未熟で不似合いなふたり

彩芽綾眼:さいのめ あやめ

第1話 《変人と変態・出会い》

 私の名前は「噛井憂かみいゆう」16歳。人の感情は色褪いろあせるものだと思う。

「人に完璧はない」この言葉が座右の銘で、コレを心情に生きているごく一般的な哲学女子だ。もっとも、一般的に哲学女子という属性があるかどうかは知らない。


 そんな変人は今何をしているかというと、只今初登校の最中。私はこの夏から…この初夏から『私立一橋女学院しりつひとつばしじょがくいん』に2年から転校することになったのだ。

 転校生で初日の登校中というとよく、少女漫画などでは食パンを咥えて道路の角でゴッツンコとあるだろう? あれは期待していない。第一、私が今口に含んでいるのはのど飴だ。これでは乙女チックな展開など期待しようもないだろう。せいぜい転んだ勢いで喉に詰まらせてあの世行きだ。『つじはあの世との境目さかいめ』とはよく言ったものだと思う。

 私は前の学校に通っていた時と何も変わらない。いつもの私…いつもの心情。

 私にはもう1つ、乙女チックな展開を想定できない理由があったのを今思い出した。

 両親は離婚したのだ。なんということはない、遅すぎる時期の性格の不一致の判明。どこにでもある離婚理由、私はこれを無責任と思うことはあっても糾弾きゅうだんする気力などない。だからこそ私は青春から遠い位置にいると言えるのだ。


 そして今年の春の末に父に連れられ父の実家のある街に引っ越してきた。離婚したとはいえ私を引き取った父はそれなりの資産家で良い学校に入れてくれたというわけだ。


 哲学をしながら歩く通学路、まだ慣れない道を歩きながらも哲学をする頭は揺るがない。初夏の涼しい風が頬を伝うのも、楽しむ余裕があった。

「初夏に来て 風伝う頬に 揺らぐなみだ

 俳句にしたならば、きっとこんな心境なのだろう。ここで私は一橋女学院の生徒が多く登校している大通りに入る。そこに広がるのはさながら軍国主義の煽りを受けて服装を統一し校則というかせによって化粧すら禁止されている可哀想な『多数派マジョリティ集団』の和気藹々わきあいあいと談笑に老ける、眩しい光景だった。

「私はこうは成れないな」

 私はまた一人言を漏らす。

 私は『少数派マイノリティ』を気取りながらも、その他大勢の生徒によって作られた人の波に乗って登校を続ける。


 マジョリティ集団のウチ同じ2年生を視観しかんしてみれば、グループが出来上がっているのが分かる。女学院と言うだけあって女子校であり、今まさに視観しているグループも女子の集団であり、その様子ははなと呼ぶに値するほど可愛らしく見える。そんなグループが多少のバラつきがありながらも列を成して登校していく様は、さながら花畑と言えるのではないだろうか?

「んなわけあるかよ」

 また一人言を漏らしてしまった。私の悪いクセだ。


 そんなことやらなんやら紆余曲折うよきょくせつ、テキトーである程度ネガティブな思考を繰り広げながら、ついに学園の敷居を跨ぐ。

 これから始まる青春に胸を踊らせるようなことはなく、これから始まる青い春を『ブルーな気分』で迎えるのだ。

「誰が上手いこと言えと」

 そう一人言を呟きながらも、正門から校舎を見上げる。この景色を一言で表現するならば、雄大という賛美さんびの言葉を贈ることが的確だろうと思わされた。

 そして私は余計な一人言を漏らす。この頃にはもう飴玉は溶けきっていた。ので、問題なく喋ることができた。

「初めまして、新しい私の閉鎖へいさ社会♪」

 元来から、学校や寺子屋といった施設は閉鎖的コミニティなのだ。今まで私がどれだけハブにされて来たと思っている。

 私は無意味に怒りを抱きながら、皮肉を込めた言葉で新学校を向かえたのだ。それはそうと、いつまでも感慨かんがい深く悦に入っている訳にも行かないので、今にも空を仰いでしまいそうな角度の顔を正面に下ろす。そんな私の視界に入ってきたのは、生徒会とデカデカ書かれた紙をタスキのように肩にかけた人物からなる片手で丁度数えられる程度の人数の集団だった。要するに生徒会だった。

 そしてそのウチの一人、生徒会と書かれたタスキを身につけている人物と目が合う。瞬間、私の脳はこれまでになくフル回転したと思う。いや、これまで幾度いくどとなくフル回転していた。さらに言うならば、これまでに人間関係において失敗した時は、必ずと言っていいほどこの状態だったと記憶しているが!

『コイツは間違いなく陽キャだ!!!』

 そう、私の脳は警鐘けいしょうを鳴らす。そしてすかさず目を逸らす。

 目が合った途端から、駆け足で近寄ってくるその人物。その足取りは女性的な軽快さを思わせる一方で、変に鍛えられているような身のこなしの良さを伺えるものだった。

 して、その人物の顔つきはというと…。それを見ようと再び目を合わせた途端、爽やかな笑顔を浮かべてきやがったのだ。

『こいつフィーリングを心得てやがる!』

 そう思えばこそ逃げられないことを私は悟り、ますます動けなくなってしまった。

 私はこれまで哲学の一貫として人間観察をして来たのが、こんな形で裏目に出るとは思っていなかった。

 そしてすぐに私の目の前まで到着した人物は、スラットした足に健康的なクビレと、153cmを誇る私が見上げることになる160は余裕だろうかと気脅けおどす高身長!!

「ハァ…ハァ、君っ! 見ない顔だね…今日から編入する2年生っていうのは君かな!」

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