脇指の魅力について

一文字

個人的な所感です。

脇指の魅力は長いのでこっちで。


簡単に言えば値段にあると言える。

大雑把な価格差を割合で言えば定寸の刀10に対して短刀4-6、大して脇指は3-5といった価格の差がある。口さがない人に言わせれば中途半端。刀に足りない長さであり、武士の差料ではないと言った目線での価格評価なんだろう。短刀も基本的には同じだが一見で見やすく軽くて名品・名物も少なくない。


純粋な脇指はカテゴリーとして出てきた時代が比較的新しいのもあって、同じ長さのカテゴリーに属しやすい小太刀を除けば鎌倉以前の古名刀というのは無いと言っていい。


まぁ間違ってはいないし、それも一つの見方には違いないので否定しても仕方がない。しかし、しかしである。そこで脇指に価値がない、魅力がないとは決してならない。


短い、成程……しかし見やすいのでは?

短刀とは違って一見で見れない、成程……しかしそれなら安い上に長い分お得なのでは?


短所は長所の裏返しとはよく言ったもので、種別としての差を考えれば考えるほど魅力的に映るのが脇指スキーたる所以とも言える。じゃあカテゴリーとして魅力的な脇指ってなんだろうって考えると、大雑把に考えて以下の五種類のどれかに属すると考える。


1、室町以降の元から脇指として作成された品。

2、南北朝期等に見られる大ぶりな寸延短刀。(小脇指に属する)

3、刀や薙刀・長巻が磨上られた結果脇指になったもの。

4、室町時代に片手打の刀として作られたが、寸尺の都合上脇指に属する品。(大脇指に属する)

5、無銘小太刀として作られたが脇指として認識されているもの。


並べてみると分かりやすいけど、長さでくくった刀・太刀・短刀以外のナニカというカテゴリーだ。短くは組打用(と思われる品)から添差、町人差から武家の一本差まで色々ある。


質を問いたいなら古名刀も大磨上や寸延短刀ならそれなりの数がある。新刀以降なら大火で失われた武家の差料の代替品や豪商や札差の注文打(であろう品)といった入念作も少なくない。


こういった品と同等の出来の刀や太刀を購入しようと思えば数倍になるし、短刀は収まるところに収まっていたり、そもそも作られていなかったりと探しづらい。


翻って脇指ならどうだろうか。お店にもよるけれど仮に3分の1だとすれば、異なる体配や短い事に目を瞑る事が出来ればで2振、3振と違う作者・作風を楽しめる事になる。(無銘ともなればそれ以上の差になるが、個人的に無銘の脇指を求めるなら南北朝期以前の作品に限りたい。)


それでいてカテゴリー的に出来が劣る訳ではない。基本的に個々の作品間での出来・体配の差はあっても値段に反映される筈である。まぁ元より定価は無いので、刀剣商間や重要刀剣の指定でもあれば、ある程度はひっくり返ってしまう部分でもあるのですけども。


また今迄持ったことのない人の入門用にも最適。

室町~江戸の刀のメインストリートの五固伝の在銘作や、著名工の弟子筋の在銘作といった品も(比較的)選びやすいのです。とは言え人気が先行しがちな流派(同田貫・村正の千子)や名工(虎徹や兼定といった最上作付近)は脇指でもお値段が嵩みますので、その辺を避けていけば予算に応じた好みにある程度沿った品が手に入りやすいと言うだけなのですけども。


刀の価格上昇要因は「名前・出来・身幅・長さ・重ね・典型作か否か・刀身彫で著名な自身彫作」などが上げられる。健全で典型的な作風を示した作品でも長さ一つで半値以下で買える……事もある。逆に傑作なら普通の刀より少し安いぐらいで買えるかもしれない。


そう言った部分を踏まえた上で脇指を楽しめる気がしてきたなら。

足元に脇指と言う素敵な沼がある事に気付けたと言う事です。個人的には過去持っていた愛刀も今の愛刀も脇指ですから、私自身この沼の居心地の良さは「出来を選べて財布に優しくて最高だよ」と声高に叫べます。


どうでしょう、刀剣趣味にもし興味を持たれたなら……この沼に身を浸してみませんか?案外心地いいかもしれませんよ。

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脇指の魅力について 一文字 @IchiYosiSukeNori

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