【第一章】未知との遭遇/【第二章】星空でダンス
part1:
お風呂からあがって新しいパジャマに着替える。わたしはVRのヘッドセットをかぶった。近所のお兄さんがオートバイに乗るときにかぶる、あのヘルメットに似ている。鏡で見るとわたしもお兄さんと同じライダーだった。
違うのは何本ものコードが伸びていて自由に動き回ることが出来ないところだ。
一本は電源コンセントだけど、三本が束になったコードはパソコンのそれぞれの
目の前に星空がひろがり、その真ん中に黒猫さんは立っていた。
「やあ、今日も会えたにゃん」
アストロが話しかけてきた。
わたしは、どきどきしながら「こんにちわあ」と
「おや、今日は少し疲れているのかにゃ」
アストロからの
そう、確かに今日は疲れていた。久しぶりに小学校へ行ったが、相変わらず馬鹿な男子がわたしをはやし立てる。
とくに
なにが「さぼりんぼ」よ、ほんと腹立たしいわ。
でも「
「友達にゃの?」
アストロの問いかけに「うんっ」と迷いなく返事を返す。
久しぶりの教室でひとり座っていたら、向こうから声をかけてくれた女子だった。
フリルをいっぱい散りばめたドレス姿で、
「
「愛依ちゃんが嬉しそうにしていると、僕も暖かい気持ちになるにゃん」
「わたしアストロの前ではいつも楽しいよ」
「わかっているにゃん。でも、今日の愛依ちゃんはもっと、もっと、ずーっと楽しそうにゃん」
「この楽しい空間は誰にも
わたしの呟きにアストロは「任せて」と胸を張る。
「大丈夫ですにゃん。ここにはセキュリティをかけてありますにゃ。他の人が
「そんなこと出来るんだ」
「これはインターネットじゃないにゃん。宇宙とつながっている
「えぇ、そうだったの!?」
「今日は愛依ちゃんに僕の秘密を教えますにゃ」
「なあに?」
「愛依ちゃんが住む地球とは別の
これまで太陽と呼ばれていた球体は、まわりの星々をどんどん飲み込むたびに、どんどん黒さを増していく。まるで宇宙に空いた落とし穴のよう。
「あれが中性子星にゃ」
「……う、うん?」
「実は僕はいま、その中性子星からお話しているにゃ」
「えぇぇッ、アストロは宇宙人だったの!?」
「このことは、皆には内緒にしておいて欲しいにゃ」
part2:
今日も病院へ行ってきた。
先月までは一ヶ月に一回だけ通院していた。迎えてくれるお
今月からは一週間に3回。新しく
パパやママも最近は笑顔が少ない──ううん、パパはやたらとわたしの頭を
大人はみんな、わたしに隠し事をしている。
きっと、わたしに関する隠し事だ。
「おやおや、なにか悩み事がありますのかにゃ?」
ちょこんと座った『中性子星人』のアストロが、猫みたいに
「わたし、もうすぐ死ぬみたいなの」
アストロは舐めるのをやめると、大きな丸い両目でジッと見つめ「なぜ、わかったんにゃ?」と驚いたように尋ねた。
大人はみんな必死に隠そうとしているけれど、わたしはもう大きいもん。
「ふむ、」
アストロは
「そもそもタンパク質の
突然、アストロが不思議な話をはじめた。でも
「言ってる意味がわからないわ」
「愛依ちゃんの躰は地球で
「オバケになるってっこと?」
「うーん、地球人がオバケという単語を使っていることは調査済みにゃ。でも少し違うんにゃ──愛依ちゃんの魂は、ぜひ僕の星へお引っ越しして欲しいにゃ」
「ええっ、急にそんなことを言われても……それにオバケみたいな状態になってからじゃ遅いでしょう」
「どのみち地球人の躰は地球という、この惑星
この黒猫さんは、ひょっとしたら全部わかってて、それでわたしを迎えに来ているのかしら。わたしの魂だけを連れていく……それって、
「アストロってまるで……、」
怖い考えが浮かぶ。まさか、そんなハズはないよね。
「そうだにゃ、ダンスを覚えてみないかにゃ?」
「わたしダンスなんて踊れないよお。すぐに息切れするし、躰を
「愛依ちゃん、ここはヴァーチャルリアリティの世界にゃ」
……あ、そうだった。
ここでのわたしは、いつもの
「でも、どうしてダンスなの?」
「もうすぐ、
「いいのかな、わたしみたいな
「もちろんにゃ。僕のパートナーは、僕が決めることになってるにゃ」
アストロは猫特有の大きな口をパカッとあけて笑った。
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