【第三章】皇子さまからの求婚/【第四章】クラスメイト

part3:

「やあ、久しぶりだにゃ」


三日ぶりのVR空間ヴァーチャルリアリティだけど、アストロはあたたかくむかえてくれた。

わたしは体調たいちょうを崩してずっと寝ていたのだ。小学校もお休みした。


現実世界リアルで健康状態が悪くなると、小学校だけじゃなく仮想現実ヴァーチャルにも行けないことを知った。


ママが厳しく「寝てなきゃダメ」と叱るからだ。


けれど良いこともあった。咲良さくらちゃんがお見舞いに来てくれたのだ。

それも毎日、学校が終わるとその日の授業のノートとプリントを抱えて……、

「それは良かったにゃ。咲良ちゃんと友達でいられるのは今だけだから、しっかり思い出を作るんにゃ。もう地球には戻れないのだから」


そうか。アストロの星へ行っちゃったら、もう咲良ちゃんとは会えなくなっちゃうんだ。


それって、悲しいな。


……あれ、でもアストロはどうやって来てるの?


「僕は地球にはいない。自分の星から語りかけているにゃ。愛依ちゃんが見ているのはホログラムにゃ。ワープホールという技術を使った通信方法だにゃ」


「その技術を使えば咲良ちゃんと出来るの?」


「まもなく僕の星は次元上昇ファームアップして、混沌こんとん魔王まおう『ブラックホール』がみちび事象じしょうの地平面、特異点とくいてんのさらなる向こう側へ移動するにゃ。今の宇宙とは異なる空間へ行っちゃうから、ワープホールも使えなくなるんにゃ」


「うーん、やっぱりアストロの話ってよくわかんないな。つまり、今はまだ星の皆はワープホールで地球のわたしたちと出来るんでしょう」


「ふむん……、」とアストロは少し首を傾げながら「一般のは使う権利が無いんにゃ。僕は皇子おうじだから特別なんだにゃ」と語った。


「えぇ、アストロって皇子さまだったの!?」


「あれ、言ってなかったかにゃ。僕は中性子星ちゅうせいしせい『アストロ』の皇子にゃ」


そういえばアストロの普段の姿って、どういうのだろう。

「あなたの、本当の姿がみたいわ」


「以前にも言ったけど、地球ではこれが僕のからだですにゃん」


「そうじゃなくて、アストロ皇子のときの姿が見たいの」


「今は無理にゃ。地球のかせから抜け出せば、いろんなことを知るにゃ。それまで我慢にゃ」


アストロに対して、ずっとうたがわしく思っていることがあった。

チャーミングな黒猫の姿をしているけれど、本当の姿は全く違う──黒猫って魔女の使い魔だったり、死神の化身けしんだったり、小説ではそんな描かれ方をする。

ひょっとして、わたしを『死後の世界』から迎えに来たのだろうか。


「さあ、愛依ちゃん。ダンスの練習をしよう」


「やっぱり、わたしアストロの星へ行くのは怖いわ」


黒猫の大きな瞳が揺らいだ。動揺どうようしているようにも見えた。

「愛依ちゃんと離れたくないにゃ。ダンスコンテストで優勝すると僕のきさきになれるんにゃ。僕のそばにずっと、ずっと、一緒に居て欲しいにゃ」


「え、それってプロポーズなの!?」


「嫌かにゃ?」


アストロはさびしそうな顔をした。

黒猫さんの奥さんかあ、悪くはないけど……あ、違う違う。黒猫の姿は仮のものだったわ。本当のお顔をわたし、まだ見てない。


「あなたの本当の姿を見せて。それが条件よ」

フィアンセの顔さえ知らないなんて不公平だわ。だってアストロは、わたしが垂れ目で、下ぶくれ顔だってことを知ってる。


アストロは少し考える素振りをしてから、

「ダンスコンテストの当日になったら、僕はこの躰を脱いでみせるにゃ」

と約束した。


「うん、それで良いわ」


アストロが死神しにがみ閻魔えんまのような怖い顔をしていても、奥さんになってあげよう。だって死んじゃったら、どのみち咲良ちゃんや、パパやママとはお別れするのだ。だったらアストロの星で暮らすのも悪くない。


「愛依ちゃんが優勝できるよう、今から特別なステップを教えるにゃ」




part4:

いろんな事がありすぎて、放課後はとしていた。

咲良ちゃんが「大丈夫?」と心配してくれたけど──大丈夫なようで、本当は大丈夫じゃないのかもしれない。


大場太陽おおばたいようがね、泣いていたのよ」


猫相手に独り言を呟くように、わたしはアストロに言葉を投げかけていた。


「ふむん、大場太陽というのは同級生かにゃ?」


「すっごい意地悪な男子。今日もわたしのことをなんて言うのよ、頭に来ちゃう」


「それで、その男子を泣かせたのかにゃ。愛依ちゃんは思っていたよりお転婆てんばさんなのかにゃ?」


「違うわ、わたし男子を泣かせたりしないもん。あいつが勝手に泣いたのよ。体育の時間に勝負を挑んできたから短距離走で負かせてやったの」


「ああ、それで負けて悔しくて泣いたんだにゃ」


「違う違う。走ったすぐ後で、わたし具合が悪くなって血を吐いたの。先生と咲良ちゃんが医務いむ室に連れていってくれたんだけど、それを見てあいつ泣いてた。なんか、ごめんなさいとかあやまってた。土下座どげざまでして、床を涙でらしていたわ。それを見ていたら可愛そうになって──だから言ってあげたの。大丈夫よ、あなたが悪いわけじゃないからって」


「ふむん、愛依ちゃんは優しいにゃあ。その男子を責めなかったんだ」


「だって嫌でしょ。お節介せっかいすぎる心配なんて」


「やはり愛依ちゃんは救済きゅうさいされるべき魂なんだにゃ。地球にいるのは何かの手違いにゃ」


「なんのこと?」


アストロはジッとわたしの顔をみると、にやり、と笑った気がした。本当はそう見えただけで笑顔とは違うかもしれない。だって猫の笑顔なんてわたしは知らないもの。


はるか大昔。愛依ちゃんの今のからだが作られた頃よりもっと昔の……愛依ちゃんのお母さんの、さらにお母さんの、もっとお母さんの……」


「うんうん、ずっと昔の話ね。恐竜さんがいた頃?」


「恐竜なんて本当はいなかったにゃ、あれはあとから作ったおとぎ話にゃ」


「え、恐竜はいたでしょう。化石かせきもたくさん出ているわ」


「まあ、そのは今度教えてあげるにゃ。とにかく大昔にこの宇宙をべる帝国ていこくがあったんにゃ。その帝国が犯罪者はんざいしゃを閉じ込めるために作ったのが地球なんにゃ」


「えーっ、とぉ?」


「つまり地球は宇宙の刑務所けいむしょだったんにゃ」


「そんなぁ!」


「本当だにゃ。永遠とわ宇宙こきょうかえることが許されない、終身刑しゅうしんけいを受けた極悪人ごくあくにん刑務所にゃ。脱獄だつごくしないように地球の原生げんせい生物のからだに魂を閉じ込めて、地球じゃにゃきゃ、生きられないかせめられたんにゃ。それが地球人にゃ」


「わたし信じない。だって地球には良い人がいっぱいいるわ、そりゃあ少しは悪い人もいるけど」


「良い魂というのは咲良ちゃんの事かにゃ。愛依ちゃんの友達だから少し調べてみたけど、普通の地球人だったにゃ」


「なに言ってるの。咲良ちゃんは良い子よ。アストロなんて嫌い!」


「ああ、わかったにゃ。咲良ちゃんについては調査を継続けいぞくするにゃ。それよりダンスの練習をするにゃ。もうあまり時間が残ってないにゃ」

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