第10話 求めあう二人

「明日、家に帰ろうと思う」


 お風呂から上がって、私はお姉ちゃんの長い髪の毛をドライヤーで乾かしていた。銀色の髪の毛は梳くたびにキラキラと輝いている。


「……本当に良いの?」


 鏡越しのお姉ちゃんは不安そうだ。


「大丈夫だよ。お姉ちゃんと二人で家出して、分かったことがあるんだ。やっぱり、自分に正直でいることが一番大切なんだよ。その上でどうやってお母さんとお父さんを、みんなを幸せにするか。私自身が幸せになるか」


 私は笑顔で、お姉ちゃんの頭を撫でる。


「そこが一番重要だと思う。できるか分からないけどね」

「……そっか」

「難しいかもしれない。でも私はもう自分を騙さない。誰も犠牲にしないよ。お姉ちゃん、こんなにも私のこと大切に思ってくれてるから」


 お姉ちゃんは切なげな笑顔で、鏡越しに私をみつめた。


「分かった。お姉ちゃんにできることなら、何でも言ってね」


 悩みを乗り越えれば、もしかするとイマジナリーフレンドであるお姉ちゃんは消えてしまうのかもしれない。悩みがないのなら、脳内に理想のお姉ちゃんを作り出す必要もなくなってしまうのだから。


 もしもそうなら、私はどうすればいいのだろう。またうつむくと、お姉ちゃんは突然振り返って、私を抱きしめた。


「お姉ちゃんは大丈夫。瑞希が幸せなら、お姉ちゃん幸せだから」


 目頭が熱くなる。私をこんなに思ってくれる人は、生まれて初めてだった。お姉ちゃんと一緒にいられるのなら、ずっと悩んでいたって良い。けれどお姉ちゃんは大切な人だ。そんな人が私の幸せを祈ってくれている。


 純粋なその願いを踏みにじりたくなんてない。


 例え、別れてしまうのだとしても。


 もちろん黙ってお姉ちゃんと別れるつもりはない。もしも本当に消えてしまうのなら、最後まで消えずに済む手段を探すつもりだ。でもそれでもだめなら、その時は……。


「お姉ちゃん。私、後悔とか残したくないんだ。だからお姉ちゃんと一緒にできることは、なんだってしたい。……お姉ちゃんにも後悔して欲しくないんだ。その、ここってラブホテルだから……」


 キスを落とすとお姉ちゃんは顔を真っ赤にした。


「そ、それってつまり……」

「か、髪の毛乾かしたら、その、ベッド、行かない?」


 顔を熱くしながら、お姉ちゃんをみつめる。するとお姉ちゃんは壊れたブリキのロボットみたいにぎくしゃくと頷いた。そしてうるうるした青い瞳で、私を見上げてくる。


 本当にお姉ちゃんは可愛い。たくさん愛してあげたいなって思うのだ。


 しばらくドライヤーをあてていると、お姉ちゃんの銀色の髪の毛はすっかりサラサラになった。それを撫でながら、私は微笑む。


「ベッド行こう?」


 お姉ちゃんは恥ずかしそうにしていたけれど、私の手を取ったかと思えば「お姉ちゃんだから」とささやいて、私をベッドまでエスコートしてくれた。


 私とお姉ちゃんは二人ともバスローブ姿だ。柔らかいベッドに腰を掛けると、これからすることが急に現実味を帯びてきて、経験したことのないくらい胸が騒がしくなる。

 

 ……だけど、女の子同士ってどうすればいいんだろう?


 お姉ちゃんは私が持ってる知識しか持ってないだろうし、私自身、性的なことには疎い。気持ちいいってことは、知ってるんだけど。


 いや、それよりもそもそもこの緊張した空気。身動きもできないような硬い空気をどうやって動かしたものか。私もお姉ちゃんもすっかり緊張して石像みたいになってしまっている。


「……」

「……」


 ちらりと横顔をみると、思わず見惚れてしまう。これがEラインってやつ? 美容に力を入れてるタイプのクラスメイトたちがよく話してたっけ。彼女たちが言うには私にもあるらしいけれど、お姉ちゃんほど綺麗じゃないと思う。


 何気なく時計を見ると、もう夜の十時だった。今日は色々なことがあったから、疲れてしまっている。けれど眠るわけにはいかない。


 そろそろ覚悟を決めなければならない。そう思って、私はお姉ちゃんのくびれた腰に腕を回した。それとほとんど同時に、お姉ちゃんも私の腰に腕を回してくる。


 その瞬間、ぴたり、と目が合った。体の中でなにかぷつりと切れるような音が聞こえた。私は本能のまま、荒々しくお姉ちゃんに口づけをする。お姉ちゃんもとろんとした瞳で私をみつめて舌を絡ませてくる。


 そこからはもう、勢いのままだった。


 粘液の交じり合う音を立てながら、お互いのバスローブに手をかけ、肌を露わにしていく。快楽を感じていくうちに、下半身をねっとりとした液体がこぼれていくのを感じた。


 キスだけではもどかしくて、気付けば私はお姉ちゃんの手を、自分の大切な場所に触れさせていた。そして片方の手で自分の小ぶりな胸に触れる。すっかり固くなった先端をはじくと、電流のような快楽が背筋を走っていく。


「……瑞希」


 そんな私をお姉ちゃんはうっとりとした表情でみつめていた。かと思うとお姉ちゃんもまた、自分の胸を揉んだり、先端の可愛いピンク色を指先ではじき始めた。


 頭の中はお姉ちゃんでいっぱいだった。私も自分の手をお姉ちゃんの大切な場所に伸ばして、優しく撫でてあげる。


 普段はありえない行動なのに、興奮のあまりお互いにおかしくなっているのだ。自覚はあるのに、決して止められない。タガが外れたようにお互いを求め合う。


「ん……っ。瑞希っ……」


 艶っぽい声をお姉ちゃんが漏らすたび、私は理性のない獣に近づいていた。羞恥心や常識。あらゆる枷が外され地面へと音を立てて落ちていくのだ。


 お姉ちゃんの指が敏感な場所に触れるたび、体が痙攣する。我慢しようと思えば我慢できるのだろう。でも、今はそんな選択はあり得なかった。かき回されるたびに、湿っぽい音がお互いの大切な場所から聞こえてくるのだ。おかしくなってしまいそうな快楽に、私たちは溺れていた。

 

 でもどうやら、お姉ちゃんも限界が近づいてきているようで、私が指の動きを激しくすると、魚みたいに全身を跳ねさせた。私の体も、もはや制御は効かなかった。お姉ちゃんの指が気持ちいい場所にあたるように自然と腰をうねらせてしまうのだ。


 やがてお姉ちゃんはコツを掴んだのか、私の気持ちいい場所ばかり触れてくれるようになった。私もなんとなくその場所を探しあて、お姉ちゃんを刺激してあげる。それからはもう、あっという間だった。


「お姉ちゃんっ……!」

「瑞希っ……!」


 私たちはほとんど同時に果てた。そのまま仰向けに倒れて、荒い息でベッドの上で、抱きしめ合う。目が合うとまたすぐに、唇を重ね合わせた。長い銀色のまつげが眼前で揺れている。目を閉じて、私のことを必死で求めてくれている。


 そのことが本当に嬉しいのだ。


「お姉ちゃんっ。好き。大好きっ」

「お姉ちゃんもだよっ。大好きっ」


 私たちは恍惚とした喘ぎ声を漏らしながら、お互いの大切な場所に手を伸ばす。いつになれば終わりが来るのか分からない快楽の波が、また押し寄せた。

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