第6話 《初めに》
私は「この謎が解ける」と言った。
そうすることが手っ取り早くて、最早趣味にもなっている人間観察も出来、泣いているという例の成人男性のことも恐らく解決できると踏んでの提案だ。土足で踏み入るには丁度いいとも思える。
「えっ? 解くって、そんなことできるの?」
意外にも、真っ先に反応を示したのは西奈さんだった。
「もしかして噛井さんのご両親って探偵か何か?」
続いて興味深そうに聞いてくるのは中森さんで。
「ゆうさんってそんなにいろいろ出来るんだねー」
と、意外にも少し遅れて
「これくらいは哲学の応用だよ、慣れれば誰だってできるんだよ」
私は
「私が探偵になれるか知らないけど、謎を解決することはできると思うよ」
と付け加え、黒板に書いてある水曜日といつ記号を眺めながら、現段階で考えられることと取るべき行動を思案しようとしたとき。
「すごい! やっぱり噛井さんは私たちとは次元が違うと思ってた!」
中森さんがはしゃぎ出す。
「勝手に複数形にしないでよ、私もそれくらいできるわ!」
続いて西奈さんが去勢を張り出す。
「2人とも憂ちゃんが好きだからって困らせちゃダメだよー」
今度は千景さんまでもが話に乗っかっていく。
「誰がa…」
「うるさい!!!」
つい…、西奈さんが千景さんに反発するのをかき消して叫んでしまった。
「……………」
その瞬間から、私や3人を始めとしたクラス中が静まり返る。
「ごめん、気にしないで!」
私はクラスメイトたちに大声で静観をうながす。
「…ごめんね、ちょっと嫌なこと思い出しちゃって、…関係ないことだから気にしないで?」
私は間を置かずに3人にも小声で声をかける。そしたらすぐに千景さんは。
「悩み事があるなら聞くよ、内々にしたかったらそうするし」
と言ってくれて。
「ありがとう、みんなには絶対話す」
と言って、その途端から4人の間に笑顔が溢れる。不思議と、誰からともなくといった具合に。
「へへへ」
そうやって笑う中森さんは、私にも愛でたたいと思える可愛さがあった。
その後、昼休憩や何度かの放課の際に、和気藹々としながら作戦を練った。和気藹々としながら会議をまとめることができるなんて、つくづく私の性根の悪さが羨ましい。
きっと、3人は近所の肝試しくらいの感覚しかないのだろう。けれど私は本気で作戦を練っていた。
今は放課後直前の『終わりの挨拶』だ。このネーミングセンスは絶望的だろ考えたやつ誰だよ。名も知らぬ誰かは名も知らぬ誰かが考えたネーミングで苦しむ、名も知らぬ私たちの気持ちを考えたこともないだろ。
あぁ話しを戻そう。戦場に置いて、有能な働き者は後衛に送れ無能な働き者は殺せと言われているだろう? でも、ここは戦場ではないし彼女らはそこまでの無能ではない。まがりなりにも私立でお嬢様学校の人間だ。そんな彼女らの
私は
今回の謎解きは持久戦、私の策を遂行させる為には少数精鋭でなくてはいけない。そこで3人での行動が必要とされる、そのメンバーには私の存在が必須であることからして、必然的に『
順番はこうだ。1日目、
私の策は今日からで、決まって7時から現れるという黒服の成人男性というのを、今日は目撃することが第一目標になってくる。これから私たちは各自帰宅して課題などして時間を潰し、6時30分頃学校近くの公園『
私が帰宅すると時刻は4時半を回っていて、私は1時間で課題を終わらせる。この短時間で終えられたのはひとえに、父のお節介で雇われた可哀想な家庭教師さんの賜物と言える。感謝はしている。
その後の1時間をどう過ごしたか、あまり覚えていない。寝ていたような気もするし、なにかをしていたような気もする。要するに忘れたということだ。
集合場所である『北白団地公園』に5分前に到着すると、私は公園を囲んで反り立つ団地の
「百合の咲く そんな季節に 春うらら 友と集まる 北白公園」
もっとも、ここでいう「友」の中に千景さんは入っていないのだ。なんちゃって。
「あっ、早いね〜〜〜」
そうして少しの暇つぶしをしている間に、中森さんの声が聞こえてきた。
「さすが計画的行動には性がでますねぇ〜」
見ると、その隣りには軽口を叩いている西奈さんがいる。
「それ、皮肉みたいに言ってるけどただの褒め言葉だからー」
私も軽口を叩き返して、公園の入り口で合流する。中森さんが言う。
「なんか緊張するね」
軽口の
「うそ、緊張してる時の笑いかたじゃないよ」
私が中森さんに指摘して。
「そういうこと言うとモテないよ」
西奈さんが横から刺して。
「女にモテても仕方ないよ」
私が言い返して。
「意外と女の子同士って良いらしいよ?」
西奈さんが言う。それは中森さんとのことか!?
「っ、なにが?」
私がまた言い返したら。
「…………」
ここに居たら綺麗にオチをつけてくれるハズの人物がここにいなかった。
「私たちって、なんでこんな速く仲良くなったんだっけ?」
西奈さんが言って。
「そうだね、寂しいね」
中森さんが西奈さんに並んで。
「千景さん、今ごろ風呂かなぁ」
私は日の沈んだ夕焼けの空を多いで言った。なんでこんな速く仲良くなったかって、それが
「…そうかもねー」
西奈さんも乗っかってくれた。
そこで私が携帯を見ると。
「もうそろそろ行こっか」
中森さんが口火を切った。
「中森さんは察しがいいんだね」
私は6時24分という、液晶に映る数字から顔を上げながら言う。
「え、そうかな、そうでもないと思うよ?」
察してくれたのであろう中森さんはなぜか、察しが良いと言われてうろたえる。
「あっ、あおちゃんは天然の時計を持ってるんだよ」
西奈さんの言葉に私は首を傾げていると。
「天然いうなー」
と中森さんが反発する。たぶん、内輪ネタなのだと思う。
「天然の時計って?」
私はそのネタを知らなかったので聞くことにした。そしたら西奈はクシャッと笑って。
「腹時計っ!」
聞いて私は、なるほどと頷く。
「要するに、中森さんが天然だから危険や自然現象に敏感で、だからこそ腹時計が正確だってことか。天然だから」
私も語尾でからかってみた。
「す〜、そっ!」
中森さんの肩に手を回して西奈は絡むような姿勢になって意気揚々とピースする。
「だから天然っていうな〜!」
言いながらも、中森さんは笑っていた。
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