第6話 明日への足

「だからって───お前は諦めるのか?」

「………え?」

 死神と目が合う。

 その瞳はどこか、私よりも進んだ先の何かを見つめてるようだった。

「おっと、勘違いされる前に言っておくよ。死神に死者を生き返らす権能はない。だから、お前の家族はどうにも出来ない」

 別にそれほど期待してたワケじゃない。

 だから、あまりショックは受けなかった。

「言いたいのは、もっと別のことだ。………そうだな。新しく幸せになれる方法を考えたらどうだって話だ」

「だから、私はもうそんな感情モノないんだって───」

「だーかーら!そういう所が気に入らないんだって。そうやって何でもかんでも諦めて、決めつけるから陰気なんだよ。少しは自覚したらどうだ?」

 死神が子に説教でもするかのような口調で怒った。

「じゃあ………私はどうすればいいの?」

「やっとまともに聞いてくれる………。まぁ、いいや。お前がしなきゃいけないのは原因への対処だ。それさえ何とかすれば幸せになれる」

 ………原因。

 私が幸せを感じなくなったのは、家族を失ってからだ。

 これが、おそらく原因。

「でも……もう私の家族は戻らないんだよ?」

「あぁ、わかってる。死んだ人間は生き返らない。死神だからこそ、誰よりもそこら辺は理解してるつもりだよ。だから、論点を変えよう。変えるのは───お前の気持ち。過去に囚われたお前の心をどうにかするしかない」

「私の……心?」

「そう、お前の心さ。ここに一人囚われるのも、そこから進むのも、全てがその一つで決まる。まぁ、進むにしろ明日死ぬんだから、結局は一日限りの、最期の幸せになるけどね」

 ………相変わらず一言多いヤツだ。

 だけど────少し期待が生まれたのもまた、事実だった。

「………出てって」

「……え?」

「いいから出てって!」

 無理矢理死神を部屋から押し出して、カギをかけた。

「え?!ちょっ……!何でだい!?あれだけ真摯に付き合ってやった俺をこんなぞんざいに扱うなんて、人の心がないのか!?」

 恩着せがましい。

 そして、やかましい。

 今は少し、自分の時間が欲しい。

 それに、───死神コイツを追い出さないと、なんだか判断が鈍ってしまいそうな気がした。


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