第10話 エピローグ
────長い、長い夢を見ている気分だ。
まるで海に沈むかのように、冷たくて、暗くて、黒い世界。
私はだんだん底へと向かう。
果たして底に何が待っているのかは、てんで分からない。
ただ漠然と、まだ辿り着きたいような気分ではなかった。
しかし、抗う気力が湧いてこない。
これは、ある種の
考えるだけで、動けない。
それはきっと、心が負けているから。
………何か、きっかけが欲しい。
上へと向かう
だから、何か─────────。
───────何かが私の腕を掴んだ。
それは、ありえないほど冷たくて、だけど、同時にはっきりとした熱があった。
そいつが、私を上へと引っ張る。
しかし、それだけ。
少し上昇した程度で熱は消えた。
まるでそれは、後は自分で泳げかと言うように。
………そうだ。ここからは私の番だ。
アイツが示した以上、生きることを選択した私が諦めるのは論外だ。
必死に、上に向かう。
誰のためとかではなく、ただひたすら自分のためだけに、私は
───だんだんと、あたりが明るくなる。
それは、もうじき夢から覚めるような、そんな感覚に似ていて────────────。
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「それで!そのあとどうなったの!?」
「………話は最後まで黙って聞くものよ、ナツ。…
……そうね、このあと病院に運ばれたその子は紙一重で助かった。奇跡的だ、ってお医者さまに言われたわ。はい、これでめでたしめでたしよ。早く寝なさい」
「えーー。なんでそんなオチがテキトーなのー」
「その子はそのあと死神さんとお付き合いしたの?」
「いや、ナイナイ。そんなの姉さんが相手見つけるくらいありえないよ。第一死神さんはその子の名前も聞かなかったんでしょ?脈なしだよ」
「………アカリ明日覚えてなさいよ。さぁ話はしてやったんだから、みんなとっとと寝なさい。神父さまに怒られたくないでしょ」
はーい、と目の前にいる子たちが返事をする。
はぁ、と小さなため息を吐く。
子どもの寝かしつけにすら手こずるなんて。
果てには、「何かお話聞かせて、そしたら寝る」と言われたものだから………あくまで体験談ではなく、作り話のようにあの出来事を語ってしまった。
「…………まぁ、いいか」
なぜなら、そんな自分も含め、私は今の自分に満足しているのだから。
私はあの交通事故から生き伸びた。
本当に奇跡的だったらしい。あと一歩遅かったら死んでいた、とまで言われた。
その後、私は会社を辞めた。
あそこにいてもなんの得もないからだ。
どうせなら、もっとやりたいことをしようと思った。
結果的に、今は孤児院の日雇いシスターみたいな形で仕事に励んでいる。
子どもたちからは慕われていると思う。……多分。
それから、死神についてだけど─────目覚めたとき、死神の姿はなかった。
それ以降も再び会うことはなかった。
あのときの私は、精神的にかなりやられていた。
死神なんて本当はいなくて、全ては都合のいい幻覚だったのかもしれない。
けど───────、
「都合のいい幻覚でも、誤解でも、それで救われたのは事実だから」
だから、感謝だけは忘れたくなかった。
「ん、そういえばアイツには名前聞かれなかったし、教えなかったな」
さっきの子───アカリの言葉を思い返す。
だから、脈があるとかないとかは正直どうでもいい。
でも、私の名前を知らないというのは、なんだか歯がゆい気分になる。
………まぁ、アイツのことだ。
名を聞くのは魂を攫う時だけ、とかそういう変なプライドでもあったのだろう。
考えると馬鹿らしくなってきた。
これっきりで終わりにしよう。
────アイツとまた会えるとしたら、それこそ本当に死ぬときだけだろう。
どんな死因で、いつ死んでしまうかも、まだ分からない。
もしかしたら長生きも出来ず、最悪、一人孤独に死ぬ未来になるかもしれない。
けど───私は私に満足して、絶対に後悔だけはしないように死にたい。
それが、死神に返せる───────最大級の恩返しだと思うから。
だから、生きる。
また会ったときには、「楽しかった」と伝えられるように。
そして、私の名前を、誇りを持って伝えられるように。
私は、残りの人生を、精一杯生きてみようと思った。
END
死神のアイツと死にたい私 べやまきまる @furoaraitakunai
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