゲリ君」て、もうちょっと他のにはできなかったのかよ」

 

 そんな愚痴をこぼす宮崎に、タツキは少し申し訳なさそうにする。

 

「す、すみません」

 

「えー? ディザはこのアイス好きなんだけどなー! テツヤには分からないかーこのおいしさが」

 

 と彼女は言うと、ヒエヒエになっているアイスにかぶりつく。

 

「パンプキンパイ、まだ君はチョコミントの入隊を認めてないのかい?」

 

「当たり前に決まってる。ガキはガキらしく学校の勉強をしとけばいいってのによォ」

 

 不貞腐れた様子の宮崎を見ていた四宮は、ディザと同じ様にアイスにかぶりついた。

 

「まぁでもタツキはいろいろと学校に行けない事情がある。それに前の任務でディザを助けてるんだ少しは認めたらどうだ?」

 

「ケッ」

 

 

「なぁタツキこれを見てくれないか!」

 

 三澤はどこか嬉しそうな表情で、タツキにアイスが無くなったアイス棒を見せる。

 

 そこには「あたり! もう一本!」と書かれていた。

 

「凄いですね! 当たりを引くなんて!」

 

「まぁな!」


 そんな話をしているとディザが、三澤とタツキの間に割り込む。

 

「えぇー、いいなぁーディザはハズレだったよぉ? ずるーい」

 

 頬を膨らませブーブーと文句を言うディザ。

 

「チッ、俺はハズレかよ」

 

「私もハズレちゃった」

 

 一方、四宮と宮崎はハズレのアイス棒を見て、少し残念そうな顔をする。

 

 タツキは辺りの反応を見ながら、アイスを食べていると、食べ終わったアイスの棒に「あたり! もう一本!」と書かれていた。

 

「あ」

 

「あぁぁぁぁ! タツキも当ててる! いいなぁいいなぁ! ディザも欲しかったなぁ」

 

 タツキの肩を揺さぶりながら言うディザに、四宮は「後でもう一個買ってあげるから」と彼女の頭を撫でながら言った。

 

「やった〜! ディザ、リーダー好きぃ!!」

 

「現金な子だね、アップルパイは」

 

 ※

 

 東京の街のパトロールを終えると、タツキと四宮は、GIQ訓練所で特訓を始めていた。

 

「プレビッシュ!!」

 

 四宮の凄まじい蹴りを顔面に受けたタツキは、後方へ大きく吹き飛んだ。

 

「受け身が全く取れてない、そんなんだったら直ぐられちゃうよ。

 あとチョコミント、君が私に攻撃を仕掛けるとき、君は攻撃に躊躇ちゅうちょしている所がある。その躊躇している物を心の中で消しなさい、そうしなければ君は相手の思うがままだ、死んでもいいの?」

 

 彼女は目付きを鋭くさせ言う。

 

「はい……分かりました。

 でも『受け身』て言っても……どうやって受け身を取れば……」

 

 顎が外れて上手く喋れない彼はそう言うと、四宮は両腕を疑神化して見せた。

 

「こうやって両腕を疑神化させて守りに入れば、銃弾とか大抵の攻撃には対応できる。

 ほらやってみて、疑神化したい部分に力を集中させる感覚で」

 

「わかりました、やってみます!」

 

 四宮に言われた通りにタツキは、両腕に力を集中させた。すると、両腕に火が灯る。

 

 火の灯った腕は徐々に炭のように黒くなると、見事に疑神化に成功した。

 

「まさか成功できるなんて……」

 

 タツキは驚きを隠せていない様子で、言った。

 

「体の一部の疑神化はエネルギー消費のコスパもいいし、体の部位によって疑神の力をそのまま使うことができる。

 例えば足だったら疑神になった時と同等の足の速さで走ることが出来る。

 不審者とか疑神に出会った時は一部分だけ疑神化させることをオススメするよ」

 

「え、じゃあ全身を疑神化することはやめた方が良いんですか?」

 

 それを聞いた四宮は、難しい顔を浮かべる。

 

「全身はまぁ最終手段だね。

 全身の疑神化のデメリットは、エネルギー消費が凄まじいほどに激しくて、解除した時は体が動かなくなるくらい重くなる。

 逆にメリットはデメリット以上に強くなれる」

 

「なるほど勉強になります」

 

 タツキはそう言うと、次に来る攻撃に向けて受け身の体勢に入った。

 

「それじゃ今度はちゃんと私の攻撃を受け止めてね? チョコミント」

 

「はい!」

 

 瞬時に繰り出される四宮の蹴り。それはスローモーションに見え、それと同時にタツキ自身もスローになり、徐々に顔面に接近してくる蹴りに直撃した。

 

「ゴレアシャ!!」

 

 ある程度の受け身をしたおかげで、先程よりかは吹き飛ばされなかった。が、再び彼の顎が外れた。

 

「あちゃー、これはまだ鍛えないとダメだね」

 

「しゅびまぜん」

 

 ある程度の特訓を済ませた二人が、次に行う訓練。それは対疑神用武器の使い方の指導だった。

 

「はいこれ訓練用の対疑神用武器」

 

 彼女からそう言われ渡された物。それは黒色のアタッシュケースだった。

 

「これが武器?」

 

「そう、そこの持ち手のところにボタンがあるから押してみて」

 

「分かりました」

 

 四宮に言われた通りに、持ち手に付いていたボタンを押す。

 

 すると、ケースの中で、何かが作動するような音が流れ始める。機械音と共にアタッシュケースは、鋭く尖った剣状の武器に変形した。

 

「すごい……凄いですね! これ!」

 

 SFチックな見た目の剣に、興奮気味のタツキ。

 

 四宮はそんな彼の様子を遠目で見ていると、彼女のポッケに入っていた携帯が鳴った。

 

「すまないチョコミント、私は少しこの場を離れるよ」

 

「は、はい分かりました」

 

 その場を去っていく四宮を見届けると、タツキは持っていた剣をまじまじと見ていた。

 

 そんな彼に怪しい影が歩み寄る。

 

「君が四宮隊にコネを使って入隊した新人くんかい?」

 

 近くから聞こえてきた声の方へ、振り向く。そこには木刀を持った見知らぬ三人組の男らが、こちらを蔑むような目つきで立っていた。

 

「だ、誰ですか」

 

「おーこれは失礼。僕は『上島かみしま隊』隊長の上島リュウセイ、四宮さんのいわゆる後輩にあたる者だよ」

 

 上島は何かを企む表情で、話を進める。

 

「一体何の用で……」

 

 不安で満ちた気持ちのままそう聞く。すると、彼は持っていた木刀を、タツキに向かって投げた。

 

「僕と対人訓練してくれないかな、君がただのコネだけで入ったんじゃないと証明するために。もちろん対人訓練はここにいる皆の前でやろう」

 

 ニヤリと口角をあげ、下見た笑顔をみせる彼に、タツキはゴクリと固唾を呑んだ。

 

 ※

 

「アイスーアイスー、リーダーから貰ったアイスー」

 

 四宮から貰ったアイスを、冷蔵庫から出そうとするディザ。

 

「アイスならタツキが食べたぞ」

 

「は?!」

 

 近くでホットコーヒーを飲んでいた三澤が言うと、ディザは驚きを隠せない表情だった。

 

「ざけんな……」

 

「?」

 

「ふざけんなぁ!」

 

 突然の彼女の大きい声に、三澤は飲んでいたコーヒーを吹き出す。

 

「ちょっとタツキを殺してくる。おい、タツキは何処にいる」

 

 憎しみに満ちた顔をしたディザに圧倒された彼は、怯えたようすでタツキの居場所を伝えた。

 

「ちょっと半殺しにしてくる」

 

「い、行ってらっしゃい……」

 

 ※

 

「おらよぉ!」

 

「グハッ」

 

 上島の攻撃をもろに食らうタツキの顔面には、無数の傷と青あざができていた。

 

「どうした? やっぱりコネだけで入ったのか!」

 

 彼はひたすらにタツキの顔面を狙う。一方的な攻撃に、避けることもままならないタツキは、ただその場で守りに徹していた。

 

「おーい! もっとだ! やれやれ! 生意気な新人をボコボコにしろ!!」

 

 周りから聞こえてくる無数の野次に答えるように、上島はより一層に攻撃を強める。

 

「おいおい! 弱すぎ! もうちょっとハリがあるヤツだと思ったけど、大したことないねぇ!」

 

 彼はそう言うと、タツキの腹部に強烈な蹴りを入れる。

 

「ガハッ」

 

 あまりの痛みに、その場でしゃがむ。

 

 それを見た上島は、ニヤリと口角を上げると、彼の顔面を蹴っ飛ばした。

 

「終わりか? コネ野郎。まぁその程度だったってことだ」

 

 そう言って、背を向け、立ち去ろうとした時、タツキは木刀を突いて、ボロボロになった体を立ち上がらせる。

 

「まだ……だ、まだ終わってない。もう一度……対戦を!」

 

「ケヒッ、いいよ。こんどは死ぬかもねぇ?」

 

 彼の方へ振り向き、せせら笑いをしながら言うと、お互いは木刀を構えた。

 

「これはこれはマズイことにぃ!」

 

 アイスを食われた恨みで来ていたディザは、焦りを見せたようすで、どこかへ去って行った。

 

 ※

 

 優雅な空気、落ち着いた環境、その環境下で入れたばかりのホットコーヒーを飲む三澤。

 

「はぁ〜、この静かな空気で飲むコーヒーは最高だ」

 

 彼が次にコーヒーをすすった時だった。

 

「大変だぁ!!!」

 

「ブフー!!」

 

 大急ぎて来たディザに驚いた三澤は、飲んでいたものを吹き出す。

 

「なんだよ! いきなり!」

 

 息を荒くしているディザにそう言うと、彼女は急いでここに来た理由わけを言った。

 

「なに? タツキが一方的に?」

 

「うんうん! タツキが上島隊の上島にボコボコにやられてるんだよ! 早く止めに入らないと!」

 

「たくっ、上島のやつ……ふざけたマネを」

 

 ※

 

「うおおおおぉ!」

 

 タツキは勢い良く踏み込み、相手の背後へ回ると、刀を上島へ振り下ろした。

 

「どんな攻撃をしようとしたって僕には勝てないよ!」

 

 彼は迫り来る斬撃を木刀でガードする。

 

「クッ」

 

「所詮この程度! コネで入ったヤツに僕が負けるわけないだろ!」

 

 連続して繰り出される攻撃。

 

 しかし、その時、タツキは少しながら、相手の動きを見極め、攻撃を受け流していった。

 

「おい! どうした? 攻撃が当たってないぞー?」

 

 野次馬の中にいた一人の人間が言うと、辺にいた人らもそれに同調するように、同じような事を言い始める。

 

「クソッ、黙れ! 野次馬ども! ——ッ?!」

 

 一瞬の隙を見つけたタツキは、再び相手の背後に入った。

 

「またその攻撃か? 当たるわけないだろ」

 

 彼は背に回ったタツキに、刀を振るう。が、彼は攻撃があたる寸前で横に避ける。

 

 そして、相手の死角に入ったタツキは、木刀を彼の手元に振り下ろす。

 

「ッ!?」

 

 が、上島は彼の攻撃を刀で受け流すと、カウンターを仕掛け、タツキの握っていた木刀を弾き飛ばした。

 

「惜しかったね、僕の勝ちだ!」

 

 彼はそう言うと、何も出来なくなったタツキ目掛けて、木刀を振るおうとしたその時だった。

 

「おい、上島ぁ。テメェ俺の仲間に何しようとした?」

 

 忽然と二人の間に入っていた男は、氷のような冷たい視線を上島へ向ける。

 

「宮崎先輩……」

 

「宮崎……さん」

 

「いいかテメェら、訓練てのは見せもんじゃねぇぞ? 訓練てのは己自身と相手自身を強くするモンだ。それが分かったヤツらはずらかれ」

 

 彼の威嚇に近い態度は、辺にいた人間を恐怖させるものだった。その様子に怯えた野次馬は、自分たちの持ち場に戻っていった。

 

「なぁ上島、コイツは腐っても俺の仲間だ。これ以上こいつにダル絡みすんなら……分かるよなぁ?」

 

「ヒィッ、わ、分かりました……」

 

 宮崎の圧に圧倒された上島は、逃げるようにその場から去る。すると、その周りにいた取り巻き達も、この場から逃げる様に立ち去った。

 

「たくっ。おい大丈夫かよ。立てるか? 立てねぇなら肩貸してやるよ」

 

「い、いえ大丈夫です」

 

 土で汚れた隊員服をはたきながら立ち上がる。

 

「お前もあんま調子にのんな」

 

「は、はい」

 

 宮崎と共にその場を去ろうとした時、遠くの方からディザと三澤が駆け寄ってくる。

 

「タツキー! 大丈夫かぁ!?」

 

 彼女は心配した様子で言うと、タツキに抱きつく。

 

「う、うわぁぁぁ!」

 

 ディザのあまりの行動に驚きを隠せないタツキ。

 

「お前ボロボロじゃねぇか。顔面アザだらけ、鼻血も出しやがって」

 

「す、すみません」

 

「ま、これ以上の傷を作らなくて安心だ」

 

「まぁな」

 

 三澤の言葉に同調するように宮崎は、そう言った。

 

「どうしたの? 全員揃って……あれ? チョコミントその傷どうしたの?」

 

 用を済ませてきた四宮がそう言うと、ディザは一件の経緯を話した。

 

「なるほどねぇー。たしかに周りから嫉妬されるのも仕方ない事だね。

 下っ端の隊員てものは沢山の努力を育んで、やっと上の部隊に入ることが出来たりするから、いきなり入隊した人間が努力もせず上の部隊に入ることは、普通はご法度なんだよ」

 

「な、なるほど……」

 

「まぁでも、君が骨折とかしなくて良かったよ。私はそれだけで安心だ」

 

 四宮はそう言って、タツキの頭を軽く撫でた。

 

「んじゃ帰ろっか」

 

「タツキー! ディザあとで君に用があるから!」

 

 不敵な笑みを浮かべるディザにタツキは、不穏の空気を感じとった。


 ※

 

 薄暗い暗室で四宮を呼び出したイノリは、彼女にある任務を命じた。

 

「四宮くん、君だけに任務を言い渡す」

 

「どういう任務ですか?」

 

「小野寺タツキの素性について調べてくれ」

 

「チョコミントの素性ですか……どうして素性を?」

 

 彼女の質問にイノリは、目付きを鋭くさせる。

 

小野寺おのでらタツキの母親、小野寺ミユはウチの組織の研究員であることが分かった。だが、父親の方は革命戦争時に起きた凶人脱走の件で既に死亡している……。

 しかし、不思議なことに彼の両親の素性のことは分かっていても、小野寺タツキ自身の素性だけがわからない状況なんだ。

 だから彼の素性調べを君に頼みたい、てわけだ。私自身も忙しくてね」

 

「なるほど分かりました」

 

「頼んだよ四宮くん」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る