第8話 運命力

 死神と別れてから一夜が明けた。

 今日は、本当だったら私の命日になるはずだった日。

 だが、今になってはもはや平凡な一日に過ぎない。

「あ……会社」

 時計を見る。

 …………。

 どうあがいても間に合わない。

「ま、いいか」

 そうだ。あんな会社辞めてしまおう。

 もともと楽しくなかったのだ。

 辞めるには丁度いいタイミングだ。

 ………これからどうするかは決まってない。

 でも、きっと前よりかはマシな人生が待ってるはずだ。

 ぐぅ〜〜。

 腹の音がなる。

「そうだ!朝食を買いに行かないと!」

 特に買い置きしてなかったから、家に食べ物がない。

 コンビニにでも出かけよう。



 外は眩しいくらいに明るかった。

 おまけに蒸し暑く、汗がたらたら垂れてくる。

 こんななら、外に出るんじゃなかった。

「あっつい………」

 ふと、暑さを忘れようと他のことを考えてたら、疑問が一つ浮かんだ。

「結局、死神アイツは何がしたかったんだろ」

 アイツのやってることは、死神らしかぬものだった。

 結果的にとは言え、死神が死ぬつもりの人間を助けるなど、なんて滑稽な話なんだろう。

 本人は、興味や暇つぶしのたぐいだと言い張っていたが、それは、なんていうか────人間臭い行動だと感じた。

 でも、そのおかげで今の私がある。

 ひねくれてるけど………アイツはいいやつだった。

 たがら………今は気にしなくてもいいのかもしれない。

「あ」

 気づいたら、死神アイツと初めて出会った信号に立っていた。

 ここからアイツとの付き合いが始まった。

 アイツはお調子者で、ひねくれていて、それでいてうざったらしかった。

 だけど───死神と一緒にいる時間は、まぁ、悪くはなかった。

 ………って何感傷に浸ってんだ私。

 今は、赤信号。

 向こう側に、鎌を持った不審者はいない。

 少しだけ、寂しい気になりそうになったが、今だけは心の奥に仕舞い込む。

 ───信号が青に変わる。

 過去ばかりを振り返って、囚われてはならないと学んだばかりだ。

 だから、私は前に────────。


「危ない!!」

「え」


 ────信号は、確かに青だった。

 だからこそ、これは偶然で、理不尽で、だけれど運命的に定められたものだった。





 

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