第6話 GIQ②
「紹介するよ、彼女は
まぁ、私の部下の中で五本指に入る程の優秀な人間だよ」
「イノリ先生、この子が例の[特殊な疑神]でいいんですね」
彼女がそう言いながら、タツキの元へ歩み寄ったその時だった。
四宮は彼の額に鼻を近ずけ、匂いをかぐような仕草をする。
「あ、ウワッ!」
「チョコミントみたいな匂いがする。次から君のあだ名は[チョコミント]だ。良いね? チョコミント」
「はい?!」
突然の発言に、困惑を隠しきれないタツキ。
そんな彼を置いて、次々と話を進める四宮は、何かを言おうと口を開く。
「あ、そうそう言い忘れてたことだけど。私、一応凶人だから。そこら辺のクソ人間みたいに差別したりしないから安心して」
片目を覆っていた眼帯を外した彼女の目は、たしかに凶人の特徴とも言える赤黒い目をしていた。
「イノリ先生、チョコミントは一週間後には退院出来るんですよね?」
四宮の質問にイノリは「そうだよ」と回答する。
「じゃあ、チョコミントは退院したらGIQのここに来て。そこに私が指揮してる部隊があるから」
そう言って、はち切れそうな胸ポケットから、その部隊がいる場所、集合時間が明記された紙を手渡す。
「最後にチョコミントにコレを」,
そう言うと、タツキにGIQの制服が入った袋を渡した。
「それではイノリ先生、私はこれから任務が入っているので」
四宮はそう言葉を残し、その場から立ち去った。
「それじゃ、私達もここでおいたましようか」
「そうですね、先生」
二人は病室の扉の前まで行くと、イノリは何かを思い出したかのように、タツキの方へ振り向く。
「あ、言い忘れてたけど、カオルくんは生きてるから。それじゃ! バイバイ!」
イノリはそう言うと、カイトと共に病室を後にした。
「良かったぁ」
そう口走ると、ホッと胸を撫で下ろした。
……GIQて、どこにあるんだ?
※ ※ ※
タツキの病室を出たカイトとイノリは、病院の受付口まで足を進めていた。
「あれ? カイトくんとイノリさんじゃないですか」
後方から聞こえてきた聞き覚えのある声。
不意に彼女らは声のした方へ視線を向けると、そこには、一本の松葉杖を突いた、患者服を着用したカオルが居た。
「おぉ、カオルくんか。酷い傷だねぇ」
そう言って、負傷した彼の周りを観察するイノリ。
「それにしても、君ほどの人間がここまでの大怪我をするのは初めて見たよ」
「少し油断しちゃって」
彼は照れ笑いをして言うと、自然とカイトの方へ視線を向ける。
「少し大きくなった? カイトくん」
どこか嬉しそうな表情で松葉杖を突いて、彼の元へ近づく。
「そんなに大きくなってませんよ。カオルさんがGIQやめたの三ヶ月前じゃないですか」
カイトが少し素っ気ない態度で答えると、彼はその様子を見てか、クスッと笑う。
「アハハ、そうだったね! ごめんね二人とも時間使わせちゃって、僕はこれでおじゃまするよ」
笑顔のままその場を去ろうとする彼に、イノリは少し期待する様な表情でカオルに言った。
「カオルくん、私たちGIQは君が戻ってくる事を待っているよ」
その言葉を聞いた時、彼は表情を変えずまま、こう答えた。
「そんなに期待しとかない方が良いですよ」
その答えを聞いてか、イノリは納得した顔を浮かべる。
「帰るとしますか」
「はい」
※ ※ ※
イノリ達との面会を終えて数日。
退院に至るまで回復したタツキが次に訪れた場所は、GIQ組織の本部だった。
ここがGIQ本部、すごい存在感だ……でも良かったぁ、隣の病室がカオルさんで。
組織の制服を着て、カオルに手渡されたであろう、GIQ組織の行き道が示された手書きの紙を持ったタツキは、その場で安堵した。
「お、来たようだね。無駄な心配が省けたよ」
本部の入口前でタツキを待っていた四宮はそう言うと、早速と言わんばかりに彼を、自身の指揮する部隊の元へ誘導する。
※ ※ ※
徐々に上へ上へと登るエレベーターの中で、四宮はタツキに背を向けた状態で一つの質問をした。
「チョコミント、君はGIQの組織がどういった活動をしてるのか知ってるかい?」
「……治安の管理とかですかね?」
「まぁ、それもあるけど。一番は疑神駆除だね、それ以外で言うと凶人収容区の管理、そして、君が言った治安の管理、あと、お悩み相談、これらが私達の大まかな仕事」
彼女の話が終わると同時に、エレベーターの動きが止まる。
すると、指定していた階への扉が開いた。
「行くよ」
「は、はい!」
※ ※ ※
裏山事件の件での騒動が、ある程度落ち着いた頃。
タツキが通っていた学校は、約二週間の休校を明け、新たな学校生活を進めていた。
「はいは〜い、みんな席に座ってー」
教室の戸が開き、担任の先生と共に現れた男女の三人組。
その三人の存在に、一斉に自分の席に着いた生徒らは、ざわめき出す。
「はーい、みんな静かにねー。今からうちの学校に転校してきた新しいクラスメイトを紹介します。
では自己紹介をお願いします」
女教師がそう言うと、自己紹介の邪魔にならないように、後ろに後ずさる。
「今月、この高校に転校してきた青山カイトです。よろしくお願いします」
「えーっと、横と同じで!
「ふ、ふ、ふ! 私の名は! カタリナ・グライアス! 我がグライアス家の! ——」
「はい、三人共自己紹介ありがとうね。皆も新しく入るチームメイトと仲良くお願いします……それでは、三人は後ろの方の空いている席に座ってください」
教師は後方に用意された空席を指した。
すると、カイト達は、周りの視線を掻い潜り、空席に座った。
その後、生徒らは一日の日程を伝えられると、ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴る。
チャイムが鳴り終わった頃には、クラスの生徒達は一斉にカイト達のいる席へ集まった。
虫のように群がって来る生徒を華麗に回避したカイトは、質問攻めにされているリュウの元へ歩み寄る。
「カイトさぁーん! 俺! 女子の連絡先もうGETしたッスよ!!」
カイトの気配に気づいた彼は、満足気な表情で連絡先が映ったスマホ画面を見せる。
「そうか……カタリナは?」
その問いを聞かれたリュウは、目だけをある場所に向ける。
視線を向けた先にあったものは、周りの男子数人からリュウと同じ様に、質問攻めにされているカタリナが居た。
※ ※ ※
「ねぇねぇ! さっきの変な自己紹介なに? どこかの有名人の挨拶の真似?」
カタリナの自己紹介について、質問をする男子。
「さっきの? あれはなぁ? グライアス家伝統の挨拶——」
彼女がそう言って、質問に答えようとした時、それを遮るかのように、別の人からの質問が次々と飛んで来る。
「あ、えっとそれは……ね」
アタフタしながら焦るカタリナは、不意にカイト達の存在に気づく。
すると、彼女は彼らにジェスチャーで助けを求め始めた。
そんな様子に見呆れたリュウが、カタリナの元へ助けに行こうとした瞬間。
ある一人の異彩を放つ者が、彼女のもとへ歩み寄る。
カタリナの周りに集まっていた生徒たちは、その者に道を譲るように道を開ける。
「初めまして!」
新入生以外が聞いた事のあるであろう美声と、そのオーラは男女関係なく視線を集める。
突如、彼女の元に現れた者は、親しげな表情を浮かべ、カタリナに手を差し伸べていた。
そして、
「私の名前は
※ ※ ※
GIQの本拠地へ赴いたタツキ、彼は四宮の指揮する部隊が居る部屋の前に立っていた。
「みんな〜、新人が入ってきたからこっちに来て〜——て言っても今、会議中かな?」
四宮は扉を開けてそう言うと、羽織っていた赤い軍服を、玄関に置いてあるハンガーに掛ける。
「リーダー! おかえり!」
そう言って彼女の胸元に駆け寄ってくる、凶人の特徴を持った、青髪のタツキと同い年くらいの女の子。
「ただいまアップルパイ、元気にしてた?」
四宮は優しく対応をすると、それに不満を持ったのか彼女は、少し呆れた表情をする。
「リーダ〜、アップルパイじゃなくて[ディザ]て呼んでよォー。ディザは私の名前なんだよ〜?」
その様子に四宮は、まるで母親の様に優しく「ごめんごめん」と言って、ディザの頭を撫でる。
「皆は?」
「いつもの場所で会議してるよ! ディザはサボりだけど! ニシシ!」
彼女がそう答えると、四宮はタツキの方に振り向き「紹介するよ、私の家族を」と言って、彼を誘導する。
誘導され辿り着いた場所は、部隊の会議室だった。
「皆〜、会議のところ悪いけど、ちょっと会議を止めて私の話を聞いてくれない?」
四宮のその声に、会議室にいた人達は話を止めた。
「私の指揮する部隊に新たな隊員が加わることになりました。チョコミント自己紹介を」
「は、はい! ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます