第2話 《ポジティブマシーン副会長 前編》

そんな風に、私ごときに話しかける陽キャ女子こと生徒会長。私は会話を放棄して逃げることにだけ、頭をフル回転させていた。

「…ど、どうも噛井かみいです。この度は縁あって貴校へ…じゃなく本校に転入させて頂けることになりました。これからよろしくお願いします!」

言って私は頭を下げる。最低限の第一印象は確保したはずだ。そう判断し次のフェイズに頭の中の作戦を次の段階に進める。

「こちらこそよろしくねっ!」

そう言って生徒会長も頭を下げる。語尾に小さい『つ』を入れるとはなかなかコミュ力あるじゃないかと思った。それに感覚的だけど爽やかな笑顔が似合う顔をしている綺麗な人だという印象だったしお辞儀じぎも綺麗だった。こういう人が生徒会長をやるんだなと、私は私の未熟さに胸を痛めた。

「緊張してる? よく友達に「拝みたくなる」って言われるんだけど、私は全然そんな高尚こうしょうな人間じゃないから緊張しなくて大丈夫だよ! ホントは生徒会って立場がなかったら敬語だって使ってもらいたくないくらいだよ」

おうおう、文字数にして100文字に達する文章を全く長く感じさせずスッキリと発音できるのか、これは将来有望だと思った半面で話していく中で自分自身への虚栄心が育っていく気がした。

「アハハぁ…」

私は愛想笑いをしながら、視線を左下に落とす。きっと疲れた顔をしていたと思う。

「ではこれで、ホームルームあるので失礼します」

言って私は学校指定のカバンを抱き上げると、短い会釈をして右側から生徒会長の横を抜けようとする。しかしすれ違う直前肩に手を置かれた。

瞬間、私は神経締めを行われた鯛のようにビクンッと全身が跳ねる。あぁ…、こういう時は決まって何か詭弁きべんを言われるのだ。

「ホームルームまではまだ15分あるよ、私はさんと仲良くなりたい」

後になって考えてみれば、その声はとても柔らかかったように思う。けれどその時の私が考えてしまったのは『下の名前は教えていない、つまりプロフィールで名前を知った→家族構成や親の仕事を知っている→姉のことも知っている』この人もまた、つけ込む人だ…と私は思ってしまった。

私はそのセリフを聞いた次の瞬間には、その手をはたき落としていたし。

「触らないで下さい!!」

そして叫んでいた。

気づいた時には周囲の注目が私に向けられていて、見ると生徒会長はあわれむような震える眼で私を見ている。この状況でその瞳は…あぁこの人はホント良い人なんだと思った。そう思えばこそ私は居た堪れない気持ちになって、校舎へ走り出した。


私が青春を楽しめない理由、実はもう1つあるのだ。

噛井憂かみいゆうは2年前、姉の噛井緋衷かみいひろを交通事故で亡くしている。

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